あと1年
私エレナの誕生日は、1290年の5月5日なのね。なんだか、いかにも私らしいゲーム内設定に見えるけど……金環日蝕の発生日がこの日なのだから史実なの。
それに14世紀の今は、日本では「端午の節句」がまだ祝日になったりしていないし。むしろ奇数が重なって不吉っぽいから薬草を嗜むとかそういう日だったりしてるみたい。
そういうわけなので、私は春真っ只中の、なんでもない日に1つ歳を重ねる。
私は王宮書記官室でのお仕事のためにヴァルモンド城の生活が始まってから1年。
14歳になりました。
ゲーム『悪役令嬢は庶民ヒロインに嫉妬しない』の中に、主人公である悪役令嬢さまの嫉妬対象として、エレナ・ペティットが初登場するのは15歳。開始以前のエレナについての描写はというと、プロフィール説明の中だけ。
~ 庶民育ちにも関わらず、気立ての良さとその爽やかで清純な美貌の評判で王宮に迎えられ、王子たちの目に留まった ~
ゲーム進行を回収するためのここまでの人生は、そのたった10文字のうち「庶民育ちにも関わ……」まで通過してきた。あとは「……らず」を残すだけ。
廊下の向こうから、4人が靴の音を響かせて私に近付いてくる。
美青年、レイネル・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド殿下。
美丈夫、アリオス・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド殿下。
美男子、シドリオ・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド殿下。
美少年、オウレロ・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド殿下。
背景には4色の薔薇が埋まっていたので現実ではなかったんだと思う。
でも。失神した私が目覚めた時に、
私の個室は宮廷に近い区画にある、豪華な内装のお部屋に替わっていました。
「お目覚めになったのね。失神される前に執事から申し上げたことは、憶えてらっしゃる?」
どなたですかこの飛び抜けてお綺麗なご婦人は、と驚いたけど。
時々遠くからお見かけしていたオルダニア王国のアウレリア・ヴァルセーヌ王妃殿下だ。お話するなんて初めて。
「このお布団の中でもう一度気絶してよろしいでしょうか……。きゃああ王妃殿下ですか!?」
実際に眩暈がしてましたし。
「どう? 可愛いお部屋でしょう。私ね、女の子を1人くらい産みたかったの。まあそれだけなら私が我慢すればいいのだけれど。……起きていらっしゃる?」
「聞こえております。」
「男の子ばっかり4人もできちゃって。そりゃ可愛いわよ我が子だもの。でもね、ああまで揃って……女の子に縁がないとやっぱり不安よね。」
その辺の令嬢さまが幾らでもいらっしゃるじゃないですか、と訊くと。いかにオルダニア王国と言えども、やっぱりそれなりに婚姻前提になったり権力関係に作用する、なのですっかり女子に何も縁がないお育ちになってしまっているのだと仰る。
「エレナさんは王宮書記官室に勤めてもう1年になるのでしょう? なんだか王子たちと近しいらしいわね?」
「いえ、近しくは全然。でも書記官さまたちのお手伝いをしてますので色々個人情報はそれなりに……。」
「そうそう。書記官さんのそれでいいの。召使いたちに混ざって、王子たちの身の回りに専属の書記係になってちょうだい、エレナさん。」
「あ~~気絶する前のはそんなお話でしたよね。思い出しました。」
「それに、私も念願だった女の子の着せ替えができるわ。4人の前で女の子らしいお洒落を振りまいて頂くには吝かでなくてよ。」
「えっ、わっ。畏まりましてございます、アウレリア王妃殿下。」




