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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
王都ヴァルモンド
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16/42

家庭教師

私エレナは現在11歳。

日本だったら令和というか何なら大正でもだけど11歳って小学校の高学年生よね。それがなぜこうまで児童労働どころか派遣労働までさせられる過酷な生活なのか? について考えてみることにしますよ。

私たち(たち、って言った)がこよなく愛する[ 乙女ゲーム ]って、だいたい18世紀~19世紀の世界なの。令和から200年前《そんなにおおむかしでもない》くらいの感覚。つまり[ 乙女ゲーム ]というのは舞台が「近代」なのね。中世では全然なくて、ほとんどが近世でもなくて近代。[ 乙女ゲーム ]は近代ファンタジーの一種。


そういう近代の11歳はどんな初等教育を受けていたのかというと、先進国の間でだんだん義務教育が制度化されていくのが19世紀の後半で、日本はというと20世紀に入ってから。20世紀って言ったら私よりも1つだけ前の世代が生まれた時代だ。

という事からすると、18世紀~19世紀な感じの[ 乙女ゲーム ]で、令嬢さまや王子さまや平民たちに限ると、初等教育を家庭教師から受けていたと考えられる。歴史上には、職人の系統には文法学校があったり、教会系の系統には神学学校があったりする。でも私たち(たち、って言ってる)のあの世界ってそんなに職人らしくもないし、お祈り中心でもないから、文法学校や教会で教育を受けてた勢は特に多くはなさそうなのよね。

分かってるわ私たち(たち、だから)、そこを考えるジャンルじゃないという事くらい。そこを考えないから[ 乙女ゲーム ]のプレイは社交年齢から始まるし、そこに転生する悪役令嬢の物語になると早々に成人の恋愛が絡む婚約破棄イベントから始まるの。

ちょっと昔の異世界をこよなく愛するそんな私たち(たち、よ)なら、聞いた事があるわよね「中世ファンタジー」って。えっとね、この『悪役令嬢は庶民ヒロインに嫉妬しない』というゲームの世界は13世紀~14世紀。しっかり「中世の異世界」だったみたい。 13世紀~14世紀の世界よ。


学園ってどこ?


蒸気機関はどこ?(産業革命 18世紀)、あの煌びやかな芸術文化はどこ?(ルネサンス 15世紀)、という未発達も大概だけど。学園という国営的な社交界が、そんな教育制度がどこにもない世界なの。

オルダニア王国のここ王都ヴァルモンドともなれば、上層平民の裕福な子たちのために文法学校はある。実務に必要なラテン語の読み書きを教わったり、その文法で学問そのものを学べる。

その一方で、授業料を払える裕福さはなくても、例えば算術の下働きだけ習得すればいいような子は、先日までの3人見習い女子たちのように書記官組合で修行する場合もある、というわけ。

私はパパの工房仕事に口を出したのがきっかけでベルトラム師匠の見習いになった。だけど、表向きは足し算くらいしかできなくて、書類の意味なんか全然分からない。分からなくても別にいいはずだった。


「えっ。ミレーヌ先生、[ 私に普通に教えてくれるだけ(・・)の家庭教師 ]なんですか?」

「普通に……って。変な事を教えるようでは私は解雇されちゃうじゃない。奥様からはあなたに、書記も算術もきちんと教え込むように言われているわ。」


私の子供部屋に来てくれることになった家庭教師がミレーヌ先生。たしかに、コルスル家に内勤の書記士さんの中に見かけていただけで、不正経理部署に関わっている人ではなかったようにも見える。

ううん? そうすると……私は不正経理の手法を学ぶわけではないのか。

普通の勉強をすればいいと?

「エレナさん、分かってちょうだいね。あなたが見つけてしまった間違いがあったかもしれないけど。私はその話は奥様から聞いていないし、誰かの間違いのお話は言いふらしてはならないし。私があなたと詮索する事でもないんですから。」


間違いや詮索じゃなくて、不正経理でしたけどね。


きっと、私があの件について何かを言えばそれはロイエル夫人に報告されるのだろう。でもそれだけで先生はその意味を知らないし、この部屋から外にその話が伝わる事もないから、夫人が私を口封じのために鬼の形相になる事もなさそうだ。

とりあえず、悪の一味じゃない人が家庭教師なのは思っていたより気が休まるかもしれない。


ミレーヌ先生は私に改めて一から教えてくれる。

オルダニア王国は、人と信念とお金と物資で支えられている。王都の商家は、それらのうち物資の取引を行うのがお仕事だ。そういう商家の最大手がコルスル家。物資については国内生産品もあるし、貿易品もある。王宮に必要な物も、臣民に必要な物もそれぞれだ。

それらの取引について回るのが数量や代金や管理や税金や利息などの書類や記録。

あっそれで言うと、王都じゅうでそういった仕事をする書記官や書記士、算術士などの人材業務が、ベルトラム師匠のいる書記官組合よね。


そして私はここで、書記はゆくゆくだけど、算術について再教育される。

0から9までを示すビーズの列、10進法の各桁、そんなビーズ算盤を使って視覚的に(めでたしかめながら)足し算と引き算ができてしまう、なんという不思議な能力。

それだけじゃない、縦と横の規格の組み合わせを探すだけで掛け算や割り算も瞬時に答が分かるというまるで魔法の数値表まで使いこなしてしまう。


私は時々、九九で済ませたり蝋版に割り算を書いてしまうたび、「今のそこ、当てずっぽうじゃなくて計算しなさい。」とミレーヌ先生から叱られる。

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