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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
王都ヴァルモンド
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15/42

仕立屋

派遣のお仕事で私が着ていたのは、組合の見習いであることを示す文官ローブ。上着だけが制服と言っていいものだ。そんなローブを外した姿は、庶民なりに精一杯余所(よそ)行きな私になる。

いよいよ拷問が始まるのかという覚悟で私が昨夜着せ替えられたのは、寝間着と、朝食の前に着せ替えられた衣服。

そのどっちも使用人の物というわけではない。いつの頃のどの娘さんの物か、下着《シフト》も上着《チュニック》も布地や裁縫様式から異なる。保管がちょっと古そうで、寸法がちょっと大きいだけの、ご立派なお洋服だった。


「小さな女の子がいる家じゃないので臨時でごめんなさいねエレナさま、でもお可愛いですよ。」

「エレナさまの背丈に合わせたお洋服も、ご用意を急いでもらえるようですから。それまでは我慢してね。」

そんな事を言われながら、私の貧相極まりない大事な余所行き服は、なんだか新しい雑巾かのような畳まれ方をして没収された。きっと床が汚れた時には間違えられて無事再会できたりするんじゃないかしら。


なるほど、こんなどこかの商家のお嬢さまのような子供服を着た私では、確かに市街を逃走時に目立ってしまう。この幽閉計画は実に完璧にできてるようだわね。


昨日はすぐにでも調理されてしまうとばかり思いこんで怯えていた私。こうして2食もお食事を頂く側に座れて、仕女《メイド》2人の名前も教えてもらったりしている。

あと何日か分からないけど生きていられそう。

「奥様からはエレナさまにこれを見せてあげてと仰せつかってますよ。ここの若旦那さまがお坊ちゃまだった頃のどなたかのお手製ね。」

それは手帳みたいな大きさに綴じられた本。

この時代には印刷技術が無いので本は特別な写本ばかりだし、よっぽどの事がなければ写本も見る機会はないけど。

それでも算術士の見習いをしていると書類はいつも大量に見る。羊皮紙は失敗しても表面を削ると書き直せるのでそうそう無駄にはならない。だけど後世の砂消しゴムと同じで、削れる厚みの限度はあるので、ちょっとは丸々1枚の無駄紙が発生する。それは商家の書類でも同じなんだろう。

つまりこの時代には、羊皮紙の裏紙というものがあるのね。


A — なんだろう、木が生えているお庭。

B — お皿に乗った丸い物。1種類ではない。

C — 犬に似てるけど猫じゃないの。何の動物?

D — これもお皿に乗ってるけど、分からない。

E — 葉っぱ。種類は分かりません。

F — 果物が数種類だ。たぶんフルーツ。

G — 猫がここにいる。キャットに濁点が付くっぽい。


聞いてみるとどれもラテン語ですって。

日本人の私の転生の場合、思考は日本語なのよね。お喋りが異世界語、という感じで不思議と困らない。だけどそれが文字になるとゲシュタルト崩壊(よめたのにわからない)みたいな事になっていて、憶え直すとすんなり読めるようになる。不思議。


アニェスとイスベルは、そんな私を普通の11歳のオルダニア王国育ちの平民だと疑わずに、言葉当て遊びを楽しそうに教えてくれる。当たったり外れたりする私も何度か笑ってしまう。

「もう少ししたらお昼ね。エレナさま、今日の午後からお忙しくなるわよ。」

ああ、そうでしたね。そうでした、ついに私への拷問が始まる。


いつの頃から夕食をディナーと呼ぶようになったか分からないけど、この時代は昼食をディナーと呼ぶの。

一日2食みたいな決まりも聞く事はあるにしても、私みたいな成長期の子供や、大人でも働き者さんは朝から晩まで3食しっかり食べるのが実際のところね。そしてコルスル家は裕福なので普通に3食、どれも均等に豪華になってる感じ。

相変わらず、処刑執行直前のような最後の食事。私にはそれくらい豪華だけど味わえない昼食を、ロイエル夫人と一緒に過ごす。何かお忙しそうで、昨日よりは物静かなご様子だ。

そのためか総勢3人の仕女《メイド》さんたちは座らずにお給仕専門になってる。昨晩みたいに一緒にお食事してもいいのに。あっはい、お替りお願いします。

「それじゃエレナさん、お夕食には色々感想を聞かせてちょうだいね。」

くっ、やはりそうなるのか。私はこれから始まる拷問の末に恐怖のあまりに全てを白状させられるのだろう。


急がされなかったけれど、子供部屋に戻ってお腹がこなれてきた頃合い。


案の定、熱湯《てきおん》の湯桶と布類が持ち込まれる。2人の看守《メイド》の手により私は下着姿にされて辱められ(あらってもらい)、何かの自白薬《こうすい》を吹き付けられる。そして抗いもできないまま髪の毛を拘束され(たばねられ)る。

そこへ間もなく、片眼鏡をかけた女性の尋問官《したてや》は深々と頭を下げて重々しく現れた。色々な拷問具《おどうぐ》が入ったカバンが重そうだものね。


あられもない下着姿の私は身体測定よりも大掛かりな姿勢を取らされ、なんと肘や膝までの長さや脚周りや、挙句はスリーサイズまで計測される恥辱《ちじょく》。

こんな事なら……さっきのお替り2杯目と3杯目は控えるべきだったかしら。

%%% 手作り絵本の答え合わせ(中世ラテン語) %%%


A — arbor(アルボル)=木・樹木

B — baca(バカ)=木の実・ベリー類

C — canis(カニス)=犬

D — dulce(ドゥルケ)=甘いもの

E — herba(ヘルバ)=草・薬草

F — fructus(フルクトゥス)=果物・収穫物

G — gattus(ガットゥス)=猫

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