第40話:守護神の襲来風景
ツクヨミさん、オロチくん、シヴァっちとアポロン。
それぞれのダンジョンを、ヒュム族の生息地域がカバーできるように、東西南北に設置した。
あと、神々の社も用意した。
神と眷属さんの要望を確認し、ダンジョンとともに、こちらのメンテナンス業務もこなして。ダンジョン設置をヒュムの人々に伝える日付も定まり、最終確認を残すばかり...
そう…… こんな感じで、ようやくダンジョン設置の準備が落ち着いた頃だった。
他種族の神々が、オレの社に訪れたのは…
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ロココさんと、土地神の眷属さんがくれた報告書を読んだ後のこと。
各ダンジョンをモニターに表示し、報告書の懸念事項をチェックしていると、社の玄関がノックされる気配がした。
「……え!? 地震?」
ズドンズドンと、ノックとともに空間が揺れる。
いや、ノックというのが、控えめすぎるか…
強烈なハンマーで扉を叩かれているかのような衝撃だった。
「お邪魔するじゃん!」
扉がドンっと開いたと思ったら、ものすごい神威の金髪少年が立っていた。
手に、プラチナに輝くハンマーを携えて… どうやら先ほどの地震の原因発見である。
その後ろから、続々と、強烈な神威をまとった神々が入ってくる。
ドカドカと室内に入ってきた神々を、慌ててロココさんが会議室に通す。
そして、こっそり教えてくれた。
金髪の色白少年は、ドワーフ族の神トール。
黒髪の少年は、竜人族の神、もとの英雄でもあるラグナ。
水色ヘアーの少年は、海人族の神ポセイドン。
変化する美少女は、魔人族の女神アフロディーテ。
北欧系の美少女は、エルフ族の神、もとのハイエルフでもあるイブ。
「いい部屋じゃん! 」
色白の肌に金髪が栄えるトールは、頬の傷がやんちゃであることを雄弁に物語っている。人懐っこそうな笑顔が印象的だ。
お付きは、シルバーのグリフォン。主人にべったりとは、なんとも可愛げがある。いつかナデナデさせてもらいたい...
「トール、まずは挨拶だ」
ラグナ、漆黒の髪に金色の角が二本、姿勢が綺麗で、口数が少なそうな神だ。武人オーラが漂う精悍さが印象的である。
傍らに、美しい毛並みの虎を従えている。なんとも勇猛そうだ。ラグナ以外が触ると噛みつかれそうだけど、あの肉球を触れるのであれば、挑戦する価値はある。絶対にある。
「あと、急な訪問を詫びないとね」
ポセイドンは、動きが驚くほど静かで美しい。
ニコっと微笑まれると、絵画の中の美少年が急に動いたかのような戸惑いを感じてしまう。明鏡止水というのか。曇りやよどみのない水面のような清らかさがある。
そしてなんと…! さすが超大物海神!お付きは美女人魚である… 実にうらやましい...
「社のセンスはまぁまぁね」
アフロディーテは、なんと表現していいのかわからない……
常に、顔を含め全身のどこかが変化し続けているのである。美とは、予測不可能性の中で、はかなく消え去る一瞬のなかにこそ見出されるとのこと。極めた人の境地はよくわからないものがある…
お付きは虹色の貝? やはり極めた人はよくわからない…
「あなたの社より落ち着きがあっていいじゃないの」
イブは、風を身にまとっているような清らかさを感じさせる。
エメラルドの髪に透明の眼鏡、全てを見透かされそうな黄金の瞳と赤い瞳もさることながら、知的な表情が印象的である。
お付きは火の鳥である。なんともカッコいい…! いつの日か、飛んでいるところをムービーに残そう。
なんとなく、ロココさんがジットリ睨んでいる気がするが、それには気が付かないふりをして。
念のため、咳ばらいを一つしておく。
「オレ、いや、私がヒュム族の神、カイトです」
かつてない程の、全力の笑顔を心掛けたのに……
「ラグナ真面目すぎ!かたくるしいのはいいじゃん! 」
「何事にも礼節は必要だ」
「ごめんねカイト。驚いてるよね? 」
「イブ、ケンカ売った? 」
「事実に対する評価よ。それ以上でも以下でもない」
ポセイドンさん以外、話をまったく聞いてくれない。
とりあえず他の皆さま、いちど帰ってもらえないだろうか…
そうだ。こういう時は、空気を換えるに限る!
