第23話:少年は願う
初の攻略パーティ、誕生…!
少年はグッタリ疲れた様子だが、歯を食いしばって耐えている。
優し気なお兄さんに、ちょっと放送できないような言葉で驚くほどキツク休むように言われ、しぶしぶその場に座り込んだ。
また、一つ学んだな少年よ。
普段優しい人ほど、怒らせてはいかんのだよ。
「ロココさん、少年の体調は?」
「すでに表示しております」
あれ? 光だけじゃなく、オーダー承りましたってところも、今後は省略していく方針なのかな。まぁいい。今度ゆっくり方針を語りあおう。
「大丈夫そうだな」
危険を示す赤い表示は、身体のどこにも確認できなない。
「じゃあ、例のアレ…… お願いします!」
「準備万端でございます」
恭しい一礼と同時に、ダンジョンに巨大な<いい感じボード>が浮かび上がった。そこに、集落の人々の姿が映り、パーティと束の間、コミュニケーションが取れるようにしてある。
いざ、遠隔参加プチレイドバトル開始…!
「次の我が問いに、我にわかるように答えよ。汝は今、どこにいる?」
集落で、一斉に言いあいが始まる。
集落の互いに意見を伝えあうみんなの姿。これがダンジョンギアから生じた手元のモニターに映り、セリフが自動で文字化される。
さほど難しい問題ではないからか、現在地を明確に答えればいいという意見や、ダンジョンにいるなどの言葉がモニターに浮かんでは消えていく。某つぶやき用のアレと似たような感じである。
パーティはその情報をモニターで確認しながら、答えを考えてるようだ。
「俺は今、ダンジョンの最下層にいる」
優し気な青年が静かに伝える。
しかし、スフィンクスは動かない。
「そして今まさに、お前の視野のうちにいる」
ニシシと笑って付け足したのは、火傷少年だ。
「理を得たり。汝はすべてを支配した」
スフィンクスさんがほほ笑んだ後、あっというまにガチャマシーンに変形した。この演出は、ちょっとこだわってる。変形ロボットは、いつだって憧れの対象なんだよ!
一人ひとり、ガチャをガチャガチャする。会場が沈黙に包まれる。
放り出された四つのボールが空中に浮かび、パカンと割れる。
ヒュムの人々にすると、どうやら神秘的なシーンのようだ。
転生者のオレからすると、この緊張感というか、ワクワクドキドキをヒュムの人にも共感してもらえて嬉しい。百円玉を複数枚握り締めて塔の前に立ち、出てきたボールを祈りながら開くのは、転生前社会では子どもの通過儀の一つだといっても過言ではない。
けれどそれは、神秘的なというよりか物欲に直結するシーンなので、そこまで感動されると、ちょっと申し訳ない気持ちにもなる。
ボールから飛び出してきたダンジョンギアが四つ、レアコアセットで空中に浮かぶ。
パーティメンバーも、視聴してる集落の人々も、大声でガッツポーズ。
これがヒュムの間で待望のアイテムだというのは、すでにリサーチ済みだ。ダンジョンギアは、手に入れた者に贈与権がある。自ら使うも良し、他者に渡すも良しだ。
そして、ボールから読んつの種がこぼれてくる。
これは、作物の種だ。
栄養状態が良くない集落のことを思い、野菜と果物、穀物類の種を渡すことにした。
これらも全て、アマテラさんの加護付き大地の力も手伝って、大量収穫間違いなしである。収穫が食糧事情を改善し、集落の特産品となってほしい。周辺集落との商いに発展していくはずだ。
「いや~、長かった長かった。神的にはそうでもない気がするけど」
何にせよ、ダンジョンはいったん閉鎖だ。
休憩期間を設けて、報酬などをリセットする。
次はもっと難易度の高いダンジョンにして、報酬のグレードアップも考えたい。敵役は、引き続き眷属さんにお願いしたいところだか、どうだろうか。眷属さんにもご褒美を考えた方がいいかもしれない。
ブツブツ修正案の検討に入ろうとしたところで、ダンジョンから声が響き渡る。
「洞窟の女神さま…!」
火傷少年とパーティメンバーが、祈りを捧げる。
おっと、どうやら願い事か? 質的信仰心を得られる機会かも?
