第37話:とある未来の風景
本作から、第3部開始です。
「大和!精霊憑依を!!」
クルドの叫びに反射的に黄龍が憑依し、黄金の衣を纏った大和。
彼の前には、美しい金髪をほこる色白のやんちゃそうな少年が、挑発的な表情を浮かべて立っている。
「いくぞ!」
瞬間移動のような速度で繰り出された大和の拳が、少年の腹にめり込む。
彼の表情が、一瞬、歪んだ。
「…っはあ」
勝負あった…… 少年のうめき声に、誰もそう思ったはずだ。
しかし、その少年は笑ったのである。
「久々の痛み、気持ちいいじゃん! 大和だっけ? やるじゃん!」
いい獲物を見つけたと言わんばかりの表情は、見ている者に戦慄を与える。痛みなど、みじんも感じていないことが明らかだからだ…
「今度は、我のターンな!」
少年が、長めの柄がついたプラチナ色に輝くハンマーを握り締める。
「鳴け、ダークミュルニル!」
その命令に応じて、ハンマーは立体型魔方陣を空中に登場させた。
魔法陣は天高くまで積み重なり、瞬く間に雷の雨が降り出す。
「黄龍!」
叫びに応じるように、黄金の衣が大和を包み込む。
すぐさま雷鳴が轟き、強烈な閃光が人々から視界を奪い...
観衆の悲鳴が聞こえるなか、ようやく人々に視力が戻ったころ、少年の愉快そうな笑い声が会場に響く。
「ふはははは! 我の一撃に耐えるか。やっぱやるじゃん!」
攻撃が効かず腹を立てるどころか、少年は心底楽しそうだ。
「なんつー威力だよ。ふざんけんなっ…… 」
大和の黄金の衣は、その一撃のせいで崩れ去り黄龍の憑依が解けている。
クルルは、愛しい大和を案じた。
「大和!」
地面を踏み込み、大和のもとへ駆けようとした瞬間、体が重くなる。
「!? 束縛の魔法か?」
焦ったクルルの問いかけに、黒髪の少年は、ため息をこぼした…
「魔法ではない」
その一言で、クルルはようやく気づくことができた。少年の存在に......
そして彼が放っている圧力で、体が動かないのだと悟った。
「開幕に歓喜せよ。滅びの音は我のもの。滅びの声は汝のもの……」
クルルが反射的に、切り裂くものの短文詠唱を始める。
「竜人族がそのような力に頼るとは、情けない」
クルルの前に悠然と立ちはだかる少年。
その耳の上からは角が生えている。間違いなく、竜人族の証だ。
しかも、まばゆい黄金の角…… 少年が超越者であることを意味している。
「お前は、誰だ?」
クルドが叫ぶ。見知らぬ同族に、いら立ちを隠せない。
「支配する者だ」
挑発的に笑った少年は、足元に拳を叩きこんだ。
地面がひび割れ、周囲に強烈な衝撃波が走り…… 辺り一面に、暗黒の光が舞い踊った。
なんとか衝撃波に耐えたクルルを、更なる絶望が襲う。
「さぁ、準備運動は済んだ。いくぞ?」
少年の余裕さが、クルルにはプレッシャーとなる。
先ほどの一撃は攻撃ではなく、たんなる運動だったというのだ。クルルはその衝撃波だけで、ダメージを負ったというのに…
「クルル…!」
叫んだクルドの前に、今度は美しい少女が舞い降りる。
「あら。いい男じゃない。竜人族にしては、まぁまぁね」
美しい銀色の長髪と瞳をたずさえ、黒いローブで全身を包んだ少女。
その声が、会場を甘く包み込む。
少女が一歩歩くたびに、その見た目が変化していく。銀髪が水色のショートヘアに、瞳が黄金色に変わったかと思えば、二歩目には緑色の長髪と大きなオレンジの瞳が、人々を魅了する。
「あと10歩よ」
「何がだ!」
「10歩で、あなたは私の虜になる」
「っ?!」
「ほら、あと9歩」
「ふざけるな!」
叫びながら距離をとったクルドに、少女は微笑みかける。
「残念。距離の問題じゃないのよ。ほら、あと6歩」
少女の見た目が、また変化する。
「あなたの本能に眠るもっとも惹かれる容姿に、私は近づいている」
歩み寄ってくる少女を見ながら、クルドは絶望した。
つまりあと5歩で、自分の性癖が暴露されるのか? と……
皆が絶望を感じている沈黙を、爆音が切り裂いた。
気が付けば、爆音とともに、舞台の中央に大きな水球が登場している。
水球の裂け目から、中性的な容姿の少年が現れた。水色の透明な輝きを放つ髪には王冠が、その両手には槍が握り締められている。
「悲壮5番 ―勇者の涙」
曲名を告げた後、少年は静かに舞いながら歌う。美しく澄み渡る声で。
会場のすべてが、その残像の残る速度で悠然と続けられる舞と、心に直接響く歌に、涙をこぼした。
時間にして数秒…… 少年の周囲の景色が夕暮れ時の太陽のように輝いた途端、大和とクルド、クルルはその場に倒れこんだ。
会場は、一瞬で静寂に包まれる。
「我らは‘壊すもの’。ダンジョンの最下層に住まう者たち」
最後に登場した少年が、会場にいる多様な種族の観戦者に語り掛ける。
「そしてお前たちに、厄災をもたらす者だ。これより我らは、この星を滅ぼす準備にはいる」
黒髪の少年の声が、彼らの冷酷な目的を開示する。
「猶予は4年よ?」
美しい少女の声は、悲鳴を引き起こした。
「我らを倒しにこい! ただ、我らは強いじゃん? 全種族で協力してかかってこいよ! 楽しめないからな?」
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「カイト様…… 」
「うん……」
武術大会の決勝に、突如として乱入した少年少女たちのせいで、モニターの向こうは大混乱である。
「やりすぎかと... 」
「かなりね...」
「いいなぁ。僕も参加したかったなぁ」
アマテラさん、まさかの参戦発言である。
オレとロココさんとがため息交じりで放った嘆きは、大物女神には伝わらなかったようだ…
実はあの少年少女、神々である。幼体モードになってはいるけど...
金髪のじゃんじゃん言う少年は、ドワーフ族の神トール。
黒髪の少年は、竜人族の神、もとの英雄でもあるラグナ。
水色の少年は、海人族の神ポセイドン。
変化する美少女は、魔人族の女神アフロディーテ。
つまり、他種族の神々、ノリノリで戦い、武術大会の美味しいところを最後に全部持って行っちゃったのである。
「カイト! ただいまじゃん! ちゃんと録画できた? 」
ガヤガヤと部屋に入ってきたのは、幼体モードの神、トール。
ラグナ、ポセイドン、アフロディーテも続き、我が家のテーブルを囲んで、当然のように桜餅やポテトをフライしたお菓子などを召し上がっておられる。
本日、お留守番役だったエルフ族の神、ハイエルフのイブ姉さんは、さきほどからずっと、優雅に紅茶を堪能中である。
では、なぜこんな状況になっているのか?
全ては、大和の宣言を、神々が聞いたあの日にまで遡ることになる……
読んでくださりありがとうございました!
チートな登場神物、増えてきました。書いていて楽しいです。




