偽りの使者
「椅子の高さは合っているかい?」
立派な筆記机は大人用なので、椅子のほうが脚をちょっと高くしてあるようだった。私も、どうやら2人も足がぶらんぶらんしてる。
椅子の高さはいいとして、それよりも……何なの? 机のパーティションの高さのほうが気になっちゃう。
私たちは、最初に数字の筆跡の癖を確かめられて合格。そしてビーズ算盤を使った足し算も合格した。
いつも厳しかったベルトラム師匠ありがとうございます!
仕事の進め方は何通りかあるみたい。
最初のパターンは、台帳の言われた箇所の数字に、他の書類の言われた数字を足して、それを証文のような書類に清書の筆記で書き込んでいく。
組合での見習い事も半分くらいは似たようなお手伝いなので難しくはないけど、桁が2~3個多い気はする。これも最初の3件まで教わったらそのあとは私たちに任されて、検算担当の算術士さんに直行で渡せばよくなった。
書記官さんたちはこのお部屋の書類を減らすことがお仕事なので集中している。リサもノーラもその雰囲気に吞まれて必死。私はその2人に合わせたペースでビーズ算盤をそれらしく弾きながら……こっそり暗算で済ませる。
事前説明で言われてる事が幾つかある。
帳簿や書類の指定箇所以外を眺める事は禁止されている。その上、取引先や取引内容の部分には私たちが自分で「汚さないように」上紙を当てて隠すだけでいい。セキュリティ管理が甘いなコルスル家の書記官たちよ、おっと。
言われた通りの計算方法は、書類の意味を知らなければ何の計算なのか分からないだろう。でもこれって、、、?
手数料? いいえ、個数が増えてるわよね。個数修正じゃなくて金額が帳尻合わせになってる。なんの中間計算かしら。んんん?
「どうかした? 君たちはみんな計算が合ってるから見込んだ通りだ。そのままで大丈夫だよ。」
「あの、ここでこの数値を加えるのってまるで……はっ。いいえ、ごめんなさい、何でもありませんでした。てへへ。」
これって、不正経理じゃないか~。
書記官さんたちには、いかにも「私が間違いかけました」の照れ笑いでごまかす。
年端も行かぬ女子たちにこんな恐ろしい経理をさせるとは、お主らも悪じゃのう、ほっほっほ。
さすが大商家、この王都ばかりではなくほとんどの領内町村の商的取引に関わっている事が分かる。そんなふうに通過していく書類の中には、少なくなく国外との商取引もあるし、そして王宮書記官の関税書類や許認可などが付いて回っていたりするのも目にする。
目にしてから1秒後に上紙でちゃんと隠してますからね。
それにしても。まだお顔も知りませんが、王宮書記官ホローブンさま、こんなに軍事費の架空経費を回すとは。このディドレル会とはあなた様のどんなペーパーカンパニーなのかしら。
扉が開いて何人かの書記官さんが頭を下げ、2人の紳士が姿を現す。
「さあ、ようこそいらっしゃいました、ホローブン殿。ご覧のように別室で厳重に行っておりますので。」
「いえいえ、今日の私はディドレル会の使いの者ですよロイエル殿。」
あら、パーティション越しにお顔が見えちゃいましたわ王宮書記官さま。




