第3話『届かない声』
春――数日後。
キャンパス。
昼休み。
「……」
スマホを見る。
既読は、ついている。
でも――
返信が、来ない。
(……忙しいのかな)
そう思いながらも、
指が、もう一度画面を更新する。
「……陽菜さん?」
「……っ」
顔を上げる。
「……あ、ごめん」
友達が少し笑う。
「なんかずっとスマホ見てる」
「……ちょっとだけ」
「彼氏?」
「……うん」
少しだけ、照れながら答える。
「いいな〜」
「……そんなことないよ」
でも――
(返信、来ないし)
「……大丈夫?」
「……え?」
「なんか元気ない」
「……大丈夫」
笑う。
でも――
心は、少し重い。
(なんでだろ)
(ちょっと前まで)
(あんなに近かったのに)
スマホを見る。
既読のまま。
(……やっぱり)
(忙しいよね)
自分に言い聞かせる。
午後――講義。
ノートを開く。
でも――
(何してるんだろ)
(誰といるんだろ)
頭に浮かぶのは、そればかり。
(……ダメだ)
首を振る。
(こんなの、重い)
講義終了。
「……陽菜」
「……っ」
振り向く。
「……さくやさん」
「……終わったか」
「……はい」
少しの沈黙。
「……どうした」
「……え?」
「……顔」
「……普通です」
「……嘘つけ」
「……」
視線が、逸れる。
「……陽菜」
「……はい」
「……なんかあったか」
(言う?)
(でも)
(重いって思われる)
「……なんでもないです」
「……ほんとか?」
「……はい」
短い返事。
空気が、少しだけ冷える。
「……」
「……陽菜」
「……はい」
「……俺、なんかしたか」
その一言。
「……」
胸が、ぎゅっとなる。
「……してないです」
「……じゃあなんで」
「……」
言葉が、詰まる。
(言えない)
(でも、言わないと)
「……連絡」
「……?」
「……遅いなって思って」
やっと出た言葉。
「……ああ」
「……」
「……ごめん」
あっさりした返事。
「……忙しくて」
「……」
「……サークルの説明会とかあって」
「……そうなんですね」
わかってる。
でも――
「……でも」
「……?」
「……一言くらい」
声が、少し震える。
「……ほしかったです」
沈黙。
「……」
「……陽菜」
「……はい」
「……そんなに気にするか?」
その一言。
「……っ」
胸が、強く痛む。
「……気にします」
「……」
「……だって」
「……」
「……待ってたから」
その言葉。
「……」
「……」
空気が、重くなる。
「……悪かった」
さくやが、少しだけ目を逸らす。
「……でもさ」
「……?」
「……毎回すぐ返せるわけじゃないだろ」
その言葉。
「……」
「……」
「……分かってます」
でも――
「……でも、寂しかったです」
沈黙。
風の音。
「……陽菜」
「……はい」
「……それ、言い方あるだろ」
「……え?」
「……責めてるみたいになってる」
その一言。
「……っ」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……そんなつもりじゃ」
「……でも、そう聞こえた」
「……」
言葉が、出ない。
(違う)
(そんなつもりじゃない)
「……」
「……陽菜」
「……はい」
「……もっと軽く言えよ」
その言葉。
「……」
「……私」
声が、震える。
「……軽く言えません」
「……」
「……本気だから」
沈黙。
「……」
「……そんなに重く考えなくていいだろ」
その一言。
「……っ」
涙が、にじむ。
「……重いって思ってますよね」
「……は?」
「……今の」
「……」
「……そう聞こえました」
「……違う」
「……」
「……俺はただ」
「……?」
「……そこまで思い詰めるなって」
「……」
「……」
でも――
(伝わらない)
(言葉が、ズレていく)
「……陽菜」
「……はい」
「……どうしたい」
その問い。
「……」
(どうしたい?)
(わからない)
「……」
「……分からないです」
やっと出た言葉。
「……」
沈黙。
空気が、重い。
「……今日は帰る」
さくやが、ぽつりと言う。
「……え」
「……少し、頭冷やしたい」
その一言。
「……」
胸が、ズキンと痛む。
「……はい」
止められない。
「……またな」
背中が、遠ざかる。
「……」
立ち尽くす。
(なんで)
(こうなったの)
さっきまで、普通だったのに。
(違う)
(ずっと、ズレてた)
涙が、こぼれる。
「……っ」
拭いても、止まらない。
(好きなのに)
(ちゃんと伝えたいのに)
(どうして)
(伝わらないの)
夕焼け。
一人。
(……どうしたらいいの)
答えは、まだ出ない。
それが――
“すれ違いのはじまり”。




