私のパパ
私のプロフィールにはママもパパも出てこない。
でもゲーム進行の中ではパパのほうがちょっと違う。私が断罪バトルで負けてしまうバッドルートのところに、私の赦しを請う成金者の父親としての短い出番があった。
パパの今の職業は庶民。いやごめんねパパ、そんな職業名は無いんだけど、いかにも庶民中の庶民なんだもの。
城壁で囲まれる王都ヴァルモンドは歴史が古く、建築や装飾にあふれている。大工ギルドや職人ギルドのような組織がその工業面を支えていて、彼らにはそれぞれ階級があったりもする。
棟梁。建築現場の総括者だ。受注案件について設計図を定めたり石材や木材を選定する人。
工匠長。製造現場と各種専門家を取りまとめる人。
製図師。建築図面を描く人。
測量師。土地測量や勾配測定をする人。
金具師。金属装飾や金属加工といった現場の人。
石工師。石造建築や石材加工といった現場の人。
木工師。木造建築や木材加工といった現場の人。
屋根葺き師。高所に上がって瓦や板や萱で屋根を作る人。
ずらっと並んで、この王都を作り上げてるような偉い職人さんたちだ。
その一方、ギルドに所属するような職人さんばかりでもない。身の回りの生活品を作ったり修繕したりする雑工という町工場みたいな仕事場の職人さんたちもそこそこ大勢いる。
そういう、下層工房勤めの器用貧乏な職人の一人というのが私のパパだ。
木工製作も簡単な鍛冶も、お家の細かい手入れもできちゃってそして荷運びも汚れ仕事もわりと多くて引手数多、つまりいつも忙しそうだ。
特に階級に関わらず、職人さんという人たちはお勤め先ばかりではなく自宅でも一室内に工作台を構える。そこは給料以外の作業をする場所で、お払いになった古工具と余り物の材料で工芸品の練習をしたり、我が家の建具を自前で作ったりしてしまう。
他所の家よりは扉や山羊の柵なんかも頑丈で立派なのはそのおかげだね。
「パパ。私たちに将来……貴族みたいなお金持ちになる、なんて未来はあると思う?」
「どうした、あのベルトラム師匠はそういうふうにはお金の事を教えないはずだろう、エレナ。」
「うん、教わったからじゃないよ。でもさ、なんだか5年後くらいにはそんな風になっているかも、なんて考えたら楽しくならない?」
「いいかいエレナ。貴族さまたちと、俺たちのような平民は同じ種類の人間ではないんだ。だからと言って、平民がみんな同じかと言うとそれも違う、みんな役割があってみんなが働いているからこの王都があるんだ。貴族さまたちだってきっといろいろ役割がある。」
「そうだね、うん。私たち庶民は庶民のままでも幸せだよね。」
でも私は、パパが裕福なお洋服を着こなしている姿を知っているの。けっこう似合ってて素敵だと思うよ。
私は10年間の夢の中で、時々そんなパパのモノづくりを見ながら、なんと寸法計算のお手伝いをしたらしい。ついでに言うとママの家計簿に口出しをしたこともあったっぽい。
板の長さ、釘の数、材料の厚み、扉の寸法、柵の高さ、などなど。
材料費、工賃、食費、山羊の餌代、税金、などなど。
この義務教育がない中世の異世界では算術を生まれ持つ子供は浮いてしまったらしくて、ときどき周囲を驚かせたおぼろげな夢はあった。その夢から覚めた時に、私は書記官組合での弟子生活が始まっていたんだ。




