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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
オルダニア王国
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収穫芸術祭と婚約者

私エレナが生まれたこの王都ヴァルモンドは、オルダニア王国のだいたい真ん中にあるの。地中海に面していてアルプス山脈からイタリア半島の付け根までの国土だけど、そこにある国家型都市フィレンツェとは国境線で接している、隣国の関係ね。


そんな国境線の向こうは、大昔のローマ帝国の頃には1つの国の中だったみたい。だけどオルダニア王国はそこから分離してずっと安定した。その一方で西側の国境線の向こうは、西ローマ帝国だったり東ローマ帝国になったりフランク王国になったり。さらにはイタリア王国になったり神聖ローマ帝国になったしていた。

そんな風に支配する王族は何度も激しく入れ替わってるんだけど、暮らしている臣民たちはというと大きくは変わらない。ほら平成時代にも大型の市町村合併ってあったけど、あの時に住民が入れ替わったわけではないわよね。あれと同じ話。

ただし風習や文化、宗教なんかは入れ替わる機会が多かったみたい。


海産物が豊かで海路も盛んになっていった東地中海貿易で、もっと言ってしまえば周囲が戦争ばかりなのでその軍需貿易もあって、都市は商業も政治も大きく発展していく事になった。その点は、ピサやヴェネツィアと並んでフィレンツェなどの都市《コムーネ》って、オルダニア王国の都市ともけっこう似ている。


そう、国家型都市フィレンツェとオルダニア王国の東側の都市は、友交都市の関係なのね。そういった都市ではなんだか芸術性が先行していて、オルダニア王国の臣民がどことなくオシャレなのはそんなお隣さんがいるからなのかもって感じる。

オルダニア王国の中で国家型都市フィレンツェと接しているのは、ミリアマーナ領。領主はアルベルト・カンピオーネという辺境伯だ。

隣国との友交が伴うここで行われる収穫祭の事はちょっと特別に 収穫芸術祭 なんて呼ばれている。


都市にとっての収穫芸術祭というものは、オルダニア王国ですら神社というかお寺というか聖堂というものに、こういう時だけ大勢の臣民が集る。今年の作物の収穫量を儀式で祝いながら記録に残し、それから、市場や催事会場では半月ほどの特別なお祭りが催される。そこで色々な食べ物イベントや芸術イベントが併催されるのね。

音楽家たちの演奏、有名哲学者ダンテ・アリギエーリをお招きする詩の朗読、聖堂の内装に描かれたフレスコ画の除幕、臣民も参加する舞踏会、そしてそれらは多くの若者にしてみれば心が満たされる恋の季節でもあったりしたりするのだけど。


私エレナは王都ヴァルモンドのほうの収穫祭だけでも天手古舞になっている。収穫量や奉納品、催事経費など、算術士らしくいよいよ計算作業に追われて算術業務への強制参加が始まっている。

ミリアマーナ領に見物に行けるような役目は回ってこなかったのでリアルタイムでは把握できないけど、ミリアマーナ伯や随行担当した王宮書記官からの後《のち》の報告書を参考にして説明するわね。それはもう分厚い報告書類なんだけど、ほとんどをすっ飛ばして、重要な部分、会話記録を探す。あった。

こんな感じだったみたい。


友交都市フィレンツェでは都市内が白派と黒派に分断してしまい、そこに外的圧力も加わり、白派の政治家や権力者には迫害・追放の動きが強まっている。

哲学者であり政治家でもあり詩人でもあるダンテ・アリギエーリは、白派であるため都市から追放されたばかりの人物だ。ここミリアマーナ領が移住先というわけではないが、宗教抗争がない地からの招待は一人の詩人に戻れる束の間のひと時であったようだ。その自らの朗読は静けさの中で人々の心に響いたそののちに盛大な拍手に包まれる。


第三王子のすぐ傍でそれを一緒に聞いているのは、友交都市フィレンツェの同じく白派だがまだ追放はされていない大政治家リカルド=ディ=チェルキ、その長女イザベラ=ディ=チェルキ嬢だ。

もしかしたら明日にでも、あの詩人と同じように追放されるかもしれない。イザベラ嬢にとってはそれは異国の婚約者を求める切なる気持ちだったかもしれないが、彼女の家族にしてみれば安定している隣国との婚姻外交であったことも否めない。


哲学者の詩に自分の境遇を重ねて涙する隣国の貴族令嬢に、第三王子はその手を取り、こういう時のためのハンカチを差し出す。

「本当に素晴らしい詩だね。ダンテ殿が追放されたご境遇は可哀想だよ、嘆かわしい。」

「……はい……?」

「イザベラ嬢は心お優しいご慈悲深きお方だ。」

「……うん……?」

打ち合わせがあったのか無かったのか、少し離れて機会をうかがっていたアルベルト・カンピオーネ伯の長女ルクレツィア・カンピオーネ嬢は、見かねてイザベラ嬢を慰めに歩み寄る。

「殿下、もう少しイザベラ殿のお気持ちを……。」

「ああっそうだね。しんみりとするのも良いけど、この芸術祭はもっと色々な出し物があるんだ。じゃあそれを見て回ろうよ。」

「(あの、そういう段取りだとは聞いてませんが……。)」

「ほら舞踏会もこの後《あと》あるんだ。そうだ3人で一緒に手をつないで踊ろうよ、あははは。」

第三王子は仲が良さそうに二人の令嬢を一緒に連れて、大好きな音楽や美術を語りました。令嬢たちも単なる友達気分のひと時を過ごせました。



うんうん、ところで。その第三王子も(・)、私《エレナ》の攻略対象ですってば。

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