勇者(猫)になった俺が、幼馴染(魔王)と共に魔王(幼女)を倒しに行くファンタジア
俺は……異世界転生した!
理由? 聞くな! 俺も知らん!
とにかく、俺は先日までプレイしていたとあるレトロRPGの世界の村人として生まれ変わった。俺がこのゲームをプレイしていた理由は単純で、中古ゲーム屋で108円で売られていたからだ。
結局裏ボスまで倒したのだが、結論から言うと凡作だった。
なんていうか、本当に普通のRPGなのだ。
ある日、とある片田舎で幼馴染の美少女とのんびり暮らしていると、突如魔王が復活し、世界は暗黒に包まれる。それを阻むため、主人公は幼馴染を連れて冒険の旅に出るという、超ド級の使い古された設定である。
俺はゲームをひととおりクリアしているから内容は分かっている。
今はただの村の少年に過ぎない俺が、やがて伝説の勇者になる事も。
ただ現在、少し……いや、大分困った事になっている。
「アルノー! 薪は拾えた?」
可愛らしいアニメ声と共に、森で拾った薪を抱えてやってきたのは、褐色の肌をした巨大な二本の角を持った、やたら露出度の高い妖艶な美女だった。ちなみに魔王最終形態である。
「ニャーン!」
俺は魔王である幼馴染――アイシャに答えた。
幼馴染の美少女が覚醒した魔王になっている一方で、俺は猫になっていたのだ。
ゲームの世界に転生したのはいいが、中古ゲームだったせいか、内部データがバグっているらしかった。
本当のアルノーは快活な赤毛の少年である。だが俺は猫だ。獣人とかではなく、純然たる猫だ。どっかの街とかに生活感を漂わせるため適当に配置されてる猫のグラフィックなのだ。
「ねえアルノー、何だか雲行きが怪しくなって来たわ。嫌な予感がするの。早く帰りましょう」
「ああ、そうだな」
物語は幼馴染のアイシャと俺が森に行っている時、不穏な空気を感じ取って村に戻るシーンから始まる。セリフはアイシャのまんまだが、外見は完全に魔王最終形態だ。
ちなみにステータスは俺はかろうじて勇者レベル1なのだが、アイシャは魔王なので異常に高い。
俺も猫だけど普通に喋れるし、誰も突っ込まない。
さっきニャーンと鳴いたのは気分的なものだから気にしないでくれよな。
本当ならアイシャは色白で青い髪の清純な女の子で、回復系魔法を得意とするテンプレートヒロインだ。
チュートリアルとして現れるフォレストウルフという雑魚モンスターは、アイシャの一撃で80万ダメージ食らって消し飛んだ。ちなみにフォレストウルフの体力は50だ。
まあ、とりあえず話の流れに沿って行動する事にしよう。
俺とアイシャが村に戻ると、案の定、村人たちは慌てふためき、恐怖に恐れおののいていた。
村中がまるで真夜中のように真っ暗で、濃い紫色の霧に覆われている。
一応ここまでは流れ通りだ。ストーリーでは村全体が邪悪なオーラに包まれていて、そこに人型の巨大な影が降臨し……と思ったら、魔王アスモデウスは幼女だった。邪悪なオーラをまき散らしていたのは、どこにでもいる五歳くらいの幼女だった。
「こいつも内部データずれてんのかよ!」
「何を言っているの!?」
アイシャが俺に叫ぶが、俺だってたまには突っ込みたい。
魔王アスモデウスは、俺たちと同じように外装が変わっていた。
そこら辺の街で「ここは○○って言うんだよ」とか教えてくれる幼女Aの姿だった。ていうか、真の魔王は俺の横で幼馴染している。
「クックック……矮小なる人間共。我は魔王アスモデウス。千年の封印より目覚めし者なり……」
「ま、魔王ですって!?」
アイシャが幼女魔王を見て恐怖に震える。いや、魔王はお前だから。
「アルノー! みんなを守らなきゃ!」
「お、おう」
さて、イベントの開始だ。
