第13話『君がいない春』
春――新学期。
教室。
「……ひな、おはよ!」
「……おはよう」
新しいクラス。
新しい席。
新しい空気。
でも――
(……なんか、変)
見慣れていた景色なのに。
どこか、足りない。
「ひな、クラス離れちゃったねー」
「……だね」
「でもまあ、放課後会えるし!」
「……うん」
笑う。
でも――
(放課後)
その言葉に、少しだけ引っかかる。
放課後――
足が、止まる。
(……屋上)
いつもの場所。
でも――
「……」
行かない。
(……いないから)
ドアの前で、引き返す。
帰り道。
一人で歩く。
(こんなに静かだったっけ)
足音だけが響く。
「……さくやさん」
名前を呼ぶ。
当然、返事はない。
夜――部屋。
スマホを見る。
通知。
《今日から大学だった》
「……っ」
少しだけ笑う。
《どうでしたか?》
すぐに送る。
数分後。
《人多すぎて疲れた》
思わず笑う。
《お疲れ様です》
《ひなは?》
「……」
少しだけ考えて。
《普通でした》
送信。
少しの沈黙。
(……普通、か)
自分で打った言葉が、少しだけ寂しい。
《そっか》
短い返信。
(……なんか)
(距離、あるな)
「……ねぇ」
思わず送る。
《もう慣れましたか?》
少し間があって。
《まだ》
《でも、なんとかやってる》
その言葉に、少し安心する。
「……さくやさん」
小さく呟く。
(頑張ってるんだ)
(私も……)
数日後――昼休み。
「ひな、最近さー」
「……ん?」
「スマホばっか見てない?」
「……そう?」
「うん、なんか待ってる顔してる」
「……」
言葉に詰まる。
「……そんなことないよ」
誤魔化す。
(待ってる)
その言葉が、刺さる。
放課後――教室。
「……」
スマホを見る。
既読はついてる。
でも――
返信が来ない。
(……忙しいよね)
大学。
新しい環境。
新しい人たち。
(……私とは違う)
その現実が、少しだけ苦しい。
「……ひな?」
「……っ」
「大丈夫?」
「……うん」
笑う。
でも――
(大丈夫じゃない)
夜――電話。
「……もしもし」
「……ひな?」
その声。
少しだけ安心する。
「……お疲れ様です」
「……ひなも」
少しだけ疲れた声。
「……どうですか」
「……んー」
少し考えて。
「……楽しいけど、疲れる」
「……そっか」
「……人多いし」
「……」
「……友達も、まだそんなに」
「……」
「……ひなは?」
その問い。
少しだけ迷う。
「……普通です」
また、その言葉。
「……普通、か」
少しだけ笑う声。
でも――
少しだけ寂しそう。
「……ねぇ、ひな」
「……はい」
「……無理してない?」
その一言。
ドクン。
心臓が鳴る。
「……してません」
反射的に答える。
「……ほんとに?」
「……はい」
「……」
沈黙。
「……ひな」
「……はい」
「……寂しいだろ」
その言葉。
「……」
言葉が出ない。
「……正直に言っていいよ」
「……」
「……約束しただろ」
その一言。
「……寂しいです」
やっと言えた。
「……すごく」
声が震える。
「……」
電話の向こうで、静かに息を吐く音。
「……俺も」
ぽつりと。
「……寂しい」
その一言。
涙が、こぼれる。
「……」
「……会えないの、思ってたよりきつい」
「……」
「……ひながいないと、変な感じする」
その言葉に、胸がいっぱいになる。
「……私もです」
「……」
「……なんか」
少し笑う。
「……時間、ズレてますね」
「……だな」
さくやも、少し笑う。
「……でも」
陽菜が言う。
「……はい」
「……同じ未来、見てますよね」
その一言。
「……見てる」
迷いのない声。
「……なら」
少しだけ涙を拭く。
「……大丈夫です」
「……ひな」
「……はい」
「……ちゃんと来いよ」
その言葉に、少し笑う。
「……行きます」
「……待ってる」
その一言。
沈黙。
でも――
その沈黙は、あの頃と違う。
「……ねぇ、さくやさん」
「……ん?」
「……好きです」
「……俺も」
すぐに返ってくる。
「……好きだよ」
離れていても。
時間がズレていても。
想いは、ズレない。
(会えない時間も)
(全部、未来に繋がってる)
窓の外。
同じ夜空。
「……頑張ります」
小さく呟く。
それは――
“いない時間を乗り越える覚悟”だった。




