第12話『卒業、そして約束の花束』
春――卒業式の日。
校門の前。
桜が、静かに舞っている。
「……今日なんだ」
小さく呟く。
胸が、少しだけ苦しい。
(さくやさん、卒業……)
少し先を歩く背中。
制服姿。
見慣れていたはずの姿が――
もうすぐ、見られなくなる。
体育館――式終了後。
ざわめき。
笑い声。
写真を撮る声。
「ひなー!」
「……あ、うん」
友達に呼ばれる。
「写真撮ろ!」
「……いいよ」
笑う。
でも――
どこか落ち着かない。
(……まだ、渡してない)
手に持っている、小さな花束。
そして――
封筒。
(……ちゃんと、言えるかな)
校舎裏――
少し静かな場所。
「……さくやさん」
「……ひな」
振り向く。
その笑顔。
いつもと同じなのに――
少しだけ遠く感じる。
「……来てくれたんだな」
「……はい」
少しだけ緊張する。
「……卒業、おめでとうございます」
小さく頭を下げる。
「……ありがとう」
優しく笑う。
「……ひな」
「……はい」
「……なんか、変な感じだな」
「……え?」
「……もう制服着ないと思うと」
「……」
少しだけ寂しそうな声。
「……似合ってました」
ぽつりと言う。
「……ほんと?」
「……はい」
少しだけ笑う。
沈黙。
でも――
今日は、ちゃんと伝えたい。
「……あの」
「……ん?」
「……これ」
花束を差し出す。
「……っ」
少しだけ驚いた顔。
「……ひな?」
「……卒業、お祝いです」
「……」
ゆっくり受け取る。
「……ありがとう」
その声が、少しだけ柔らかい。
「……あと」
もう一つ。
封筒を差し出す。
「……手紙、です」
「……」
さくやが、少しだけ戸惑う。
「……今、読んでいい?」
「……はい」
心臓が、うるさいくらい鳴る。
封を開ける音。
紙を広げる。
風が、少しだけ吹く。
「……」
読み始める。
その間――
何も言えない。
(……どうしよう)
(変なこと書いてないかな)
(ちゃんと伝わるかな)
不安が、押し寄せる。
「……ひな」
「……っ、はい」
読み終えた顔。
少しだけ――
目が潤んでいる。
「……これ」
「……はい」
「……ずるいな」
その一言。
「……え?」
「……泣かせにきてるだろ」
少し笑う。
でも、声は震えている。
「……ちゃんと、読んでくれましたか?」
「……全部読んだ」
「……」
「……ひなの言葉で、ちゃんと」
その言葉に、胸が熱くなる。
「……ひな」
「……はい」
「……ありがとう」
真っ直ぐな声。
「……」
「……ここまで、一緒にいてくれて」
その一言で――
涙がこぼれる。
「……」
「……俺、さ」
少しだけ空を見る。
「……ひなと出会えて、ほんとによかった」
その言葉に、涙が止まらない。
「……私も」
やっと言う。
「……さくやさんと出会えて」
声が震える。
「……よかったです」
沈黙。
風が吹く。
桜が舞う。
「……ねぇ、ひな」
「……はい」
「……手紙の最後」
「……」
「……あれ、本気?」
ドクン。
心臓が鳴る。
(手紙の最後)
“どんな未来でも、私はあなたを選び続けます”
「……本気です」
迷わず答える。
「……」
さくやが、ゆっくり息を吐く。
「……そっか」
一歩、近づく。
「……ひな」
「……はい」
「……俺も」
その言葉に、顔を上げる。
「……どんな未来でも」
手を、そっと握る。
「……ひなを選ぶ」
その一言。
涙が、止まらない。
「……」
「……だから」
少しだけ笑う。
「……離れても、関係ないな」
その言葉に、頷く。
「……はい」
「……ひな」
「……はい」
「……ちゃんと来いよ」
少しだけ意地悪な声。
「……え?」
「……同じ大学」
その言葉に、少し笑う。
「……行きます」
「……待ってる」
その瞬間。
ぎゅっと、抱きしめられる。
「……っ」
強く。
でも、優しく。
「……さくやさん」
「……少しだけ」
「……」
「……このままで」
その声に、頷く。
時間が、ゆっくり流れる。
「……ひな」
「……はい」
「……泣くな」
「……無理です」
少し笑う。
「……今日くらい、泣かせてください」
「……仕方ないな」
優しい声。
ゆっくりと、離れる。
でも――
手は、繋がれたまま。
「……じゃあ」
「……はい」
「……またな」
「……はい」
背を向ける。
でも――
もう、怖くない。
(離れても)
(ちゃんと繋がってる)
桜が舞う。
春が、始まる。
それは――
別れじゃない。
“未来への一歩”だった。




