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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
悪役令嬢は庶民ヒロインに嫉妬しない
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マルティナ・エルヴァン令嬢の場合

ここはオルダニア王国の辺境領の一つ、ダンドグーリ領。

私はその領主ルドヴィク・エルヴァン伯の長女、マルティナだ。いわゆる伯爵令嬢もしくは辺境伯令嬢という呼ばれ方になる。

こんな字面だけを見れば、着飾って社交会やお茶会に通って「おーっほほ。」などと宣《のたま》ってそうに思われるかもしれない。


領主とはつまり、私の父はこのダンドグーリ領民の長であるという事。私たち親族30人ほどが、代官、執事、記録官、騎士 など100名余りの家臣団を束ねて領民を統治している。つまり基本的には、家族が全員実務で忙しい。

私は毎日、領主館の執務室で父の書類を確認し、商人や騎士たちの面会予定を侍女と一緒に整理する。いずれは父の補佐役として、そして後継者となる候補でもあるのだから。

家臣を率いて、牧草地を管理し、交易路の安全を守り、地元の祭事を準備し、国境警備隊を維持する。それらの手配と手続きに日々追われている。

令嬢だからと言って、お茶を嗜みながら刺繍をして過ごすなどという時間はごくわずかだ。馬術だって領地を駆け回る機動力のためでしかない。この家の者として剣術も鍛えられる。辺境領の娘は、優雅である前に強い女でなくてはならない。


そんな私マルティナ辺境伯令嬢は、オルダニア王国レイネル・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド王子の、婚約者となっている。

これは誉れ高き恋愛なのか? たぶんそうではない。違う。

「王子の婚約者」と言っても、私の場合は、あのフランス王国現王の娘アデル=ド=ヴァロワ姫からの危険な婚姻外交を王族がお断りするための、仮初めの恋の婚約者でしかない。この王国の王侯貴族なら誰もが、そして私自身がそれを知っている。

私が何を言いたいかというと、たとえ王族から仮婚約されようが婚約破棄されようが、私の貴族としての忙しさと重さには関係がないという事だ。



それなのに今、私はヴァルモンド城での祝宴の場にいる。

主に西方側の領主を集めてのこの時期の叙任式や報告事をまとめて行う、定例的な集会行事だ。

なかなか顔を合わせられない諸侯やそのご令嬢方とも挨拶や世間話を交わし、そして皆が王家への忠誠を誓い合う。


そう、あの上階に集まって私たち諸侯を見下ろす王家の方々に、忠誠を誓っているのだ。

その中に見える第一王子レイネル殿下は、私にとってはどうなのだろうか。私はあなたに婚約者として何を誓えるだろう。


この王国の王子は4人。

私はその全員が恋愛に疎いという評判のままだと思って、これまで黙っていたのではなかったか。

それなのに、あの王子たちは今、見慣れない背の低いどこかの令嬢と楽しそうに話しをしている。あれは誰?


まるで王族正統のようなドレス。

それでいて元気そうに飛び跳ねる。

何かとはにかむ可愛らしい笑顔。

王族がたはそれを当たり前のようにしている。

祝宴なのに皆の前で紹介もされていない。

だけどここで重要なのは、あの乙女が何者か? という事ではない。


第一王子レイネル殿下は、女性が苦手ではなかったという事。

私の婚約者のはずのあの方には、私などよりも親しい清純そうな乙女がいるのだ。


階段を昇りかけた私に気が付いたそんなレイネル殿下は、傍の乙女に何やら話しかける。

その瞬間、私は見た。王子殿下たちに向ける清純そうな笑みの合間に、私に顔を向けた時の鋭い無表情を。


! ……これは行ける。あの乙女の存在は私の未来を決めてしまえる。そう察した。


その乙女は上階をまわってこちらの階段を駆け下りてくる。

何をする気? 見当は付く。

なんという無邪気に見える笑顔。

「あなた、階段を駆け下りるものではありませんわ……。」

「マルティナお嬢さま、初めまし……てっっきゃあぁ。」

勢いが付いたまま目の前でバランスを崩す彼女の右腕を私はどうにか掴む。だけど両足をすでに踏み外している彼女は段差で身体のどこかを打ち付ける。

この大広間の中で階段は大半の人の視界に入っている。これではダメだ。

見ていない人も多い。だけど彼女が勝手にずっこけて転んだ状況が多数から目撃されている。ひっくり返さないと。

「ああっごめんなさい、マルティナ様、あ、あた……。」

「(あなた演技が下手だわ、もっと上手におやりなさい。手間が掛かる子ね。)」

今ので脚を挫いたように見える。放っておけない。


私はこの乙女を抱き上げて、上階に昇っていく。


「レイネル殿下あなたは、このように愛する令嬢を守る事も出来ないのではよろしくないのではありませんか? 誰か、お医者様を呼んでくださいませ。」

「はっはい、エレナさまお脚を動かさないで。」

「大丈夫かいエレナ、君はいつも……。」

「この子が可哀想だと思わないのですか。私をまだ切り捨ててもいないうちから。」

「ははは。マルティナ嬢、何を言ってるんだい。このエレナは私たち王族とは何も……。」

なんという軽々しさ。いいえ、それだからこそここで引き下がるわけにはいかない。

「たった今、皆さまが目撃したように。私はこの子を階段で突き飛ばしましたわ。」


大広間がざわつく。

「そうかなぁ、見てたけど。」

「勝手に転んじゃったわよね、あの筆記係の、誰でしたっけ。」

ざわざわ……。


「私はこのご令嬢に嫉妬して憎さのあまりに階段で怪我をさせた。レイネル王子、私は殿下から婚約破棄を言い渡される! いいですわね。皆の者にそう申してくださいませ。」

「……え、え~と。マルティナ令嬢、あの……。」

「今後私は一切、この王城の門を通る事は許されないですわ!」

エレナ嬢が震えている。

「マルティナさま……これ、私の 初・お姫様抱っこ なんですけど~お。」

「あ、あれ、私が? そうなの? ごめんなさい。」

―― 休憩 ――


ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。

この作品『転生腹黒ヒロイン』は私にとって

・毎日の投稿に挑んでみたい。

・婚約破棄イベントを自分も書いてみたい。

・そもそもまとまるプロットなのか。

この3つを同時に叶える事ができた、とても大好きな作品となりました。

ストック数本+プロット数本分の段階で投稿を開始して、

13~14世紀の史実を素で勉強しながら、大きく散らばる歴史情報を1つの軸にまとめていきました。

後半は、投稿12時間前まで白紙の状態なところに書き殴っていく、それが連日になっていきまして、

つまり即興《アドリブ》部分も多く、細部の整合が取れていない幾つかの点を認識していますけれど、

どうかご容赦いただければ幸いです。

・細部の修正。

・この後の続き。

いずれ再開する予定です。ご感想なども頂けましたらとても嬉しいです。

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