第9話『もう一度、手を伸ばす』
放課後――図書室。
静かな空気。
でも今日は、少しだけ違う。
「……ひな」
「……さくやさん」
自然に隣に座る。
前よりも近く。
でも、まだ少しだけ距離はある。
「……今日も来てたんだ」
「……はい」
「……落ち着くので」
「……そっか」
少しだけ笑う。
その笑顔が、前より柔らかい。
「……ひな」
「……はい」
「……この前のこと」
「……」
あの夕焼けの日。
「……ちゃんと、考えた」
その一言で、胸が少しだけ高鳴る。
「……私もです」
「……そっか」
沈黙。
でも――逃げない。
「……ひな」
「……はい」
「……もう一回、聞く」
真っ直ぐな声。
「……俺と、どうしたい?」
その問い。
今度は、逃げない。
「……」
深く息を吸う。
「……一緒にいたいです」
はっきりと、言う。
「……」
「……でも」
続ける。
「……前みたいには、戻りたくないです」
その言葉に、さくやが少しだけ目を細める。
「……どういう意味?」
「……」
言葉を探す。
「……前は」
少しずつ話す。
「……お互い、我慢してたと思うんです」
「……」
「……言いたいこと、言えなくて」
「……」
「……それで、壊れたから」
その言葉に、さくやが静かに頷く。
「……うん」
「……だから」
顔を上げる。
「……ちゃんとぶつかれる関係がいいです」
その一言。
「……」
「……怖いけど」
少しだけ笑う。
「……逃げないでいたいです」
その言葉に、さくやがゆっくり息を吐く。
「……ひな」
「……はい」
「……俺も」
真っ直ぐ見る。
「……同じこと考えてた」
「……」
「……前みたいに戻るんじゃなくて」
「……」
「……作り直したい」
その言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「……」
「……でも」
少しだけ間を置く。
「……また傷つけるかもしれない」
「……」
「……それでもいい?」
その問い。
「……はい」
迷わず答える。
「……私も、傷つけるかもしれません」
「……」
「……それでも」
手を、そっと伸ばす。
「……一緒にいたいです」
その瞬間。
さくやが、ゆっくりその手を見る。
「……」
そして――
そっと、触れる。
でも、まだ握らない。
「……ひな」
「……はい」
「……ちゃんと、約束しよう」
「……え?」
「……今度は、逃げない」
その言葉に、心臓が強く鳴る。
「……」
「……思ってること、全部言う」
「……はい」
「……嫌なことも」
「……はい」
「……寂しいことも」
「……はい」
「……全部」
その言葉に、涙がにじむ。
「……私も」
小さく頷く。
「……ちゃんと言います」
「……」
「……逃げません」
その瞬間。
ぎゅっと、手が握られる。
「……っ」
前よりも、少し強く。
でも――
優しい温もり。
「……ひな」
「……はい」
「……もう一回、やり直そう」
その一言。
「……」
涙が、こぼれる。
「……はい」
強く頷く。
「……お願いします」
でも。
そこで終わらない。
「……ひな」
「……はい」
「……一つ、聞いていい?」
「……はい」
「……もしまた、すれ違ったら」
「……」
「……どうする?」
その問い。
少しだけ考える。
でも――
「……逃げません」
はっきり言う。
「……ちゃんと話します」
「……」
「……今回みたいに、黙ったりしません」
その言葉に、さくやが少しだけ笑う。
「……強くなったな」
「……少しだけです」
「……十分だよ」
沈黙。
でも――
この沈黙は、前と違う。
壊れない沈黙。
「……ねぇ、ひな」
「……はい」
「……今さ」
少しだけ照れた顔。
「……手、繋いでもいい?」
その言葉に、少しだけ笑う。
「……もう繋いでます」
「……あ、ほんとだ」
二人で、少し笑う。
そのまま。
ゆっくりと、指を絡める。
しっかりと。
今度は、離さないように。
(もう一度)
(ここから、始める)
夕焼けが、二人を包む。
あの日と同じ景色。
でも――
今は、少し違う。
「……ひな」
「……はい」
「……好きだよ」
まっすぐな言葉。
「……私も」
微笑む。
「……好きです」
一度、終わった恋。
それでも――
また、始まる。
それは、前よりも強くて。
前よりも、優しい恋だった。




