第7話『忘れていく日々』
数週間後――教室。
「……ひなー」
「……ん?」
「今日さ、放課後カフェ行かない?」
「……いいね」
自然に、笑って答える。
「やっと元気出てきたじゃん」
「……そうかな」
「前、めっちゃ暗かったよ?」
「……そんなことないよ」
少しだけ笑う。
でも――
(前よりは、マシになっただけ)
完全に元に戻ったわけじゃない。
昼休み――教室。
「ねぇ、ひな」
「……なに?」
「最近さ、あの人とどうなったの?」
「……」
一瞬、言葉が止まる。
でも――
「……別れたよ」
自然に言えた。
「えっ……」
「……そっか」
「……うん」
それ以上、聞かれない。
その空気が、少しだけ優しい。
「……大丈夫?」
「……大丈夫」
今度は、ちゃんと答えられた。
(大丈夫……たぶん)
放課後――カフェ。
「これ美味しい!」
「……ほんとだ」
甘い香り。
明るい空間。
笑い声。
「ひな、前より笑うようになったよね」
「……そう?」
「うん」
「……なら、よかった」
そう言って、コーヒーに口をつける。
(ちゃんと、前に進めてる……?)
ふと、窓の外を見る。
夕焼け。
(あの時と、同じ色)
一瞬だけ、思い出す。
屋上。
あの日の会話。
「……ひな?」
「……あ、ごめん」
「ぼーっとしてた」
「……ちょっとだけ」
笑って誤魔化す。
(……まだ、残ってる)
夜――部屋。
ベッドの上。
スマホを見る。
トーク画面は、もう開かない。
(……見なくなった)
それだけで、少しだけ成長した気がする。
「……」
でも――
「……さくやさん」
名前が、こぼれる。
(……まだ、呼んじゃう)
苦笑い。
「……忘れるって、難しいな」
小さく呟く。
数日後――廊下。
「……ひな」
「……え?」
呼ばれる。
振り向く。
そこにいたのは――
さくや。
「……っ」
一瞬、息が止まる。
でも――
「……久しぶり」
ちゃんと、言えた。
「……ああ」
少しだけぎこちない。
でも、前よりは落ち着いてる。
「……元気?」
「……うん」
「……そっか」
沈黙。
でも――
前みたいな苦しさは、少しだけ薄れている。
「……ひな」
「……なに?」
「……最近、どう?」
「……普通」
少しだけ笑う。
「……友達と遊んだり」
「……そっか」
「……さくやさんは?」
「……まあまあ」
少しだけ笑う。
その笑顔を見て――
(あ、よかった)
素直に思えた。
「……」
沈黙。
でも――
「……前より、平気そうだな」
さくやが言う。
「……そう見えますか?」
「……うん」
「……頑張ってるので」
少しだけ照れる。
「……そっか」
その一言が、少しだけ優しい。
「……ひな」
「……ん?」
「……ごめんな」
突然の言葉。
「……え?」
「……あの時」
少しだけ視線を逸らす。
「……ちゃんと支えられなかった」
その言葉に、胸が少しだけ痛む。
でも――
「……違います」
首を振る。
「……私も、同じです」
「……」
「……だから」
少しだけ笑う。
「……お互い様です」
その言葉に、さくやが少しだけ安心したように息を吐く。
「……ありがとう」
「……こちらこそ」
沈黙。
でも――
もう、あの頃とは違う。
「……じゃあ」
さくやが一歩下がる。
「……またな」
「……はい」
軽く手を振る。
それだけ。
それだけなのに――
胸が、少しだけ痛む。
帰り道。
一人で歩く。
でも――
(前より、寂しくない)
少しだけ、前に進めている。
「……」
空を見る。
夕焼け。
「……綺麗」
ぽつりと呟く。
(あの時も、こうやって見てたな)
思い出す。
でも――
涙は、出ない。
(忘れてきてる)
(ちゃんと、少しずつ)
でも。
完全には、消えない。
(それでもいいのかもしれない)
好きだった時間。
大切だった思い出。
それは――
無理に消すものじゃない。
「……さくやさん」
小さく呟く。
「……元気でね」
誰にも届かない言葉。
それでも。
前に進む。
それが――
“忘れていく日々”だった。




