第15話『会えなかった時間を、抱きしめて』
秋――文化祭前日。
教室は、いつもより賑やかだった。
「ひなー!それ貼って!」
「……うん!」
装飾の準備。
笑い声。
色とりどりの飾り。
でも――
(明日、来るんだ)
胸が、少しだけ落ち着かない。
「陽菜さん、今日テンション高くない?」
「……え?」
「なんか、ニヤニヤしてる」
「……してないよ」
慌てて否定する。
(バレてる……?)
「……もしかして」
友達がニヤッとする。
「……例の人?」
「……っ」
一瞬、固まる。
「……違うってば」
「絶対そうじゃん!」
「……もう」
少しだけ笑う。
(……来るって言ってたもんね)
夜――
《明日、行く》
短いメッセージ。
でも、それだけで。
「……」
頬が、少しだけ緩む。
文化祭当日――
「いらっしゃいませー!」
クラスの出し物。
接客。
笑顔。
でも――
(まだかな)
何度も、入口を見る。
「陽菜さーん」
「……はい?」
「目、外にいきすぎ!」
「……すみません」
苦笑い。
その時。
「……陽菜」
「……っ」
その声。
一瞬で、わかる。
振り向く。
「……さくやさん」
そこにいた。
私服姿。
少し大人びた雰囲気。
でも――
変わらない笑顔。
「……久しぶり」
「……はい」
言葉が、うまく出ない。
「……元気そうだな」
「……さくやさんも」
少しだけ、沈黙。
でも――
その沈黙が、懐かしい。
「……来てくれたんですね」
「……約束しただろ」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「……今、いい?」
「……うん」
少しだけ外に出る。
校舎裏。
少し静かな場所。
「……」
見つめ合う。
(……近い)
(でも、少し遠い)
「……陽菜」
「……はい」
「……頑張ってるな」
その一言。
「……見てましたか?」
「……さっきから」
少し笑う。
「……すごいなって思った」
胸が、ぎゅっとなる。
「……さくやさん」
「……ん?」
「……会いたかったです」
やっと言えた。
「……俺も」
すぐに返ってくる。
「……めちゃくちゃ会いたかった」
その言葉に、涙がにじむ。
「……陽菜」
「……はい」
「……ちょっといい?」
その一言。
次の瞬間――
ぎゅっと、抱きしめられる。
「……っ」
強く。
でも、優しく。
「……さくやさん」
「……少しだけ」
「……」
「……このままで」
「……はい」
抱き返す。
(あったかい)
(ずっと、これが欲しかった)
「……陽菜」
「……はい」
「……頑張ってるな」
もう一度、言う。
「……頑張ってます」
「……知ってる」
その言葉に、涙がこぼれる。
「……泣くな」
「……無理です」
少し笑う。
ゆっくり離れる。
でも――
手は、そのまま。
「……明日、体育祭だろ」
「……はい」
「……それも見る」
「……ほんとですか?」
「……当たり前」
「……嬉しい」
翌日――体育祭。
「陽菜さん!次出番だよ!」
「……はい!」
走る。
応援。
叫ぶ。
(見てるかな)
ゴール。
「はぁ……はぁ……」
息が上がる。
「……陽菜」
その声。
振り向く。
「……さくやさん」
「……速かったな」
「……見てたんですか?」
「……全部」
その一言で、胸がいっぱいになる。
「……どうでした?」
「……かっこよかった」
「……っ」
照れる。
「……陽菜」
「……はい」
「……ちゃんと前に進んでるな」
その言葉に、少しだけ涙がにじむ。
「……さくやさんのおかげです」
「……違う」
首を振る。
「……陽菜が頑張ったからだろ」
その言葉に、強く頷く。
夕方――
帰り道。
二人で並んで歩く。
「……久しぶりですね」
「……だな」
「……なんか」
少し笑う。
「……時間、戻ったみたいです」
「……戻ってない」
「……え?」
「……進んでる」
その言葉。
「……」
「……でも」
少しだけ笑う。
「……一緒にいられるのは同じ」
胸が、じんわり温かくなる。
「……陽菜」
「……はい」
「……受験、もうすぐだな」
「……はい」
「……大丈夫か?」
「……大丈夫です」
少しだけ、強く言う。
「……絶対、行きます」
「……ああ」
「……待ってる」
その一言。
「……陽菜」
「……はい」
「……好きだよ」
「……私も」
「……好きです」
夕焼けの中。
手を、ぎゅっと握る。
(会えなかった時間)
(全部、埋まった気がする)
それでも。
また、離れる。
でも――
(大丈夫)
(ちゃんと繋がってる)
それが、
“今の二人の強さ”だった。