「ロココさん、とりあえず…… 」
お茶でも…… そう伝えようとしたら、ワゴンが見えた。
飲み物やお菓子が、豊富に並んでいる。紅茶、ジュース、コーヒーに緑茶、そしてお酒の類も見える。
酒を出していいのか気になるところだけど......
まぁそうか。皆さん幼体モードとはいえ、年齢が未成年なわけじゃないもんな。
「カイト様のお過ごしになった星にて親しまれている品でございます」
その言葉に、神々はみなピクリと反応を示し、急に静かになった。
そしてここから、3日間に渡る大宴会が始まったのである……
宴会をするならと、ロココさんが大部屋を準備してくれた。
アマテラとBBQをした、大自然の景色を楽しめる部屋に、テーブルや椅子のセットを配置してある。このほかにも、のんびり座ってくつろげる畳の床スペースもある。抜かりない。さすがだ。
結局、珍しいということで、皆さん畳のスペースに座ることを希望したのである。
懐石料理のように、食事が各自に配膳される。
すでにトールがよだれを垂らしているように見えるのは気のせいにしておこう。
そして、中央のテーブルには、多様な酒類や追加のおつまみ類が、たくさん用意されている。至れり尽くせりとは、このことだ。さすがですロココさん…!
「お口に合うかどう… 」
そう言い切る前にトールが乾杯を叫び、皆さん、グイグイと杯を傾け始めた。
神々、さすがの自由奔放さである。
でも、料理と酒を褒め称える声が聞こえてくる。ホストとしては一安心だ。
「ロココさん、ありがとう」
「いえ。私どもは隣の部屋におりますので」
「うん。こっちは大丈夫だから、皆さんをもてなしてあげてね」
「ありがとうございます」
アルマジロを先頭に、お付きの動物たちがヒョコヒョコ移動していく。
なんとも癒される光景だ。
人魚さんには残っていただきたい気もするけど……
「カイト!この酒うまいじゃん!」
トールは、すでに酔っ払ったようだ。ワイン一口で…… なんとも燃費のいい神である。
気が付いたら隣にいて、肩を組みながら杯を交わすことに。オレはずっとジュースだったけど…
ラグナは日本酒が気に入ったと見える。
銘柄を確認しながら、ずっと飲み続けているからだ。先ほどから表情は緩みっぱなしで、ニコニコしておられる。お口にあったようで何よりだ。
ポセイドンは、表情が全く変わらない。
バーボンや焼酎、ワインにウォッカと、気の向くまま、ボトルを空にしていっておられる。ザルだ。間違いない…
イブは、ずっとお茶類を飲んでいる。
様々な茶葉と飲み方を試しつつ、何度もうなずいている。ハーブティーやそのブレンドにも興味を持ったようだ。
アフロディーテは、ビール一択。
世界のビールに興味を持ったのか、イギリスから東に向かい、現在はベルギービールを制覇しようと頑張っておられる。
異なるビールを飲むたびに、髪の色が大きく変わるのは、味の影響なのだろうか…
「それで皆さん、訪問の目的は何でしょう?」
「挨拶とお礼、それに報告とお願いかな?」
「そうね」
ポセイドンとイブが、反応を返してくれた。
ラグナとアフロディーテは、酒の探究を続けておられるので、まったく相手をしてくれない…
トールはというと、先ほどから、いびきをかいて眠っておられる。
ポセイドンが椅子にしているのは、そのトールに見えるが気のせいだろう…
「願い事とは何でしょうか?」
どう考えても、皆さんの方が大物なんだけども...
