第22話:神様はすべりません
「やっぱり桜餅が一番だね。ロココくんの意見に同意するよ!」
「さすがアマテラ様、お目が高くていらっしゃる!」
ここのところ、どの餅菓子が一番おいしいか審査会が、連日開催されている。
通称、餅セレクション。
もちろん、ダンジョン攻略をモニター越しに視聴しながらだ。アマテラさんとロココさんが打ち解けたようで嬉しいよ。
そうそう。
眷属の皆さんが、精霊さんとの激熱バトルについて報告書を挙げてくれた。アマテラさんの指示ではないようだ。優秀な部下がいるんだろうな。
精霊さんとのバトルについては、今後もぜひ、継続してほしいとのこと。
精霊さんの攻撃を体験したことがある! 何秒耐えたぞ!っていうのは、眷属さんたちにとって、一つのステータスになってるようだ。次はオレがダンジョンに行くって順番争いになってるとのこと。
更に、精霊さんとのバトル後、眷属たちはミーティングを開き、傾向と対策を話し合い、総合的に学び高め合っているとか。
とても熱心で、意欲があって、素晴らしいと思う。
日々、餅を頬張ってるだけの大物女神さんのところから、オレのところへと、移籍してくれないかな。
「アマテラ、ロココさん、そろそろ攻略かもよ」
モニターを見ながら話を振ると、関東風と関西風で桜餅の形状が違うという事実について確認し、どちらがよいか議論を白熱させている声が聞こえてきた。
正直、どちらでもいい…… 言わないけど。火に油を注ぐことになるから。
「一対一の議論では決着がつきません!」
「そうだね。ここはカイトの一票で白黒つけようじゃないか!」
キリリっとこちらを見つめる二人に、笑顔で返事をする。
「どちらも桜餅、尊いことには変わりないよ」
用意しておいた回答を告げると、沈黙が流れる。
あれ?怒った?
しばしの沈黙のあと、アマテラの炎は輝きを増し、ロココさんも虹色に発光した。
「形状なんて些細なことに捉われて大局を見誤るとは、僕もまだまだだね!」
「私、今日ほどカイト様にお仕えできた幸運に感謝したことはございません!」
まさかの大絶賛である。
まぁそれで二人が幸せなら、オレも幸せだよ。
「で、ダンジョンのことなんだけど」
「おぉ、そうでした!」
最終階層で、アマテラさんの大物眷属が登場。
スウィンクスさんの前に立ち、ラスボス感を出してくれてる。
パーティは、ここで通算二度敗戦している。今日が三度目の挑戦だ。レアコアを集め、精霊召喚を複数人ができるように備えているようだしな。今回は期待も高まるってもんだ。
個人的には、ここで決着がつくといいなぁと願ってるんだけど。
敗戦から学び、集落を挙げて傾向と対策の議論を重ねてきた。その成果を、皆、固唾をのんで見守っている状態だから。
でも、眷属さんに、わざと負けてくれというつもりはない。
真剣勝負だからこそ、美しいのだ。
感動や憧れを呼ぶのだよ!
誤解してはいけない。マッチとポンプはダンジョンを舞台とした多くの人々の幸福に関するシステム(仕組み)の話であって、イカさまをせよ! という話ではない。
「さて、どうなるかな」
大物眷属さんは、さすがというかなんというか…… 過去の対戦で、精霊の攻撃に一度耐えている。
眷属内ではヒーロー扱いとのこと。
彼らのなかでは、大物さんが複数の精霊攻撃に耐えられるのか、あるいはどのように耐えるか、回避するのか…… この点が目下の注目話題とのことだ。これももちろん、先ほどのレポートにみっちり書かれていた情報である。
「お、火傷少年が動いた」
桜餅から、モニターに注目が集まる。
火傷少年がレアコアを見事に解放し、またも呼び出すもの(召喚士)へとジョブを変えた。すぐさま召喚の儀式に入る。
「太陽と闇を贄に開くは精霊の社。欲するは焔の力!」
もはやパートナーとなった感のある紅蓮を召喚するつもりのようだ。今日もきっと、彼の召喚に紅蓮は応じるだろう。
「重ねて開く!欲するは雷の力!」
少年は、次のレアコアを、ダンジョンギアに差し込み詠唱を始めた。
まさか一人で二体の精霊を召喚するつもりか!
