第14話『それでも、あなたを選ぶ』
秋――放課後。
教室に差し込む夕焼けが、少しだけ寂しい色をしていた。
「……はぁ」
ペンを止める。
ノートは、文字で埋まっている。
(……疲れた)
でも、手は止めない。
(ここでやめたら、意味ない)
そう思った瞬間――
「……陽菜さん」
「……え?」
呼ばれて、振り向く。
教室のドアのところ。
隣のクラスの男子。
「……來斗くん」
少しだけ緊張した顔。
「……ちょっといい?」
「……うん」
自然に立ち上がる。
でも――
胸の奥が、少しだけざわつく。
校舎裏。
風が、冷たい。
夕焼けが、ゆっくり沈んでいく。
「……どうしたの?」
「……」
來斗くんは、少しだけ視線を落としたまま。
「……急に呼び出して、ごめん」
「……大丈夫」
小さく笑う。
「……陽菜さん」
「……うん」
「……俺さ」
息を吸う音。
少しだけ、空気が変わる。
「……ずっと気になってた」
「……」
心臓が、少しだけ強く鳴る。
「……頑張ってるじゃん」
「……」
「……一人で、ずっと」
「……」
その言葉に、少しだけ驚く。
(……見てたんだ)
「……すごいなって思って」
「……」
「……だから」
顔を上げる。
まっすぐな目。
「……好きです」
その一言。
時間が、止まる。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
(……どうしよう)
(ちゃんと答えないと)
「……陽菜さん?」
「……」
呼ばれる。
我に返る。
「……ありがとう」
ゆっくり言う。
「……すごく、嬉しい」
本当の気持ち。
でも――
「……ごめんね」
その一言で、空気が変わる。
「……やっぱり、ダメ?」
小さな声。
「……好きな人がいます」
はっきり言う。
「……」
沈黙。
「……その人と」
少しだけ息を整える。
「……約束してるから」
「……そっか」
來斗くんが、小さく笑う。
でも――
少しだけ、寂しそう。
「……遠距離?」
「……うん」
「……きつくない?」
その問い。
「……きついよ」
正直に答える。
「……毎日、寂しいし」
「……」
「……会いたいって思うし」
「……」
「……不安にもなる」
言葉にするたびに、
胸の奥が少しずつ痛くなる。
「……じゃあ、なんで」
その問い。
(……なんで)
一瞬、迷う。
でも――
「……それでも、その人がいいから」
自然に出た言葉。
「……」
來斗くんが、少しだけ目を見開く。
「……陽菜さんってさ」
「……?」
「……強いよな」
「……全然」
首を振る。
「……弱いよ」
「……え?」
「……すぐ不安になるし」
「……」
「……泣きそうになることもある」
「……」
「……でも」
顔を上げる。
「……それでも」
「……その人を選びたいって思えるから」
その一言。
沈黙。
風が吹く。
「……負けたな」
來斗くんが、小さく笑う。
「……そんな顔で言われたら」
「……引けない」
「……陽菜さん」
「……うん」
「……その人、大事にしろよ」
「……うん」
強く頷く。
「……泣かせたら、俺が奪うから」
少しだけ冗談っぽく言う。
「……ふふ」
思わず笑う。
「……ありがとう」
「……じゃあな」
背中が、遠ざかっていく。
静かになる。
「……」
空を見上げる。
夕焼け。
(……さくやさん)
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
スマホを取り出す。
《今、少しだけいいですか?》
送信。
すぐに返信が来る。
《いいよ》
電話をかける。
「……もしもし」
「……陽菜?」
その声。
一瞬で、全部ほどける。
「……さくやさん」
少しだけ、声が震える。
「……どうした」
「……今日」
深呼吸。
「……告白されました」
「……」
沈黙。
「……ちゃんと断りました」
「……」
「……でも」
言葉が、少し詰まる。
「……少しだけ、揺れました」
正直に言う。
「……」
「……それでも」
「……さくやさんを選びました」
その一言。
「……陽菜」
優しい声。
「……ありがとう」
「……え?」
「……ちゃんと、選んでくれて」
胸が、じんわり温かくなる。
「……揺れるのは当たり前だ」
「……」
「……それでも、俺を選んだんだろ」
「……うん」
「……なら、それでいい」
涙が、こぼれる。
「……陽菜」
「……はい」
「……好きだよ」
「……私も」
「……好きです」
(揺れた)
(迷った)
それでも――
(選んだ)
それが、
“本当の想い”。




