フランス王国
王宮書記官室に人の出入りが増えた。
外交書類チームと宮廷行事書類チームが超多忙になって、日が暮れても帰宅できないでいるらしい。
フランス語の文書作業が増えた。
宮廷を挙げての行事の準備が始まる。
フランス王国は多くの河川に恵まれて繁栄した地域だったこともあり、ヨーロッパ全体の2割近い人口を占める大国家だ。
パリは学問と文化の都として名を馳せ、王家は大陸随一の格式を誇る。街道を行き交う商人たちは「フランスを通ればどこへでも行ける」と口にし、修道士たちは「神の秩序を守る砦の国」と信じる。中心なる国の臣民、という自負と華やかさが各地方の村々にまで染み渡る。
そんなフランス王家を率いる現王がフィリップ四世。
「端麗王」の異名を持つほどに容貌端正とされ、政治の才に恵まれていて王権を強化するためにどんな策も辞さないと言われている。力の衝突の元となる地方領主たちを従わせ、国王の命令を遠くまで行き渡らせる。この現王の治世によって法律と文書による統治が大きく現代化に向けて進んでいる。
今このヨーロッパは、例外を除いてほぼキリスト教が政治権力を振るう時代。
王族の力と教皇の力は常に綱引きをする関係ではあるけど、教皇庁は最近まで200年間ほど十字軍を主導したほどの力があった。だが、現王フィリップ四世は課税問題を持って教皇ボニファティウス八世を武力で拘束したり、「神の戦士」とまでの名声にあったテンプル騎士団を異端の罪で粛清したのもすることまでできた。キリスト教は決して力を削がれたわけではないが、現王の力はそれにも増して強大だ。
一方、強大な歴史を持つ国家の力は、国王の家臣であるはずの各地領主の力までも強大にしていた。その表れが隣国イングランド王国との間で長く続いている対立だ。
フランス王国とイングランド王国は、元々は各地の特産物を交易する友好な関係だった。そんな2国間の対立の始まりは、フランス王国における2つの年代に分けられる2人の領主それぞれの反乱が原因だった。
その1人は、11世紀のノルマンディー領主ウィリアム、後にイングランド国王ウィリアム一世。
ノルマンディー領はさらに昔から複数の貴族たちが領土争いを続けていた地域であり、封建性の上でその内戦の継続はフランス国王に特に反する行いではなかった。だがフランス国王の家臣でありながらにして、内戦で鍛えられていたウィリアムは1066年 にイングランドに侵攻してそのままイングランド国王に即位する。一国王の家臣が隣国の新たな国王になる行為が反乱かどうかは互いの力関係の問題となるが、ノルマンディー領の内戦が依然継続したため、国王同士の世代交代によって家臣関係が消えた以降には、国家間の領土戦争へと変化していった。
もう1人は、12世紀のアキテーヌ女領主アリエノール・ダキテーヌ、後のイングランド王妃。
若くしてアキテーヌ公家の相続人となり奔放な生活ののちに15歳でルイ七世の王妃となるものの、信仰深い夫とは性格が合わず、十字軍遠征などで多くの混乱を招き、30歳で正式に離婚に至る。利害関係が一致したとはいえ前夫と対立関係にあるヘンリーと間を置かず再婚したのち、現夫がイングランド国王を継承した事でアリエノールは32歳でイングランド王妃となった。この再婚によって、フランス王国は アキテーヌ領という広大な領土を失う状況になった。そこから始まる領土戦争の末、ガスコーニュ地方が大陸側の飛び地としてイングランドの領土になっている。
このようにして、幾つもの原因で何かしらフランスとイングランドの戦争は絶えていない。
ところでこの人たち、神聖だと言われてるはずのキリスト教国家の人々なんですよね?
そんな戦争相手国がいる一方で、フランス王国にはヨーロッパの中心として当然の貿易相手国も沢山ある。
神聖ローマ帝国とは婚姻と同盟で関係を保ち、スペイン諸王国とは地中海の覇権をめぐって駆け引きを続ける。イタリア諸都市とは商業と文化の交流が盛んで、スコットランドにはイングランド牽制のための支援を惜しまない。
北海から地中海へと続く交易路は、フランス王国を通ることで最も安全と利益を得られる。そんな整備された街道を、ワイン、布、塩、鉄、そして学問や文化もあらゆるものが越えて流れて、その中心で豊かさを蓄えている。
どの近隣国も王家の継承に国交関係を重ね合わせて、フランスの王家と結びつくことを大いなる栄誉と考えている事は間違いない。
とはいえ継承問題は必ずしも上手くはいかない。フィリップ四世の息子たちは次々と王位を継いだものの、男子継承に恵まれず王家の血統が揺らいでいるという。王家の未来を守るためそれは「婚姻外交」とまで呼ばれ、王女たちは大国へ嫁ぎ、王子たちは他国の王女を迎え入れる、それがこのヨーロッパ各国が領土と同盟を結ぶ最強の習わしだ。
そんな今のフランス王国は、もし近隣に中立国があれば、その国を味方に引き寄せるために姫を政略結婚に差し出すことを躊躇わない。宗教、戦争、外交、貿易。そのすべてを絡め取り、大国としての影響力を広げようとする。
フランス王国の現王フィリップ四世の第四王女、アデル=ド=ヴァロワ姫の一行を伴う外交使節団が、私たちのオルダニア王国にやってくる。幾つもの貿易交渉、そして、第一王子レイネル・セルヴィオ=エヲ=ヴァルモンドへの求婚のために。
ちょっとちょっと、その人、私の攻略対象なんですけど。