でもそうか…… アマテラをご指名だ。
ここは大物女神の出番だな。偉大なところを見せてほしい。
「アマテラ?」
「いや、僕には神樹へのアクセス権はない。それは君の仕事だよ」
「そうなの?」
「僕は創造神の仕組みの外側にいる土地神だからね。神樹とは無縁なんだ」
「そっか。なら、オレが出る!」
アマテラの力が見れなかったのは、ちょっと残念だけど。
まぁいいや。
世界○見得の神権を用い、少年の前に降り立つ。
もちろん、彼らにはオレを視認できない。透明の自分が、彼らの前に立っている感じになっている。
「祈りを捧げる汝の声、確かに我に届いた」
「ありがとうございます」
ガバリと頭を下げる。地面にこすりつける勢いである。
そんなに畏まらなくていいのに…… でも、彼らにしたら社長登場みたいなもんだよな。気持ちは何となく理解できる。
「汝の願いを定義せよ」
神は、願いの内容を調整できない。結果にも干渉できない。
彼らが願いを定義できるような成長の仕組みを、ダンジョンに込めたわけだから、その成果が、今まさに問われようとしている。こっちまでドキドキするよ。神体だから、心臓ないけども。
「村を守る力がいる。他種族のヤツに襲撃されて、力のない俺達は、その度に負けて、傷ついてる。悔しい。村を守る力が欲しい。だからダンジョンと同じように、外でもジョブの力を使って戦いたい!皆を守りたいんだ! そのための力を、俺達ヒュム族に与えてくれ! 精霊を召喚する力を、村の外でも使えるようにジョブの力を、ずっと村を守れるように、力を与えてくれよっ」
願い事を捧げる少年の背後に、優しく微笑む女性の像が見えた。
神のオレだけに見えているのだろう。彼女が少年の母であること、その母が他種族の襲撃で命を落としたことが、映し出される。そして、母の最後を見つめることしかできなかった少年の悔しい叫びの姿が、空中に浮かんで消えた。
自分の体が怒りで震えるのを止められない。
目の前の少年を抱きしめ、励ましたい衝動にも駆られる。
しかし、それは叶わない。神にはできないこともある。
もどかしくてたまらないが、これが現実だ。
できるなら、神樹にこの願いを叶えてやってほしい。
でも、微妙なところだ。
神樹は、他種族に不利益となる願いを叶えてはくれない。あるいは叶えられない。この前提条件に、少年の願いはひっかかるかもしれない。
「汝の願い、確かに受け取った」
そう告げた瞬間、妹のセリフが文字化され空中に浮かび上がる。
吹き出しに手を触れると、それは天高く飛び上がって消え去った。願いが叶うかどうかは、オレにもわからない。
少年たちが祈りを捧げ続け、沈黙がダンジョンを、そして集落を包んだ。
「…… やっぱり無理か」
誰かが呟く声がする。
しかし、それを打ち消すような、大きな鐘の音が世界に響いた。
「何これ?」
誰かが襲撃してきたのだろうか。
「これは、世界の理が変わる音だ」
「理の鐘の音? 初めて聞いた」
綺麗だ。心があたたまるような、優しい音色だ。
それにしても、世界の理が変わるって音って何だろうか?
「僕は、つい最近も聞いたぞ」
アマテラさんの言葉に、自分の顔がこわばるのを感じる。
なぜだか、とても嫌な予感がするからだ。
「……オレ、知らない」
「それはそうだね。カイトがこの世界に生まれた時だろうから」
鳴りやまぬ鐘の音が、さっきと打って変わって、不安を掻き立てる響きに聴こえる。
「ロココさん、それって…」
きっと答えを知ってるはずの彼は、じっと寂しそうに、そして悲しそうにオレを見つめている。その表情を見て、グッと質問を飲み込むことにした。
「ズルいよ。そんな顔されたら、何も聞けないじゃん...」
多分、上手に笑えてない。ひどい顔をしてると思う。
ロココさんが悪いわけじゃないのに…… なぜかとても、腹が立ったんだ。
ダンジョン初クリアまできました。長かったような、短かったような。ぼちぼち頑張ります!




