第11話『同じ未来を選ぶ理由』
春――教室。
「……ひなー」
「……ん?」
「進路、もう出した?」
「……まだ」
少しだけ視線を逸らす。
「え、珍しくない?ひな、もう決めてると思ってた」
「……うん、決めてたんだけど」
「だけど?」
「……ちょっと、迷ってて」
昼休み――屋上。
一人。
風が、少しだけ強い。
「……」
スマホを見る。
開く。
閉じる。
(……どうしよう)
決めていた。
県外の大学。
新しい環境。
新しい自分。
でも――
(……さくやさん)
頭に浮かぶ。
あの約束。
“離れても、また好きになる”
「……」
小さく息を吐く。
(離れることが、正しいのかな)
(それとも――)
「……ひな?」
「……っ」
振り向く。
「……さくやさん」
屋上に立っていた。
「……珍しいな、先にいるの」
「……ちょっと考え事してました」
「……そっか」
隣に来る。
自然な距離。
でも――
今日は少しだけ緊張する。
「……ひな」
「……はい」
「……進路、決めた?」
「……」
ドクン。
心臓が鳴る。
「……まだです」
正直に言う。
「……そっか」
「……さくやさんは?」
「……俺は決めた」
「……地元の大学ですよね」
「……うん」
少しだけ頷く。
沈黙。
風が吹く。
桜が舞う。
「……ひな」
「……はい」
「……無理すんなよ」
その一言。
「……え?」
「……俺のこと、考えて進路変えるとか」
ドクン。
心臓が強く鳴る。
「……」
「……そういうの、やめてほしい」
静かな声。
でも、強い。
「……」
「……ひなの人生だから」
「……」
「……俺のために決めるな」
その言葉。
優しさ。
でも――
少しだけ苦しい。
「……さくやさん」
「……ん?」
「……もし」
少しだけ震える声。
「……私が、自分で決めたって言ったら」
「……?」
「……どうしますか」
その問い。
「……どうって?」
「……」
深呼吸。
「……同じ大学、行きたいって思ったら」
その瞬間。
空気が止まる。
「……」
さくやが、固まる。
「……ひな」
「……はい」
「……それ、本気?」
「……本気です」
迷わず答える。
「……なんで」
小さな声。
「……」
言葉を探す。
「……最初は」
ゆっくり話す。
「……逃げるつもりでした」
「……」
「……新しい場所で、忘れようって」
「……」
「……でも」
顔を上げる。
「……忘れられなかったです」
その言葉。
「……」
「……離れてもいいって思ってたのに」
「……」
「……やっぱり、一緒にいたいって思いました」
声が、少し震える。
「……」
「……それって」
少しだけ笑う。
「……ダメですか?」
沈黙。
長い沈黙。
風の音だけが響く。
「……ひな」
「……はい」
「……俺、さ」
少しだけ苦笑い。
「……めちゃくちゃ嬉しい」
その一言。
「……」
「……でも」
続ける。
「……怖い」
「……え?」
「……もし、それで後悔したら」
「……」
「……俺、責任取れない」
その言葉。
真っ直ぐな本音。
「……大丈夫です」
すぐに言う。
「……」
「……後悔しても」
少しだけ笑う。
「……それも、自分で選んだことなので」
その言葉に、さくやが目を見開く。
「……」
「……逃げるより」
続ける。
「……ちゃんと選びたいです」
「……」
「……さくやさんと、一緒にいる未来を」
その一言。
「……ひな」
「……はい」
「……ずるいな」
少し笑う。
「……え?」
「……そんなこと言われたら」
一歩、近づく。
「……止められない」
その言葉に、胸が強く鳴る。
「……ほんとにいいのか?」
「……はい」
「……大変だぞ」
「……覚悟してます」
「……後悔しない?」
「……しません」
即答。
その瞬間。
ぎゅっと、手を握られる。
「……っ」
「……ひな」
「……はい」
「……ありがとう」
その一言。
「……」
「……選んでくれて」
その言葉に、涙がにじむ。
「……でも」
陽菜が少し笑う。
「……はい?」
「……これで終わりじゃないです」
「……?」
「……ちゃんと、努力します」
「……」
「……同じ大学に行くために」
その言葉に、さくやが笑う。
「……当たり前だろ」
「……はい」
沈黙。
でも――
今度は、明るい沈黙。
「……ねぇ、ひな」
「……はい」
「……これからさ」
少しだけ照れながら。
「……ずっと一緒にいられるな」
その言葉に、微笑む。
「……はい」
桜が舞う。
風が吹く。
未来が、少しだけ近づく。
(離れる未来じゃなくて)
(同じ未来を選んだ)
それは――
逃げじゃない。
“覚悟”だった。
「……さくやさん」
「……ん?」
「……好きです」
「……俺も」
優しく笑う。
「……好きだよ」
手を、強く握る。
今度は――
離れない未来へ。




