不正経理
国と人々とお金って、この時代と700年後を比べても意外なほど変わってないように見える。
こんなに身分制度が違っても、技術や文化がぜんぜん違ってもだ。臣民が働いて稼いで領主に納めた税金が王宮に集まって、大きなお金となるのが王国予算よね。
その大きな予算は大まかには3つに分けられて使われるとしましょう。
1つ目は、王宮の維持や王族・家臣たちの生活のため。王宮って貴族や文官が執務して使用人もまとめて暮らしている住み込みのお役所だから運営費は大きいわ。
2つ目は、臣民を支援したり街道・治水などの保守整備のため。行政サービスや各種インフラっていう話。もし平和な世界だったら財政ってここまででいいの。
実際の世界はあんまり平和だと言えなかったりする。それが3つ目の予算。
このオルダニア王国は他国に侵略するような事はしないけど、多くの魔物や多くの王国は攻撃的な侵攻をする。魔物の大群や近隣国がそうなってくると、本当は平和を望んでいても、防衛をしなくてはならない。
そのため、多くの国々にとっては侵略戦争、オルダニア王国など中立国の場合は防衛戦争。
それらのように戦争に掛かる予算の事を戦費とも言う。
世界に戦争があるという事は、臣民が集められて国境線上で集団プロレスをしに行くんだっけ。そういう方式ではなくて、武装を戦わせるという行為になる。
今は騎兵と歩兵が主戦力だったり火薬兵器は多用されてない時代みたいだけど。武装とは数多くのヨロイや戦馬、長槍や弓矢、破壊兵器である投石器などなど、そして兵士の活動を支える食糧や医療物資も。どれも消耗品だ。戦費というのはそれらの物資をたくさん生産したり調達する事の意味が大きかったりする。
物資となると取引には商家が関わってくる。大きな商家からすれば消耗の激しい取扱商品が大量に倉庫を出入りして、帳簿の数も取引の量も膨大になる。
まだまだ監査の甘いこの中世ではいちいち細かく目を通していられない状況になるようで、誰かが数字や書類を弄る。すると、商家には戦費だったはずの会計のズレが膨らんでいく。
[ ちなみに後世の社会では、複式簿記と監査が厳重になるのでこれらのような不正はいずれ判明する。 ]
中世ではそういう手順が弱い。
だからこそ、戦費に関わる役職の人には、王家への忠誠心というものが正しさとなって現れるわけ。
数字を弄る事は、数字の筆記ができる子供を増員で雇えば済んじゃうくらいに簡単。こっそり単純な足し算が大量に行われたり、その場合でも金額の数字の筆跡がバラバラになるように。
今にして思えば、それが3人の派遣を必要とした理由だったのね。
でもその会計のズレを作る経理操作は、王国が本当は優位になれたかもしれない状況を少しだけ不利にして、味方の損害を少しだけ大きくする数字でもある。
ちょっと私腹を肥やす……では済まなくて、それは王家への忠誠に反する行為。
そうと分かったら、多少続いたコルスル家さまがお取り壊しされるくらいの事件になるわよね。何人の首が胴体と離れるのかしら。でも残念、この頃はギロチンがまだ発明されてないじゃない。
私はそんな会計のズレの発見者となってしまったのね。大丈夫なのかな私。いや、大丈夫じゃないのでこうまで監視下に置かれることになったんだけど。
ベルトラム師匠も、パパとママも、私の算術力についてよく知っていた。だからこんな段取りもなくある日突然だったというのに、私が会えなくなった不自然な扱いをただ喜んだという。
きっと「ちょっと寂しくなったね」とでも勝手に笑顔を交わして、私を全面的に祝って、別に悲しんではくれなかったんじゃないかという気がしてくる。
ロイエル夫人の検閲が入ると分かっている手紙のやり取りでも、誰もコルスル家を疑わない。
リサやノーラも、師匠も、私の護衛付きの短時間な面会に来てくれた時には満面の笑みで喜んでくれるし、なんなら涙まで浮かべてしまうんだ。入れ替われる監視の隙はないので私も一緒には泣く。
母親が一番恋しいだろうと何度か会いに来てくれるのはママ。私の姿と顔を見て言うんだよね。
「大事にされて上品になっていくわねほんと。……でもエレナ、もう少し普通に笑えないの?」
私からは言えないけど、幽閉されてる身ですので無理ですのよ母上さま。




