白い空【第三話】
孤児院の中には、灯りが残っていた。
怯える子どもたちを見て、リリーがしゃがみ込む。
「騒がないの」
そう言って、一人ずつ頭を撫でていた。
小さな子がリリーの服をぎゅっと掴む。
「そ、空が急に……!」
自分でも声が上擦っているのが分かった。
アンバーさんは僕たちを見る。
その表情が、一瞬だけ強張った。
「あたなたち二人、二階へ行って」
「え?」
「何があっても、出てきちゃダメよ」
「ちょっと!アンバーさん、どういうこと?」
けれど、アンバーさんは答えなかった。
僕たちを急かすように、階段へと向かわせた。
* * *
あれから数時間。
時間的には、もうすっかり夜になっていた。
「何だったんだろ?あれ……」
「分からないけど……」
僕らは二階にあるリリーの部屋にいた。
リリーはベッドへ寝転がり、ぼんやりと天井を見つめている。
窓の外は、異様なほど静かだった。
空を覆う”白”。
それは、タラッサを外から守るための結界だと、アンバーさんが昔、僕らに教えてくれた。
だとすると――
嫌な予感が、胸の奥をゆっくり冷やしていく。
その時だった。
ガタッ、と窓ガラスが震えた。
そして――
ドォン!
外から爆発みたいな破裂音が叩きつけられる。
夜を裂くような轟音が、続けざまに響いた。
部屋のランプがぴくりと揺れる。
孤児院の外から、子どもの悲鳴が聞こえた。
それに重なるように、大人の叫び声も響く。
「な、何……?」
リリーが飛び起きる。
僕たちは反射的に窓へ駆け寄り、外を覗き込んだ。
* * *
窓の外では、黒装束の集団が暴れ回っていた。
頭には、黒い仮面のようなものを被っている。
奴らは手にした黒い筒状の武器を、人々に向け――
バンッ!
耳を裂くような破裂音。
激しい火花が散った。
通りを逃げていた男の肩が弾け飛び、血を撒き散らしながら倒れこむ。
悲鳴が上がった。
誰かが叫び、誰かが逃げまどい、誰かが倒れる。
「なに……あれ……」
リリーの声が震えていた。
「リリー、ここにいて!」
僕は叫ぶと同時に、部屋を飛び出した。
階段へ向かう途中、一回から悲鳴と破裂音が響く。
嫌な予感が背筋を駆け抜けた。
やめろ。
間に合ってくれ。
階段を駆け下りる。
だが――もう遅かった。
孤児院の一階は、血に沈んでいた。
むせ返るような血の臭い。
鉄みたいな臭気が肺に入り込み、吐き気が込み上げる。
赤く濡れた床の上に、子どもたちが折り重なるように倒れていた。
そして――
「アンバー……さん……?」
顔はもう、原形を留めていない。
さっきまで浮かべていた優しい笑顔は、どこにもなかった。
床には、小さな鉄の塊がいくつも転がっていた。
黒い武器から、これを撃ち出しているのか……?
侵入者は、一人。
たった一人で――ここまでやったのか。