本当なら「おうっ!」みたいな感じで血気盛んな少年として無謀にも魔王に戦いを挑むのだが、さすがにそこまで気力が湧かない。だって魔王が幼馴染だし、俺、猫だし。
「全力で行くわよ! アルノー、私達で出来る事をやりましょう!」
覚醒状態であるアイシャが、レベル1である猫の俺に無茶ぶりしてくる。
いや、話の流れとしてはこれであってるんよ。
これは当然負けイベントなので、俺とアイシャは完膚なきまでに叩きのめされるのだ。
だが、魔王が不完全であったのと、自分に歯向かってくる弱者を面白がって殺さずに去っていく。
圧倒的な絶望感を与えられ、そこから反逆していく物語の導入部分だ。
「ほう、この状況で我に挑んでくるとは面白い。遊んでやろう」
だが、この状況を分かっていない魔王は、アイシャを逆撫でするような高慢な態度を取る。
覚醒前のお前と、真の姿を現したお前が戦ったら絶対お前負けるぞ。
この戦闘はアイシャはオートで動く。俺とアイシャが数回スキルを叩きこむと、「くだらんな」みたいな事を言って全体攻撃で俺達を瀕死に追いやるのだ。
このイベントの時点で俺の攻撃力は20しかない。本来のアイシャはもっと低い。
攻撃をしてもダメージは0。
大して、魔王の体力は99万あるし、毎ターン体力が99万回復する。
つまり、絶対に殺せない仕様になっている。
仮に幼馴染の魔王がどれだけ強攻撃を叩きこもうが、イベント上絶対に勝てないのだ。
『深淵の奈落!』
「ぐわああああああ!? 馬鹿な! 馬鹿な! この私がぁああぁぁぁ!!」
あ、魔王死んだ。ちゃんとセリフも死んだ時の奴だ。
そうだった。覚醒状態の魔王アスモデウスには『深淵の奈落』があったんだった。
これはいわゆる即死系魔法なのだが、魔王アスモデウスには耐性があって即死属性は効かない。
だが、『深淵の奈落』は別だ。これはデータ上は『属性なし』になっている。
ラスボスにふさわしく、どれだけ耐性装備を付けていても確実に一人殺される技として設定されているのである。蘇生アイテムかスキルを持っていなければ苦戦を強いられる。
当然、使ってくるのは魔王アスモデウスだけだ。味方がこんなの覚えたらゲームにならない。
そして『属性なし』だからアスモデウスにも通るのだ。
もしかしてこれで終わりなんだろうか、俺が不安に思っていると、死んで地面に伸びていた幼女がむくりと起き上がった。
「クックック……その程度か? つまらぬ。だが、我に刃を向けた勇気に免じ、このくらいにしておいてやろう。我を楽しませる強さを身につけるまで待ってやろうではないか」
「そんな……何て強さなの!?」
ストーリーだと、俺とアイシャがボロボロになって突っ伏した状態でこのセリフを言うのだが、もはや完全に負け惜しみと皮肉にしか聞こえない。
高らかな笑い声と共に、幼女魔王は地面に吸い込まれるようにして闇と共に消えていった。
よかった。エンドロールとか流れたらどうしようかと思った。
「おお……ついに恐れていた事態が起こってしまったか」
「おじいちゃん! 大丈夫!?」
おじいちゃん――アイシャと俺の育ての親である長老は、体長50メートルはある深紅のドラゴンになっていた。ちなみに、このドラゴンは本当は俺の父親である。
実は、ただの村人だと思っていた俺は、竜と人間の女性のハーフで、魔王に匹敵する力を持っている真の勇者だと分かるのだが、この竜が出てくるのは終盤なので思いっきりネタバレである。
まあ、今は長老になってるみたいなので、とりあえず流れに身を任せることにした。
「実はこれは予想していた事なのだ……アルノー、アイシャ、全てを話す時が来た。実は、アルノーはただの人間ではないのだよ」
