第18話『隣にいる理由』
翌朝――教室。
「……おはよう」
陽菜が席に座ると、すぐに視線を感じた。
「ねぇ」
「……え?」
「昨日さ、またなんかあった?」
「え、なんで?」
「だってさ」
クラスメイトが身を乗り出す。
「昨日、あの元カノっぽい人、来てたでしょ?」
「……っ」
心臓が跳ねる。
「見たよ、廊下で」
「ちょっと修羅場っぽかったよね」
「大丈夫だったの?」
次々に飛んでくる言葉。
「……はい」
小さく頷く。
「……大丈夫、です」
「ほんとに?」
「泣いてなかった?」
「……少しだけ」
正直に言うと、少しだけ空気が柔らかくなる。
「そっか……」
「でもさ」
別の子が口を開く。
「彼氏さん、めっちゃ守ってたよね」
「……え?」
「見た見た!」
「なんかさ、“俺が選ぶのはひなだ”みたいなこと言ってなかった?」
「っ……!!」
顔が一気に赤くなる。
「きゃー!」
「なにそれドラマ!?」
「やばくない!?」
教室が一気に盛り上がる。
「ち、違っ……!」
否定しきれない。
「いいなぁ〜」
「羨ましい」
その言葉に、少しだけ戸惑う。
(昨日までとは……違う……?)
「……ひな」
「……え?」
さっきまで少し冷たかった子が、静かに言う。
「……ちゃんと、大事にされてるんだね」
「……」
その一言に、胸がじんわりと温かくなる。
「……はい」
今度は、迷いなく答えられた。
昼休み――屋上。
「……ひな」
「……さくやさん」
顔を見た瞬間、自然と笑ってしまう。
「……なんか、顔違うね」
「え?」
「昨日より、少し安心してる顔」
「……そう、ですか?」
「うん」
さくやが少しだけ笑う。
「……あの後、教室どうだった?」
「……すごかったです」
苦笑い。
「……めっちゃ聞かれました」
「想像つく」
「……でも」
少しだけ間を置く。
「……ちゃんと、言えました」
「何を?」
「……付き合ってるって」
その言葉に、さくやの目が柔らかくなる。
「……そっか」
「……はい」
「……怖くなかった?」
「……少しだけ」
正直に言う。
「……でも」
手をそっと伸ばす。
「……隠してるより、ずっと楽でした」
その手を、さくやが自然に握る。
「……だよな」
「……はい」
少しの沈黙。
でも、その沈黙は優しい。
「……ねぇ、さくやさん」
「ん?」
「……私たち」
少しだけ照れる。
「……もう、隠さなくていいんですよね」
「……うん」
迷いなく頷く。
「……むしろ」
少しだけ悪戯っぽく笑う。
「見せつけるくらいでもいいかも」
「……っ!?」
「じょ、冗談だよ」
慌ててフォロー。
「……びっくりしました」
「顔真っ赤」
「……もう……」
視線を逸らす。
「……ひな」
「……はい」
「昨日さ」
少しだけ真面目な声。
「ちゃんと選んだって言ったけど」
「……はい」
「改めて言う」
心臓が、また速くなる。
「……ひながいい」
「……っ」
「他じゃなくて、ひながいい」
真っ直ぐな言葉。
逃げられない。
「……私も」
震える声。
「……さくやさんがいいです」
目を見て、言う。
「……他じゃなくて」
その瞬間――
さくやが、少しだけ近づく。
「……っ」
距離が、近い。
「……ここ、屋上……」
「うん」
「……誰か来るかも……」
「うん」
「……でも」
一瞬だけ迷って――
「……いいです」
小さく頷く。
その瞬間。
そっと、額にキス。
「……っ……」
言葉が出ない。
「……これならセーフ?」
少しだけ照れた笑顔。
「……ずるいです」
「なんで」
「……心臓、持たないです」
「慣れて」
「無理です……」
二人で、少し笑う。
その時。
「……あー、やっぱり」
声。
振り向くと――
クラスメイト数人。
「……見ちゃった」
「……え」
固まる陽菜。
「ごめんごめん」
「でもさ」
にやにやしながら。
「もう隠してないんでしょ?」
「……」
「ならいいよね?」
逃げ場がない。
でも――
「……はい」
小さく頷く。
「……付き合ってます」
今度は、ちゃんと笑って言えた。
「きゃー!」
「やっぱり!」
「お似合いじゃん!」
空気が、一気に明るくなる。
「……よかったね、ひな」
「……うん」
自然と、そう答えられる。
その横で――
さくやが、そっと手を握る。
「……っ」
見られてるのに。
でも――
もう、離さない。
「……公認だね」
誰かが言う。
「……そう、ですね」
少しだけ照れながら答える。
夕方――帰り道。
「……なんか、すごい一日だった」
「……はい」
「一気に変わったな」
「……でも」
少しだけ笑う。
「……嫌じゃないです」
「……俺も」
手を繋ぐ。
自然に。
「……ねぇ、ひな」
「……はい」
「これからも、こうやって歩こう」
「……はい」
「隠さずに」
「……はい」
ぎゅっと、手を握る。
「……さくやさん」
「ん?」
「……好きです」
不意に言う。
「……いきなりだな」
「……今、言いたくなりました」
少し照れながら。
「……俺も」
夕焼けの中。
二人の影が、並んで伸びる。
もう、隠さない。
もう、迷わない。
ただ――
隣にいる理由は、一つ。
好きだから。
それだけで、十分だった。




