第6話『君を忘れるために』
夕方――屋上。
空は、どこか寂しい色をしていた。
呼び出したのは、陽菜の方だった。
「……ひな」
「……さくやさん」
向かい合う。
でも――
もう、前みたいに近くはない。
「……来てくれて、ありがとうございます」
「……当たり前だろ」
短い返事。
でも、その声は少しだけ硬い。
沈黙。
風が吹く。
冷たい風。
「……ひな」
「……はい」
「……どうした」
その問い。
でも、もうわかっている気がした。
「……話したいことがあって」
「……うん」
深呼吸。
息が、少し震える。
「……私たち」
声が、かすれる。
「……このままで、いいんですか」
その言葉に、空気が止まる。
「……」
「……距離を置いて」
「……」
「……苦しくて」
「……」
「……それでも、このまま続ける意味って」
言葉が、途切れる。
「……」
「……あるんですか」
静かな問い。
でも、重い。
「……ひな」
「……はい」
「……俺は」
言いかけて、止まる。
「……」
「……正直、わからない」
その答え。
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……」
「……でも」
続ける。
「……簡単に終わらせたくない」
その言葉。
「……」
「……ひなが好きだから」
その一言で、涙がにじむ。
「……私も」
すぐに返す。
「……好きです」
声が震える。
「……」
「……でも」
続ける。
「……このままは、もっと辛いです」
「……」
「……会えない時間が増えて」
「……」
「……話せなくなって」
「……」
「……それでも、好きなままでいるの」
涙がこぼれる。
「……苦しいです」
その言葉に、さくやが目を閉じる。
「……ひな」
「……はい」
「……どうしたい」
その問い。
答えは――
決まっていた。
「……」
深く息を吸う。
「……離れたいです」
静かな声。
でも、はっきりと。
「……」
空気が、止まる。
「……え?」
「……一度、離れたいです」
もう一度、言う。
「……」
さくやの表情が、揺れる。
「……なんで」
小さな声。
「……このままだと」
涙を拭く。
「……お互い、壊れる気がするから」
「……」
「……好きなまま」
言葉を噛み締める。
「……ちゃんと終わらせたいです」
その一言。
「……終わらせるって」
さくやの声が、少しだけ震える。
「……別れるってこと?」
「……はい」
迷いなく答える。
その瞬間。
沈黙。
風の音だけが響く。
「……」
「……ひな」
「……はい」
「……それ、本気?」
「……本気です」
即答。
でも、涙は止まらない。
「……」
「……さくやさん」
「……」
「……私」
声が震える。
「……逃げたいわけじゃないです」
「……」
「……でも」
顔を上げる。
「……ちゃんと終わらせないと」
「……」
「……前に進めない気がするんです」
その言葉に、さくやが俯く。
「……」
長い沈黙。
「……ひな」
「……はい」
「……俺は」
言葉が詰まる。
「……別れたくない」
その一言。
胸が、強く痛む。
「……」
「……まだ、好きだから」
「……」
「……離れたくない」
その声が、震えている。
「……」
涙が、止まらない。
「……私も」
やっと言う。
「……離れたくないです」
「……」
「……でも」
強く言う。
「……このまま続けるほうが、怖いです」
その言葉に、さくやが目を閉じる。
「……」
「……ひな」
「……はい」
「……それでも、選ぶのか」
その問い。
「……はい」
迷わない。
「……」
「……好きだから、離れます」
静かに言い切る。
その一言で――
すべてが、決まった。
「……」
長い沈黙。
空が、少し暗くなる。
「……そっか」
さくやが、小さく笑う。
「……」
「……ひならしいな」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「……」
「……ひな」
「……はい」
「……ありがとう」
その一言。
「……え?」
「……好きになってくれて」
涙が、また溢れる。
「……」
「……楽しかった」
「……」
「……全部」
その言葉が、刺さる。
「……私も」
やっと言う。
「……全部、幸せでした」
声が震える。
「……」
「……さくやさん」
「……ん?」
「……最後に」
一歩、近づく。
「……いいですか」
「……」
さくやが、静かに頷く。
その瞬間――
ぎゅっと、抱きつく。
「……っ」
強く。
離れないように。
「……ひな」
「……少しだけ」
震える声。
「……このままで」
「……」
さくやも、抱き返す。
「……」
何も言わない。
ただ、抱きしめる。
それだけで――
全部、伝わる気がした。
「……さくやさん」
「……ん?」
「……忘れません」
涙がこぼれる。
「……絶対に」
「……」
「……でも」
続ける。
「……忘れる努力、します」
その言葉に、さくやの腕が少しだけ強くなる。
「……」
「……そっか」
小さな声。
「……じゃあ」
ゆっくりと、離れる。
「……俺も」
涙をこらえながら。
「……忘れる努力する」
「……」
目が合う。
最後の時間。
「……ひな」
「……はい」
「……元気で」
「……さくやさんも」
その瞬間。
風が吹く。
冷たい風。
「……じゃあ」
「……はい」
一歩、後ろに下がる。
「……さよなら」
「……さよなら」
背を向ける。
振り返らない。
振り返ったら――
終われなくなるから。
(好きなのに)
(こんなに好きなのに)
それでも。
選んだ。
(君を忘れるために)
涙が、止まらなかった。
それが――
二人の恋の“終わり”だった。




