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『先生、お願いします! ~気付けば悪徳商人の用心棒になっていました~』  作者: ポムぞう
二章

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其之伍 吾輩は三毛猫である。


吾輩は三毛猫である、名前は小福。

……と呼ばれている。


挿絵(By みてみん)

誰が名付けたのかは知らぬ。

そもそも吾輩は、猫である。


人間どもが勝手に名前をつけ、勝手に可愛がり、勝手に餌をくれる。


まこと、人間というものは便利な生き物である。


さて。


今日も吾輩は、いつものように宿場町を歩いている。


猫にとって、この町はなかなか住み心地がよい。


屋根は多い。

日当たりの良い縁側も多い。

魚を焼く匂いもする。


そして何より――


人間どもが、実に面白い。


まずは黒金屋。


この町で商いをする大店である。


表向きは立派な商家。

番頭が帳面を抱え、丁稚が走り回り、客が出入りしている。


だが、猫の目から見れば、あちらこちらに妙に目つきの鋭い者がいる。


商人というものは、皆あんな顔をしているのだろうか。


……いや。


たぶん違う。


あそこには「あまり普通ではない人間」が多い。


しかし、飯はうまい。


だから吾輩としては、細かいことは気にしない。


縁側に腰を下ろしている男の膝へ、吾輩はひょいと飛び乗る。


「おや、小福か」


知らぬ。


吾輩はお前の膝を借りただけである。


しばらく撫でさせてやったあと、飽きたので飛び降りる。


次に向かうは、蓮華の会。


こちらは黒金屋とは、少々空気が違う。


華やかな建物。

行き交う女たち。

甘い香の匂い。


そして、笑顔の裏側に何かを隠している人間が多い。


人間は面白い。


怒っていても笑う。

悲しくても笑う。

腹の中で何を考えているか分からなくても笑う。


猫は腹が減れば鳴く。


実に分かりやすい。


吾輩は建物の奥へ入り込み、見慣れた女の足元へ近づいた。


花房紫月。

挿絵(By みてみん)

この場所の頭目である。


人間どもは、この女を恐れているらしい。


確かに、目つきは鋭い。


近くにいる者たちは皆、背筋を伸ばしている。


だが――


吾輩には関係ない。


「……小福?」


吾輩は紫月の足元へ身体を擦りつける。


そして、そのまま膝元へ飛び乗った。


「ふふ……今日は随分と甘えん坊ね」


ゴロゴロゴロ……


うむ。


なかなか良い膝である。


少し硬いが、悪くない。


しかし、人間というものは不思議である。


町の人間たちには恐れられている女が、猫一匹には随分と甘い。


……まあ、吾輩が可愛いから仕方がない。


ひとしきり喉を鳴らしたところで、吾輩はまた歩き出す。


次は蛇牙組。


ここは黒金屋とも蓮華の会とも違う。


男が多い。


声も大きい。


歩く音も大きい。


何かにつけて睨み合っている。


吾輩としては、もう少し静かにしてほしい。


昼寝の邪魔である。


奥へ進むと、ひときわ大きな男がいる。


蛇道。


蛇牙組の頭目である。

挿絵(By みてみん)


周囲には男たちが集まり、何やら難しい話をしている。


吾輩はその輪の真ん中を堂々と横切った。


誰も止めない。


当然である。


猫を止めるなど、恐れ多い。


吾輩は蛇道の隣へ座り、尻尾をぱたぱたと揺らす。


「……また来たか、小福」


ゴロゴロゴロ……


うむ。


こちらの膝も悪くない。


だが、黒金屋より少々騒がしい。


蓮華より空気が悪い。


……総評。


どこも大差ない。


人間どもは三つの勢力に分かれ、互いに睨み合っている。


商いをする者。


華やかな場所を守る者。


腕っぷしで己を通す者。


それぞれ偉そうにしているが――


吾輩からすれば、全員ただの人間である。


そして吾輩は猫である。


この町のどこへ行こうが、誰にも頭を下げる必要はない。


腹が減れば魚を探す。


眠くなれば日向で寝る。


撫でてほしければ近づく。


嫌になれば逃げる。


実に自由である。


人間どもも、もう少し猫を見習えばよいものを。


……もっとも。


最近、この町には少し妙な男が現れた。


黒金屋に出入りする、あの男。


一之進というらしい。


剣を持っているくせに、やたらと人当たりがよい。



まったく。


人間というものは、どうしてこう面倒なのか。


吾輩は屋根の上から町を眺める。


黒金屋。


蓮華の会。


蛇牙組。


三つの勢力が、この小さな町の中でそれぞれ好き勝手に動いている。


今日も変わらぬ一日――


の、はずだった。


――その時。


遠くから、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「黒金屋ー!」


……ん?


「おるかー!」


屋根の上で、吾輩は耳をぴくりと動かす。


何やら元気な人間が一人、黒金屋へ向かって突進している。


周囲の人間たちが道を空けている。


吾輩は尻尾を揺らしながら、その様子を眺めた。


ああ。


あれは――


一条みつ。


なるほど。


今日も黒金屋は、静かではなさそうである。


吾輩は大きく欠伸をした。


人間どもは大変だ。


吾輩は猫である。


騒ぎなど、昼寝の後にしてほしい。


そう思いながら、吾輩は屋根からひらりと飛び降りた。


――さて。


次の昼寝場所でも探すとするか。

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