事前に一つ、レアコアを解放状態にしておいたようだ。
やるじゃないか。確かにそれが可能なら、召喚後、パーティの戦力ダウンを抑えられる。
しかし、紅蓮だけでもあんなに消耗したのに。その後、回復するまで苦しんだろうに。なんという勇敢さだ。
詠唱によって、ゲートが二つ、空中に浮かぶ。
しかし、その扉が重い。二体同時召喚は、やはり無理があるのだろうか。
「出でよ紅蓮!!」
少年の悲痛な叫びが響き、紅蓮が扉をこじ開けるようにして登場してきた。
集落の広場には、<大型いい感じボード>を設置済みである。ふっふっふ... 抜かりはない。視聴会場の方では、皆さん、万雷の拍手で紅蓮を迎えている。
けれど、もう一つのゲートが、まだ開ききらない。
「欲するは雷の力!」
切実な願いが響きわたる。
会場も固唾をのんで見守ってる。大物眷属さんも、展開を楽しんでいるようだ。動かずにゲートを眺めている。
やっぱり無理か?
諦めの雰囲気が会場全体を包みかける。それでも少年は、ゲートを睨み続けている。
「いいから出て来いよ!この腰抜け精霊どもが!!」
少年、まさかのブチ切れである。
精霊さん相手に、なんと恐れ多い。味方とはいえ、あの攻撃力を目の当たりにしながら、ケンカをふっかけるとはたいしたもんだ。
次の瞬間、ゲートが一気に開いた。
光の向こうで、黄金色に輝く龍が舞い、少年に向かう。
「我が名は黄龍。童よ、精霊の力その身で存分に味わうといい」
ヤバいと思った瞬間、アマテラがオレの手をつかんで大丈夫だと呟いた。
その間に黄龍が少年の体を貫き、会場やパーティメンバーからの悲鳴が響き渡る。
「これはまた珍しい」
アマテラの呟きを待っていたかのように、少年の体が光り輝く。
「精霊憑依」
ぼそりと呟いたアマテラは、モニターを指さして震えている。
黄龍の衣をまとった少年が、静かに笑う。
紅蓮が駆け炎の氷で敵の動きを封じた後、雷のように駆けた少年が、右手で殴り掛かる。
パンチが当たった瞬間、世界が静寂に包まれた。
それから少し間があって後、画面が光に包まれた。雷鳴が遅れて鳴り響く。
神の目には見える。
少年の右手から雷がほとばしり、眷属さんが光に飲まれて消え去った。その後ろにいたスフィンクスさんも、吹き飛んじゃった。
少年が雄叫びをあげ、視聴会場では歓声が鳴り響く。
仲間とともに喜びを全身で表現してる。美しいシーンだ。集落の人々も、涙を流してる。
「いや~、強い。強すぎる!」
神体とはいえ、オレ、あの攻撃受けて無傷ではいられない気がするんだけど...
「ロココさん、スフィンクスさんもう一体追加できる?」
「オーダー、承りました」
人々が歓喜に包まれている隙に、こっそり戻しておこう。気が付かないふりをするのは、世界共通で大人の礼儀だから、大丈夫だろう。うん。
そういえば静かだな。
「アマテラ?」
女神は沈黙を破るように急に涙を流し始め、無言で拍手を送っていらっしゃる。
「神降臨…!」
涙ながらにそう呟かれたようだけど、気のせいに違いない。
こんな寒いアレが、神様の鉄板ジョークなはずはない。
絶対にない。
今日もお付き合い頂きありがとうございました!




