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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
王都ヴァルモンド
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脱出断念

なんだか 気持ちの良い悪夢 だった余韻がするんだけど、どんな夢だったかは瞬間で忘れた。目を開けたらベッドの左右に何も言わないでいるアニェスとイスベルが立ってるんだもの。

「わ、うひゃっ。あ……おはようございます。」

「おはようございます、エレナさま。」

「うふふ、お好きに眠ってらして大丈夫ですよ。」

「あのう……そこでお2人は、何を?」

「お寝返りでお布団がずれたらお風邪を引いてしまいますわ。」

涼しいと思ったら本能で布団を自分で引っ張るし。そんな2人体制でいられたら二度寝できませんよ。


昨日のうちから、仕事場に行く時の渡り通路から逃走をしようと私は企てていた。

だけど今朝の私はあの仕事場に行く事すらなかった。どのみちアニェスもイスベルも揃って脚が速そうなのよね。

昨日のダイニングに連れられて行くけど、ロイエル夫人の姿はない。代わりに昨夜は見かけなかった仕女《メイド》さんが調理場にいて、イスベルがそこに加わる。アニェスは私を座らせつつ傍《そば》を離れない。

空腹どころじゃない私の目の前には、黒パンと具材入りの燕麦粥《ポリッジ》、チーズや果物も少しずつ並んでいく。

パパ、ママ、見えますか? あ、生きてますから見えないわよね。何でもないはずの朝の食事なのに、我が家だったらご馳走の日と同じくらい豪華。


調理担当ベルナデールさんが連絡をしたらしく、私がパンをかじり始めた頃に、ご夫人にお付きのはずのマルグリットさんが革袋を持ってきた。

「おはようございます、よく寝られましたか? エレナさまにお返事が届いております。」

たった一晩で早いお返事だ。そしておそらく仕女《メイド》長の責任で、私にも分かりやすく読み上げてくれる。


ベルトラム師匠からは、[ 見習助手の一人に思いもかけぬ抜擢、どうか修行の程をよろしくお取り計らい願います。 ]みたいな感じ。


そして私の両親からは、[ 幼き娘にとって身に余る機会にございます、何年であろうともお導き下さいますよう。 ]何年でも、と言ったのはパパかい? ママかな?


パンやチーズの脂で触りたくなかったので見せられただけだけど、確かに師匠やパパの筆跡に見える。サインのところだけね。

「お師匠さまも、ご両親さまも、この通り喜ばれておりますわ。ご才能ある女の子ですもの、ご期待にお応えしましょう。」

今のところ不正経理に気が付いた才能だけなんですよね。

そして意外な事には、個人的なお手紙は自由と言われた。でももう少し落ち着いてからがご心配されずに良いでしょうとも言われた。

というわけで、私に関係する大人たち全員の合意形成によって、私エレナは元の生活に戻れないことが確定した。


あのう、私個人の意思の尊重は、……どこ?


昨日の件で何がどう見直しをされたのか、リサとノーラの派遣もしばらく中断になったらしく、これでは入れ替わり作戦も実行できそうにない。

計算の仕事をしなくて良くなり、仕方なく幽閉されるのかと思っていた子供部屋のはずが、案外忙しい生活の始まりの場となることも分かった。


仕立屋は私を見て言う。

「せっかくお似合いなのですから、女の子らしくもっと普通の笑顔にね。」

いえ、地顔です。


家庭教師は私を見て言う。

「難しい勉強ですが、そう仏頂面では頭にも入りませんよ。」

ですから地顔ですって。


ご夫人は私を見て言う。

「そんなに険しいお顔……エレナさんはあの件を見通しているのですものね。」

地顔でございますのロイエル夫人。

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