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転生腹黒ヒロイン  作者: 純銀
王都ヴァルモンド
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13/42

お泊り

「そうだ3人一緒に合宿しよう?」

……という私の咄嗟のアイデアは、リサとノーラの本人たちが畏れ多そうに辞退したため、私は置き去りにされて見送った。そう、私は組合から派遣された見習い女子でしかなく、目の前にいるロイエル夫人は畏れ多いご婦人だった。


応接室に残ったのはそんなロイエル夫人と享年11歳になろうとしている私。

ちらっと顔を向けると、鬼の形相に豹変していたかというとそんな事はなく、やはりいつもよりは優しい笑みのまま。私たちにもお茶を淹れてくれていた仕女《メイド》に、何かの合図をする。

「かしこまりました奥様。それではエレナさま、いつものお仕事場とは違うお部屋にご案内いたしますわね。」

この時代は仕女《メイド》と言ってもフリルエプロンも無ければカチューシャすらないのでイメージしづらいけど。自分が「さま」付けで呼ばれたのは初めてだった。


大商家コルスル家の大きな建物は複雑で、取り扱い商品などの倉庫が見える渡り通路を歩いた先には別邸があった。

私は手錠を掛けられたわけでもないのに自分で両手首を揃えて歩く。向かう先が牢獄なのか拷問室なのか調理場なのか分からない事で恐怖を不確定にしながら、連れていかれる。意外な事に地下深くへの階段ではなくて上への階段を上って、その先の扉の前に立たされた。

商家の監獄は2階にあるのか、と思いながら私が促されて、先に入室して見渡す。

そこは装飾品や書物棚がある、ちょっと子供向けっぽさのある寝室だった。お掃除を済ませたばかりというふうの1人が待機していて仕女《メイド》が2人になる。

いよいよ私への拷問が始まるのかしら。看守が2人揃い、そこにはこれから始まる何かの静けさが漂う。


上着を1枚お脱ぎになっていくぶん部屋着姿となったロイエル夫人が現れる。このお部屋は掃除されているのが当たり前、といった様子。

「ようこそおいでませ、エレナさん。」

「奥様、あの。そのう、私はどこをお掃除すればいいでしょうか。どこにも……汚れが残ってないけど。」

「このお部屋はね、そのうち孫娘ができたらいいなと思って作っておいた子供部屋なの。エレナさんのお好きに使ってもらえたら嬉しいわ。」

「そんな、私なんてその辺の椅子か布が1つあれば十分です。明日のお仕事が終わったら帰るんですし。」

そう言われると、夫人と仕女《メイド》の3人は何が面白いのか、おほほほ、うふふふ、くすくすくす、と楽しそうにしている。


「それじゃあ、お前たち、まだ時間があるから退屈のないようお相手してあげるのよ。エレナさん、このお部屋で過ごしていてね。」

私はいよいよ悲鳴を上げそうになりながら、さっきから恐ろしい笑顔を浮かべていた2人からついに手首を取られ、膝の上に羽交い絞めに(だっこ)される。

「何がお好きかしら。あやとりにします? 手毬は今作ったばかりですけど、えいっ。」

手指の自由を奪われて柔らかい紐でいよいよ拘束《あやとり》が始まり、膨らんだ布袋が私を掠めてくる恐怖。えいっ、アンダーハンドパス。

そしてどちらかが口遊《くちずさ》み始めた鼻歌を私は知っていたので3人で一緒に歌い、歌詞を正しく知っているかを調べら(つきあわさ)れた。


そんな子供部屋からやっと出られたのは、夕方よりも遅くだった。私の家だったらロウソクが勿体ないので一日を終える時間。陽が落ちてから連れられた先は、そんなロウソクが数本も使われて明るく灯されている広間だ。

私のお腹を強烈に刺激する匂いが漂っている。

「えっと、私はこれからどんな見世物にされるんでしょうか?」

「エレナさん。お腹空いたでしょ。お前たちどうして一緒に立ってるの、お席に着いてもらって。」

まるでご貴族さまのようなはずのロイエル夫人が、仕女《メイド》たちと一緒に腕をまくって調理場とテーブルを行き来してる。女将さんみたい。

「マルグリット、シトロンの味を見てちょうだい、蜂蜜とお砂糖のどっちが合うかしら。」

「このパルミジャーノってどう削るのが美味しいんでしょ、固いわ。」

もう少しすると私は調理場に呼ばれて茹で上げられて、チーズをトッピングされた晩餐のメインディッシュになるのだろう。


「旦那はね、付き合いなのか自分から言い出すのか分からないけど、お仕事仲間と外食ばっかりよ。私は取り扱い商品の味見係みたいなものだわ。」

「それはそれでお贅沢でございますので、奥様。」

「今日はお客様がいらっしゃるので私どもはお見守りを……。」

「ここに旦那はいないのよ? 一緒に座りなさいな。エレナさんだって大勢で食べたいわよね?」

「あらエレナさま、お上手ですわ。ナイフの使い方がお上品ね。」

分かった、今日は私を肥えさせる日なんだな、と思った。どうせなら美味しくなってやる。


意外だったのは、お金持ちでも入浴の習慣が毎日とかいうわけではない事。説明はしづらいけど身体の汚れの概念って時代で変わるのでみっともないという事はない。

お手手と顔は洗うわね。

それと初めての体験になる天蓋付きのベッド。天蓋は素敵よね……庶民の家には蚊帳なんて無いんだもの。蚊取り技術の無い異世界では重要だと思う。

おかげで私は今夜中の脱出の策を考えながら、些細な事で眠る事もできくなる多感な年頃だというのに迂闊にも熟睡に陥った。

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