「実は種族の守護神である僕たちも、ウンザリしていてね」
「ウンザリですか?」
「種族大戦後も、争い続ける信者たちにだよ」
つまり、神々は仲がそこそこ良いってことか。なるほどね。
「精霊が星に戻り、争う必要がなくなった」
「世界の理を変えた、あなたの功績よ」
「いえ、変えたのはヒュムですよ」
笑いながら伝えたオレに、あなたは善神ねと神々は微笑んでくれた。
先輩に褒められたような嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。照れくささをジュースを飲んでごまかす。
「でも、互いを許し認め合うには、闘争の歴史が長すぎた… 」
ポセイドンは、どこか寂しそうに笑う。
そういえば、彼の守護する海人族は、愛に秀でている種族だった。大戦後も、辛い経験をしたんだろうな...
「私たちは、時折集まって、各種族が共存できる道を模索してたの」
「もう、千年以くらいになるかな?」
「もっとよ…… 」
互いをねぎらうように微笑みあう二人は、妙に絵になる組み合わせだ。
これがゲームなら、スクショのチャンスである。
でも、お二人とも1000歳以上か... 迫力と貫禄が過ごそうだ。
うん。気が付かなかったことにしよう。
ひょっとしたら、みんな幼体モードなのは、オレに合わせてくれたのかもしれないな。初心者神様のオレが委縮したり、なるべく気を使ったりしないで済むようにってさ。
「正直、諦めかけてたんだけどね…」
「そこにあなたが現れて、精霊を呼び戻す力を全種族に分け与えた」
「結果的に、ですが…… 」
「謙虚だね」
超大物、伝説の海神に褒められていると思うと、嬉しくも恥ずかしくも、恐れ多くもある。
「そして、あのヒュムの宣言。これは好機だと思ってね」
「好機と言うのは…… まさか」
「そう。君お得意の、マッチとポンプさ」
ポセイドンが嬉しそうに笑い、イブがその発想はなかったと残念そうに微笑んだ。
「僕ら神々が、正体を隠して、全種族に立ちはだかる悪役を演じる」
「各種族が協力しないと倒せない強大な力をみせつけてね」
「その裏で、彼らが協力しあい成長するのを助ける仕組みを提供するのさ」
「仕組みって… まさか」
「そう、ダンジョンだよ」
「神殿増設の神権でしょ? ああいう使い方を思いつくなんてね… 」
イブがまたしても、その発想はなかったのよと悔しそうに笑った。
「敵がダンジョンの奥で悪さを企む。敵と戦いそれを止めるには、ダンジョンを攻略する必要がある。攻略の途中で協力し、互いを認め合い、成長を促す関係づくりが進むようにしかける…… 」
なるほど…… ポセイドンの構想は、まさにマッチとポンプである。
自分たちで火をつけて、自分たちで火を消して、利益を得る流れだ。
火をつける(マッチ)とは、種族の敵役となり、危機を煽ること。
火を消す(ポンプ)とは、協力や成長を促す支援をすること。
この場合の利益とは、神々の思いである共生の世界をつくること。
あとは、神々がダンジョンに降臨して戦えるかどうか…
これは無理なんじゃないかな。
ロココさんも前、首を横に振ってたし。
あれ、オレはダンジョンに降臨できないって合図だったと思うんだ。
でも、敵役は神々じゃなくてもいいよな。
「知りあいの神々に頼んで、強力な眷属に敵役を頼みましょうか?」
「それじゃ、オレらがつまんないじゃん!」
ムクリと起き上がりかけたトールを、もう一度優しく(?)寝かしつけたのはポセイドンである。
「まぁ、トールの言った通りさ」
「君のように、私たちも神様業を自分なりに楽しもうって思ってね」
その発想もなかったのと言うイブ姉さんの告白に、僕も同じだとポセイドンも同意して。
また微笑みあっている。やっぱり、なんとも絵になる二人だ。
「課題は、ダンジョンに神が降臨する方法か……」
あ…… そう言えば、アマテラは自分が召喚に応じて眷属と戦うって計画を、最初に語ってた...
まさか、できるんだろうか...
「降臨ではないけど、敵役になれるかどうかについては確認済みだよ」
「そうなんですか?」
「うん。僕らは、それが可能となる神権を獲得しているんだ」
「え?」
それは、オレの知らぬ禁断の神権だろうか?
あるいは、オレにはまだ開示されていない発展的神権だろうか?
読んでくださり、ありがとうございました!




