白い空【第四話】
気づけば、僕は炎を叩きつけていた。
侵入者もこちらに気づき、黒い筒状の武器を向ける。
――バンッ!!
激しい破裂音。
しかし、撃ち出された鉄塊は、炎へ触れた瞬間に赤熱し、そのまま溶け落ちた。
炎は止まらない。
渦を巻いた炎は竜の形を成し、そのまま侵入者へ喰らいつく。
黒装束が一瞬で燃え上がった。
熱風が吹き荒れる。
侵入者は声もなく崩れ落ち、その場へ倒れ込んだ。
……勝った。
けれど――どうするべきだろう。
外からは今も、悲鳴と破裂音が響いている。
ここを離れるべきか。
それとも孤児院に隠れるべきか。
……いや
まずはリリーと合流しないと。
そう考え、二階へ向かおうとして――視界の端で”それ”を捉えた。
燃え上がっていたはずの侵入者が、立っている。
「な……!?」
黒い仮面が、ゆっくりこちらを向いた。
そして、何かを放り投げる。
コロコロと床を転がり、僕の足元へ辿り着いたそれは――
轟音と閃光を炸裂させた。
「――っ!?」
視界が真っ白に染まる。
耳鳴りが脳を揺さぶった。
「ああああああっ……!」
何も見えない。
何も聞こえない。
なんでだ。
確かに燃やしたはず。
熱い。
痛い。
息がうまく吸えない。
僕は必死に床を這った。
だが、感覚が戻った時には――もう遅かった。
侵入者は僕へ跨り、黒い武器をこちらへ突き付けている。
黒い穴が、目の前にあった。
不思議と、頭は冷静だった。
数えきれない記憶が、脳裏を巡る。
アンバーさん。
孤児院のみんな。
白い空。
そして――思い出した。
小さい頃に交わした、”彼女”との約束を。
* * *
「ん……」
リリーは難なく、砂場から”青空”を抽出してみせた。
「ありがとう、リリー!やっぱり凄いな、その術式。
「別に。たまたま役に立っただけでしょ」
そう言って、リリーは”青空”を僕へ手渡す。
紙には、どこまでも澄み渡る青が描かれていた。
「この空……結界の外には、本当にこんな空が広がっているんだよね。僕、いつか見てみたいんだ」
「へぇ……私は興味ないな、そんなの」
「そんなの、とか言わないでよ」
「青い空を見たところで、お腹は膨れないでしょ?」
「あはは……そういうリリーは、夢とかないの?
「あるよ」
リリーはそう言って、僕へ向き直った。
その表情は、少しだけ大人びて見えた。
「ずっとこのまま、平和に過ごしたい」
風が吹く。
夕暮れ色の髪が、静かに揺れた。
「何も特別なことなんてなくていい。ルークやアンバーさん、孤児院のみんなと、一緒にいられたら」
「…………」
「あ、そうだ。パン屋とかどう?」
「パン屋?」
「うん。二人でやるの」
リリーは珍しく、楽しそうに笑った。
「余ったパンは孤児院に流してやればいい。私たちは感謝されるし、パンも余らない。合理的でしょ?」
「なんだよそれ」
「いい案じゃない?」
なんて素直じゃないやつだ。
でも――悪くないと思った。
「……そういうのも、いいかもね」
「OK。じゃあ約束」
リリーが拳を突き出す。
僕も笑って、その拳を自分の拳へぶつけた。
* * *
……そうだ。
僕は約束していたんだ。
青空ばかり見て。
外の世界ばかり見て。
その約束を、いつの間にか忘れていた。
リリーは、僕を止めたかったわけじゃない。
ただ――守りたかったんだ。
この日々を。
孤児院を。
僕を。
それでも彼女は、最後には「一緒に行く」と言ってくれた。
謝らないと。
約束を守らないと。
なのに――
「ごめんリリー……僕は……」
そこで、僕の夢は終わった。




