第四王子
お勉強会にご参加の1人、リトリー・トレナール嬢はブレンシア領主アウグスト伯ご令嬢としてのお仕事があるという理由で、昨日のうちに切り上げてしまった。第四王子殿下のご婚約者係をきちんと済ませた……という事だったみたいね。
残ったのは、マルガレーテ=フォン=ハプスブルク公女とオウレロ・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンド王子の2人だけ。
2人きりとなったら婚姻のアタックをするのには最適のはずだったと思うけど。その蹴落とすライバル当人が建物の中からいなくなったのでは蹴落とせない。
お勉強会のほうはというと、こう言っては何だけど 噂通り に、勉学があまり進まない。
それだけじゃなくて、何だかお兄さま殿下たちと違っていて。その、
「私は王子だよ。言う事に従え、なんて言わない。でも外は寒いんだし楽しく過ごそうよ。」
「私たちはマルガレーテ姫さまの傍使いです、そんな、殿下。でもこれ楽しいです、えっと……。」
「私たちではなくどうかマルガレーテ公女さまにそれを……。まあ、女子は平等だ、なんて。殿下って素敵です。」
「王子殿下。あのぅ私はリトリーお嬢様の書記係なんですけどね。まあご本人いません、はい。」
ご婚約者リトリーお嬢様がこの場に居なくなった後は、傍使いの女子たちとけっこうベタベタするのね、第四王子って。
「私、ウィーンへ戻ります。」
「姫殿下そんな。この雪の時期にあの峠は通れませぬ。」
「待つ時間は平気ですけども、無駄と判ってる時間は過ごせませんわ。冬山踏破装備くらいあるでしょう、私の分を揃えなさい。」
「いえ魔物も出ますし。それに我が国の国境防衛隊はオルダニア王国には立ち入れません。戦争になってしまいます。」
「要らぬ。私が剣を振って進めばよいであろう。ハプスブルクの女を甘く見るでない。」
「あああ、そうともいきませぬ。畏まりました、ブレンシア領の防衛隊隊長殿にご協力を。」
「馬は通れない。ソリが安全に通れる雪道を作るのだ!」
「なんで今帰るんだよオーストリア公国の姫殿下……。 」
「無理じゃねえかこれ。」
「私用訪問だろ、なんで俺たち250人が動員されてんの?」
「峠は閉鎖されてるんだが?」
「ハプスブルク家こわい……。」
「生きてるか? 俺たち。あと少しで国境だ。」
「吹雪いてるんだが。それが当たり前だけどなここ。」
「オーストリア公国の国境防衛隊も生きた目をしてない。ではマルガレーテ公女殿下のお身柄、しかとお渡し致します。」
「ああ、大雪に荒れ狂うアルプスは気高く美しいわ。そうよね防衛隊長殿。」
「点呼! ん、何人足りない?」
「やったよな……俺たち。」
「ああ……帰ってくれた……。」
ブレンシア領防衛隊が全員総出となった緊急越境隊への現地アンケートには、そう記されている。
「帰っちゃいましたね。」
「うむ、楽しい勉強会だったのに実に残念である。」
「王子殿下もこれからソリと馬車でヴァルモンド城に向かうんですね?」
「この別館に居てもやることが無くなってしまったのだからな。」
ですからって、ソリの密室に私エレナと2人だけでご一緒ですか? こんなにベタベタがお好きな王子だなんて。
年体的に子供と言えば子供なんだけど。何やってるのこの私の攻略対象は。ん? 攻略対象だからいいのか。いや、良くない。周りの従事さんたちも王族護衛隊さんたちもみんな見てますよ~。もう少しシャキッと王子らしくしたほうが。
はい、私は平民の書記官ですし。大変お疲れのお勉強会でしたもの、お好きなベタベタくらいは王子殿下に御意です御意。
「ああ本当に疲れた……こうして休ませておくれ。」
私のお膝を枕にするとはなんとも大胆な。私にだって攻略対象というものがいて……あ、この人も《・》攻略対象本人よね。
「こちらには商業と貿易外交に何百年の伝統があると思っておるのだ。あんな出来たばっかりのオーストリア公国の学問は大した事なかったよ。」
本当にお疲れ極まりなかったようで、そのまま目をお閉じになった。お休み下さいませ。
「でもさ、オルダニア王国は人と人が争う事を防衛だけで回避してきた王国。私と違って兄さまたちに帝王学は難しいだろうな。」
あら、あらあら。この末っ子王子殿下は。




