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マッチとポンプで異世界神様業  作者: ゆうと
第Ⅱ部:ヒュム族平定編
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第31話:願いの定義あるある

 


 毎日、コツコツ続けている神様の重要なお仕事が、神樹へのアクセスである。



「祈りを捧げる汝の声、確かに我に届いた」

「ありがとうございます」

「汝の願いを定義せよ」


 これは、質的信仰心を獲得する取組みである。

 そして、人々の実態を確認できる貴重な機会でもある。この時に、希望の里以外の集落に住む人々の生活水準等を確認するようにしている。


 

 最近、全体像が分かってきたが、ヒュムは、思ったよりも厳しい現状にあるようだ。

 地球で言うところの、中世か、それより前の時代のような生活水準にある。住居などの生活環境、農業や牧畜など、まだまだ改善の余地がありそうだ。


 また、政治の仕組みであるが、何名かの領主が権力を有し、ヒュム族の土地を分割統治している。国王のような者は見当たらない。つまり、領主間で権力争いが発生してる可能性は高い。



 おっと、話を戻そう。

 願い事だ…… それにしても、今日も漠然とした願いが多い。



 「あの畑を、作物で満たしてほしい」「川の魚をたくさん増やしてほしい」「今年の冬をこせるだけの穀物をください」「母さんの病気を治してください」「金貨を山ほどくれ」「商売が繁盛するようにしてほしい」などなど、色々な願い事が寄せられた。



「どれもこれも、ふわっとしてるんだよなぁ」


 これじゃ、神樹は多分、独自解釈しほうだいだ。

 おそらく、期待通りに願いが叶わない可能性が非常に高い。


 畑を作物で満たしても、食べれる状態の物や美味しい物とは限らない。たくさんというのは曖昧で、大きな川に魚を10匹増やしたとしても人々は恩恵を感じないだろうし、逆に増えすぎると、川の生態系を破壊してしまい、長期的にはより食糧難になるかもしれない。


 病気を治しても、すぐまた発病してしまったり、一時的な快復だったりする。


 金貨を山ほどくれは、自分の持ち金貨や他者の金貨が横流しされてくるだけの可能性が高く、特をしないか、犯罪者扱いされるかだ。


 それに、商売繁盛って何だ?

 客が来ればいいだけなら商品が売れない。商品が売れても粗悪品ならクレームが来るだろう。


 仮説に基づけば、行為や行動が明確でないと神樹さんには伝わらないようなので、ここはヒュムの皆さんに頑張っていただきたい。



「はぁ…… 」


 やっぱり、願い事を明確定義できるようになるためには、ダンジョンを中心とした学びのシステムを、様々な集落にもつくる必要があるのかもしれない。希望の里の人たちは、割と条件設定の明確な願い事を述べるようになってきている。


 毎回、世界○見得の神権を使い、ロココさんの力を借りながら、人々から寄せられた願い事をリストアップするようにしている。それ蓄積し、内容を整理&分類して、ヒュムたちが寄せる願いごとの傾向を把握している。


 願い事は、①物質増殖系、②食物増加系、③治癒・蘇生系、④自己変化系、⑤他者排斥系の5点に、だいたい分類できる。


 ①と②は、短期的で短絡的な願いになる傾向が多い。生産環境の安定かとか、人口数の増減を含んだ、具体的な収穫量の確保をお願いするとか。安定的な生産や増産に繋がる願いをすればいいのになぁ。


 ③は、期限や状態の設定ミスが多い。元の通りにしてほしい、の‘元’が、曖昧なのだろう。怪我をする以前の状態に戻してほしいも、際どい。生まれてから怪我をする前のすべてが、以前という期間内におさまってしまうからだ。蘇生系は、生き返ることと、身体の復元とがかみ合っておらず、蘇生後すぐにまた息絶えるケースが相次いだ。


 ④については、何と言っていいのかわからない。

 まず、期限を設定していない人が多い。次に、美しくなりたいとかカッコよいなりたいとか、ふわっとしてる。誰かにそっくりにしてくれ系も、顔のみか、体もなのか、身体機能もなのか、ふわっとしている。


 ⑤他者排斥系については、基本的にスルーしている。人を呪えば穴二つ、だから。




「まぁ、こうなるか……」


 願い事が希望通り叶えられず、不満をためている人々が増えていることも、世界○見得の神権で確認してはいる。

 しかし、とてもかわいそうだが、願い事の調整も結果の修正も、神にはできない。

 

