第32話:残念領主と英雄あるある
「しかしヨワヒム、本当に残念領主だ……」
「人間らしいと僕は思うけどね」
「まぁ、そうなんだけどさ」
「しかし、これはやり過ぎだね」
「同感。さすがに腹がたつ」
ヨワヒムは、帰りがけに、さっそく嫌がらせを開始した。
希望の里の人々が丁寧に育てている畑に火を放ったのだ。異常を感知したアマテラさんは雨を降らし、ウンディーネさん(水の精霊)が炎を消し、ノームさん(土の精霊)が、炎が延焼しないように土壁を作った。
文句を言っても、領主たちは、しらばっくれるつもりなんだろう。言いがかりをつけるなと、抗議を跳ね返すつもりなんだろう。
しかし、分かっていない。
消火したり、ともに悲しみを共有したりして、領主の行為は結果的に、里の人々と精霊たちの絆をさらに深めることになった。
火事がうまく成功しなかったと知ったヨワヒムは、次の手を打ってきた。
「まったく残念領主だ」
「僕も同感だね」
「このスピード感で、人々を助ける政策をとれば人気も高まるだろうに……」
ヨワヒムの次の手とは、人の移動や物流を邪魔する作戦である。
しかし、これも失敗に終わった。
里の人が外に出たいのではない。外から、この里に、人々がやって来たい状態にあるのだから。
魔法や精霊の顕現など、希望の里には、人々を引き付ける多様な資源が蓄えられている状態だ。豊富になりつつある農作物、農工具といった製品、桜餅といった特産品等々もある。希望の里に集まっている資源を、自分たちの集落に拡散させようとする方向で、里の外に住む人々のエネルギーが働いている状態なのである。
当然、非難は道路を封鎖した領主に向けられ、通行人たちが力づくで検問を解除させた。まったく下調べをすることなく、短絡的に物事を考えて実行するあたりも、とても残念領主だ。
そして最後が、ぬれぎぬ策である。
大和と精霊が領主に怪我を負わせたため、厳罰に処するとの通知を、里に向け一方的に送ってきたのだ。
なんと、ヨワヒムの領地にて裁判の後、すみやかに処刑を行うとのこと。
呆れてものが言えない……大和は、精霊たちが激怒することはするべきではないと教え、領主を救ったと考える方が、適切なのに。精霊は、誇り高い。自らの大切な人たちを虐げられて黙ってはいないだろうから。
これに対し大和は、紅蓮と黄龍を携えて、領主の城に向かうと回答した。
そして今、モニターの向こうでは、大和を糾弾する声明文を、領主の付き人である文官が述べているところである。闘技場のような広場に、人々が集っているなかで、裁判が進められている……
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「領主さま、ひとつ申し上げます」
大和は堂々と、大きな声で宣言した。
「オレと精霊が意図的に何かしたというのでれば、領主さまは跡形もなく消し飛んでいる」
紅蓮が、闘技場のゲートを一瞬で炎の氷で多い、粉々に粉砕した。
その破壊力に、感嘆と悲鳴が轟いた。領主や文官は、腰を抜かして座り込んでいる。兵隊たちも一歩も動けず、領主を守ろうともしていない。
「上位精霊の紅蓮は、あなたや兵隊の全てを、一瞬で、あのゲートのように粉々にできる。軽く力を振るっただけで、ああなる。傷を負わせるなどと、中途半端なことはしない。する意味がないからだ。では、あなたはなぜ、生きてそこに座っていられるのでしょうか?」
会場に不思議な沈黙が流れる。
「あなたが生きていることこそが、紅蓮や精霊たちが手だししていない証拠だ。そして、怒りに満ちた紅蓮と黄龍が、今この場であなたたちに手だししないように留められるのは、誰か。そう、あなたが生きていることこそ、私が今、あなたの命を守っている動かぬ証拠だ」
堂々とした少年の語りに、会場に集まった人々が引き込まれていくのがわかる。同意を示す声も、聴こえてきた。
「それで、私たちを何の罪で処刑するつもりなのか?」
領主の陣営が、誰も、何も答えられない様子を確認し、大和は人々に向かって語り始めた。
「希望の里の者は、ヒュムを傷つけるために魔法は使えない。精霊は誇り高い。里の精霊たちは、その誇りにかけて約束してくれている。大切なものを傷つけぬ限り、彼らは我らを守るために力を貸すと」
幼体に戻った紅蓮を抱き抱え、頭を撫でた。
精霊が無害であることを、精霊とヒュムの間に友情が成立することを、示して見せたわけだ。大和、なかなかやるじゃないか。
「このようにあらぬ疑いをかけて、何を生み出そうというのか。何をもたらそうというのか。他種族によって虐げられる苦しみを知りながら、その苦しみを同族に与える。そんな愚か者の集まりが、ヒュム族なのか? 」
人々は、目を輝かせて少年を見ている。
まだ13歳程の少年が、この場で誰よりも人々の心を動かし、人々に思考を促し、人々の力や尊厳を引き出そうとしていることを、理解し始めているからだろう。
「ヒュム族は、自らの意思と行動で、弱きものを助けながら、この不毛な大地を切り開いてきた」
少年の声は不思議と会場中に響き渡り、胸を熱くさせる。
「この場には、いないのか? ヒュム族の誇りを持つ者は。弱きものを救い、諦めずに自らの手で未来を切り開いてきた偉大な先人たちの子孫は、この場にいないのか?」
わざと挑発するような問いかけに、若い兵士が大声を上げた。見くびるな!我らのプライドを見損なうなと。少しの沈黙の後、皆、口々に叫び始めた。バカにするな、侮るなと叫んでいる。
「ヒュム族の誇りを忘れぬ同士たち。集え、希望の里に! ダンジョンがオレらを育ててくれる!」
少年の宣言に、群衆は大歓声をもって応えた。
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「火傷少年、やるじゃないか」
「やはり彼は王の器のようですね」
アマテラとロココさんの称賛を受けるように、少年は、確かにヒュム族を導く王の器なのかもしれない。実際、先ほど、一つの時代に終止符を打った。人々が、領主の圧政を、諦めをもって受け入れる時代は、大和の手によって終焉を迎えたことになる。
あの演説は、そのまま大きなうねりとなり、人々の行動を変えるだろう。
この地の多くの領民は、希望の里を目指すように思う。まだ不毛な土地を耕し、自らの手で、誇り高く生きる道を選ぶだろう。
大和、やはり王の器のようだ...
ありがとうございました!
いつの日か、この火傷少年大和が主人公ののスピンオフを書きたい…




