第16話『この一歩に、全部を』
冬――受験前日。
部屋。
机の上には、使い込んだ参考書。
書き込みだらけのノート。
「……」
ペンを持つ手が、少し震える。
(……ここまで来た)
でも――
「……怖い」
小さく呟く。
(もしダメだったら)
(もし届かなかったら)
スマホを見る。
画面。
名前。
少し迷って――
電話をかける。
「……もしもし」
「……陽菜?」
その声。
少しだけ、安心する。
「……さくやさん」
「……どうした」
「……明日です」
「……ああ」
「……怖いです」
正直に言う。
「……」
少しの沈黙。
「……そりゃ、怖いだろ」
「……」
「……ここまで頑張ってきたんだ」
「……はい」
「……簡単なわけない」
その言葉に、少しだけ息が整う。
「……でも」
「……?」
「……大丈夫だ」
その一言。
「……」
「……陽菜」
「……はい」
「……今まで、逃げなかっただろ」
「……」
「……泣きながらでも、やってきただろ」
「……」
「……それ、全部本物だ」
胸が、じんわり温かくなる。
「……さくやさん」
「……ん?」
「……もし」
少しだけ声が震える。
「……もし、ダメだったら」
「……」
「……どうしますか」
その問い。
「……その時は」
少しだけ間を置いて。
「……また一緒に考えればいい」
「……」
「……終わりじゃない」
その言葉。
「……」
「……でも」
少しだけ笑う声。
「……俺は、陽菜が受かるって思ってる」
「……」
「……根拠は?」
少しだけ聞く。
「……勘」
「……」
「……もう」
思わず笑う。
「……適当ですね」
「……でも当たる」
そのやり取りに、少しだけ力が抜ける。
「……陽菜」
「……はい」
「……大丈夫だ」
「……」
「……信じろ」
その一言。
「……はい」
受験当日――
朝。
冷たい空気。
白い息。
「……よし」
小さく呟く。
(やるだけ)
会場前。
人の波。
緊張した空気。
(みんな同じなんだ)
少しだけ深呼吸。
スマホを見る。
《頑張れ》
短い一言。
でも――
「……はい」
小さく返す。
(行ってきます)
試験中――
問題用紙。
(……来た)
一問目。
(落ち着いて)
書く。
(二問目)
(大丈夫)
手は、止まらない。
でも――
途中で、詰まる。
(……あれ)
(思い出せない)
心臓が、速くなる。
(やばい)
(どうしよう)
手が、止まりそうになる。
(……落ち着いて)
深呼吸。
(ここまでやってきたでしょ)
(逃げないって決めたでしょ)
ペンを握り直す。
(……思い出して)
ゆっくり。
一つずつ。
(……あ)
解ける。
(いける)
試験終了。
「……はぁ」
大きく息を吐く。
(終わった)
足が、少し震える。
外に出る。
冷たい空気。
空を見上げる。
「……」
(やれることは、やった)
スマホを取り出す。
電話をかける。
「……もしもし」
「……陽菜?」
その声。
「……終わりました」
「……お疲れ」
その一言で、涙がにじむ。
「……どうだった」
「……」
少しだけ考える。
「……全部、出し切りました」
「……」
「……そっか」
「……はい」
「……じゃあ」
少しだけ優しい声。
「……もう、後は結果待つだけだな」
「……はい」
「……陽菜」
「……はい」
「……よくやった」
その一言。
涙が、こぼれる。
「……ありがとうございます」
「……泣くな」
「……無理です」
少し笑う。
「……陽菜」
「……はい」
「……会いたいな」
その一言。
「……私も」
空を見上げる。
(ここまで来た)
(あとは――)
“結果を待つだけ”