 いわゆる邪教というのか、悪事を願い事とする人々の集まりが、願い事が期待通り叶わなかった人々を煽ってもいるようだ。


 まぁ、邪教への対応も、現在、構想中だ。マッチとポンプでね。



 そうそう。

 願い事については、一度叶えられると、対象者として表示されないことも分かってきた。火傷少年の大和は、リストから外れている。

 これは願い事の内容の問題なのか、インターバルなのか、人生で一度のみ叶うものなのかは、よくわからない。追跡調査が必要っと。




「希望の里をモデルとして、ダンジョンを巡る仕組みを、他の集落にも提供するかなぁ…」


 やること多いよね、神様って。たいへんだ。



「カイト様。希望の里に、どこかの兵隊がやってきたようです」

「本当?どこのだろ…… 」


 世界○見得で、希望の里を選択し、映像で様子を確認する。



「近隣の領主が、兵隊を連れて視察にやってきたようです」

「どれどれ。あ、こいつが領主か」


 世界○見得で領主の横に登場した人物データを確認する。

 

 名前は、ヨワヒム・アジャパ3世……


 なぜかとても残念そうな響きのする名前だ。神経質そうで、貫禄ある図体をしているが、多分、人気はないだろう。多分だけど。ボンボンのおバカさんである。



「集落の者よ、領主からの命を伝える。畏まって聞くがよい」


 付き人の一人が、高らかに書類を読み上げる。

 神輿の上で、領主は偉そうにふんぞり返っている。まるで汚いものを見るような目で人々を眺める姿は、けっこう不愉快なものがある。



 一つ、この集落を、自分の領土に加えてやる

 二つ、この集落の人や精霊、ダンジョン、そこで得たものは全て領主の物とする

 三つ、一定程度の年貢を納めること

 四つ、他の領主との戦いにおいてはヨワヒム領主の指揮下で戦うこと

 五つ、領主の命に逆らった場合は一族全て厳罰に処すものとする



「ヨワヒム、やっぱりバカだった件」


 人々が、自分の命令を黙って聞くものだと信じて疑っていない。全ての命令が、従うメリットも必要性もない内容だ。

 つまり希望の里の下調べもせずにノコノコやって来たわけだ。無能である。絵に描いたようなおバカ領主である…




「いずこかの領主さまに申し上げます」


 大和が紅蓮を従えて、前方に歩み出る。



「精霊と戦うお覚悟は、あるのでしょうか? 」


 その問いかけに、お付きの文官と領主はポカンとした。



「どういう意味か。申してみよ」


 恭しく頭を下げながら、大和は説明を続ける。



 一つ、この集落の魔法や精霊の力は、洞窟の女神様よりの授かりもの

 二つ、ダンジョンは洞窟の女神様のもので我々のものでもない

 三つ、この地の精霊は自分の意思でここにいるだけで命令は不可能

 四つ、我らの魔法の力は他種族からヒュムを守るためのもの

 五つ、それゆえヒュム同士の争いには用いることができない

 六つ、この命令で精霊が牙をむくのは誰になるのか心配である



 付き人の文官は、顔を真っ赤にして怒った。


「そういった細々としたことはなんとかせい!」

「繰り返し申し上げます。我らを領民に加えたところで得はなく、被害を被る可能性が高まるだけでしょう」


 大和が変わらぬの表情で、淡々と告げる。



「精霊が怒りこの地を去れば、領土にする意味はない。怒らずに残ってもらうためには彼らに命令はできない。ダンジョンを含めこの土地の恵みは精霊と女神の加護の賜物で、無理に接収されれば怒りを呼ぶ。その怒りは我々ではなく、誰に向くことになるかは、明らかでしょう? 」


 ようやく理解できたのか、付き人も領主も、苦々しく黙って怒りをこらえている。

 一方の大和には余裕があり、その怒りの表情を何事もなく見つめて、とどめの一言を放った。



「さて、もう一度うかがいます。精霊と戦う覚悟はおありか?」

 

 最後まで余裕たっぷりの大和に対し、文官も領主もまさかの反撃に動揺を隠しきれていない。怒りすぎて、言葉がうまく出てこないのか、口をパクパクしてる。なんとも情けない姿だ。



「この仕打ち、ただではすまさん。覚えておれ!」


 領主が直接、敗者が去り際に言う聞きなれたセリフを告げて、去っていった。人々は拍手と歓声で、大和とたたえている。この流れだと、今夜も宴だろう。けしからん。うらやましい。



「大和はヒュム族を導く王の器かもしれない」

「けど、ヒュムに王様はいないんだよね? 」

「今はいないだけで、彼がそうなる可能性はあるだろ?」


 アマテラさん一押しの彼なら、そうなってもおかしくないけど。

 加護だけは与えないようにね。人じゃなくなっちゃうから。


 でも、確かに大和、たいしたものである。

 

 ダンジョンをクリアし、願い事をした段階で、こういう展開になることも視野に入れていたのだろう。ヒュム族同士の争いに魔法を用いれないような縛りをかけていたわけだ。他の種族から守るための力という条件設定が、ここで効いてくる。

 

 実にあっぱれだ! ぜひ神様業を引き継いでもらいたい。王じゃなくて、オレの引退と平和のためにも、彼に神様業をしてほしいものだ。




更新頑張れるのも、皆様のおかげです。ありがとうございます!

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