「え、どういう事?」
アイシャの問いに対し、そりゃあ猫だからな、と突っ込みたかったが我慢した。
ドラゴン長老は、重々しい口調でストーリ上のセリフをなぞる。
「実は十数年前。バルドルと名乗る者が『私の子をかくまってくれないか。この子は世界の運命を握っている』とワシに託していったのだ」
「バルドルは俺の親じゃないだろ」
つい我慢できず突っ込んでしまった。バルドルとは、中盤で仲間になる筋骨隆々のおっさんで、パーティの父親代わりみたいな存在だ。ちくしょう、ここもデータがずれてやがる。
その設定で行くと、田舎の村の長老である竜の父親♂とバルドル♂の間に生まれた子が俺で、しかも猫だ。どんだけ滅茶苦茶なんだよいい加減にしろ。
「バルドルはこう言い残したのじゃ。魔王が再び世界に現れ、この子が育った時、世界のどこかにいる父を探す旅に出して欲しい、と。それこそが、この子に課せられた運命なのだと」
「そんな……アルノーにそんな過去があったなんて」
アイシャは心底驚いているが、父親である竜は今喋っている長老ドラゴンだ。
目の前にいる父親に父親を探せと言われても、俺は一体どこへ旅に行けというのか。
もしかしたら父親のデータも処理がずれてて、どっかのモブが父になっている可能性もあるが。
「おじいちゃん、私もアルノーに付いていくわ! だって、幼馴染のアルノーだけにそんなつらい思いをさせたくないもの」
「そうじゃのう……アイシャ、お前もアルノーに協力してやりなさい。お前も多少は回復魔法が使えるからのう」
「そうよ! 私がいれば百人力よ! ねっ、アルノー?」
「おっ、そうだな」
確かにアイシャがいれば百人力――いや、世界狙えるわ。
魔王は即死スキルとか全体攻撃は持ってても、他者を回復するスキルないけどな。
「それと、ワシからはこれをやろう。大した武器ではないが、お前の持っている短剣よりはマシなはずじゃ」
長老ドラゴンはのっしのっし自宅に戻ると、家をぶっ壊しながら中へ入っていった。
長老なら普通に通れる扉なんだけど、体長50メートルのドラゴンだと無理がある。
ドラゴンは首だけなんとか突っ込んで、宝箱を俺の前に差し出した。
確か、ブロードソードっていう長剣がもらえたはずだ。
最初に貰える剣で、俺が持ってる攻撃力10の初期装備の短剣と比べてかなり強い。
まあ、アイシャがいればそんな必要もないのだが。
「これは……ペルセウスブレードじゃねーか!」
なるべく突っ込まないようにしていたが、俺はまた叫んでしまった。
ペルセウスブレードは最終ダンジョンの奥で拾える装備で、剣を使えるクラスの最強武器だ。
主人公である俺にはそれ以上の専用装備があるのだが、それ以外の奴は実質これが最強である。
猫で肉球しか無いのだが、何故か人間の背丈よりでかい剣を装備出来た。
早速ステータスを確認したら、攻撃力10の短剣から攻撃力が4990上がった。
終盤のボスまでこれ一回振れば死ぬわ。
「すまんのう……こんな田舎ではこの程度の装備しか揃えてやれんのだ……」
「いいさ、もう充分に報酬は貰ってる。じいちゃん、育ててくれてありがとうな」
「アルノー……」
俺は原作通りのセリフを言った。
そして、アイシャと村長が俺のセリフに胸を打たれているのを感じた。
いやもう、こんだけお膳立てしてくれれば充分ですわ。バグだけど。
「じゃあ俺は行くぜ! アイシャ! 絶対に魔王を倒そうな!」
「うん! あんな奴、私がコテンパンにのしちゃうわ!」
既にコテンパンにのしてたが、魔王アイシャはノリノリで応えた。
こうして、猫になった勇者である俺と、真の魔王である幼馴染の俺が、魔王である幼女を倒す大冒険が始まったのだった――。




