表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『君を忘れても、また好きになる』  作者: 優貴(Yukky)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/64

第16話『揺らす存在』

朝――教室。

ざわざわとした空気は、まだ完全には消えていなかった。

「……ひな、おはよ」

「……おはよう」

いつもの挨拶。

でも、どこか視線を感じる。

(まだ……見られてる)

昨日の出来事は、完全に広まっていた。

「ねぇねぇ」

「……え?」

「彼氏さん、今日来てるの?」

「……っ」

いきなりの質問。

「……たぶん……」

「見てみたいな〜」

「イケメンなんでしょ?」

「やめてよ……」

苦笑いするしかない。

(慣れなきゃ……)

そう思った時――

ガラッ。

教室の扉が開く。

「……失礼」

低くて落ち着いた声。

「……え?」

クラス中の視線が、一斉に向く。

そこに立っていたのは――

見慣れない女子。

長い黒髪、整った顔立ち。

どこか冷たい雰囲気。

「……誰?」

「他クラスの人?」

ざわつく教室。

その女子は、まっすぐ陽菜の方を見る。

「……あなたが、陽菜?」

「……え?」

心臓が跳ねる。

「……はい、ですけど……」

「……少し、いい?」

逃げ場のない視線。

「……なに、あの人」

「怖くない?」

周りの声が遠くなる。

「……わかりました」

立ち上がる。

(なんだろう……この感じ……)

嫌な予感が、胸をかすめる。

廊下。

「……それで……」

陽菜が口を開こうとした瞬間――

「さくやと、付き合ってるの?」

直球だった。

「……っ」

言葉が詰まる。

「……はい」

しっかりと答える。

その瞬間、女子の目が細くなる。

「……そう」

短い一言。

でも、その中に感情が滲む。

「……あなた」

一歩、近づく。

「本気で付き合ってるの?」

「……え?」

「遊びじゃなくて?」

胸が、ざわつく。

「……違います」

「……ふーん」

冷たい反応。

「……じゃあ、どこまで知ってるの?」

「……何を、ですか」

「さくやのこと」

その問いに、言葉が止まる。

「……全部知ってる?」

「……全部は……」

正直に答える。

「……だよね」

小さく笑う。

でも、その笑いは優しくなかった。

「……私は知ってるよ」

「……え?」

「さくやのこと、全部」

空気が、変わる。

「……誰、ですか」

喉が少し乾く。

「……元カノ」

その一言で――

世界が、ぐらっと揺れた。

「……っ」

「……驚いた?」

「……」

言葉が出ない。

「……まだ引きずってるよ、あいつ」

「……そんなこと……」

「ないって言える?」

言い切れない。

その沈黙が、答えみたいだった。

「……ほらね」

勝ち誇ったような微笑み。

「……だから言ったでしょ」

一歩、さらに近づく。

「遊びじゃないって、本気で思ってるの?」

「……っ」

胸が締め付けられる。

「……やめてください」

やっと出た言葉。

「……そういうの……」

「図星?」

「違います」

「じゃあ、なんでそんな顔してるの?」

何も言えない。

「……あいつ、優しいでしょ」

「……」

「誰にでも優しいの」

その言葉が、刺さる。

「……特別だと思ってる?」

「……」

「みんなそう思うよ」

心が、ぐらぐらと揺れる。

「……やめて……ください」

声が、震える。

「……壊れるよ?」

「……」

「その関係」

その時――

「……何してんの」

低い声。

振り向く。

「……さくやさん」

そこに立っていた。

少しだけ怒った表情。

「……久しぶり」

元カノが、軽く手を振る。

「……なんでここにいる」

「会いに来たの」

「……帰れ」

即答。

「冷たいなぁ」

「……ひなに何言った」

空気が張り詰める。

「別に?」

「……嘘つくな」

一歩、近づく。

完全に守る位置。

「……ねぇ」

元カノが、ふっと笑う。

「そんなに大事?」

「当たり前だろ」

迷いのない答え。

「……へぇ」

その視線が、陽菜に向く。

「……いいの?」

「……何が」

「そんな簡単に信じて」

「……」

「また同じことになるかもよ?」

「ならない」

被せるように言う。

「……言い切れるんだ」

「言い切れる」

その声は、強かった。

「……俺はもう間違えない」

その言葉に、元カノの表情が一瞬だけ揺れる。

「……ふーん」

でもすぐに笑う。

「……ま、いいや」

くるっと背を向ける。

「……楽しんでね」

意味深な一言を残して、去っていく。

――静寂。

「……ひな」

「……」

声が出ない。

「……何言われた?」

優しい声。

でも――

「……さくやさん」

「……うん」

「……本当に……」

顔を上げる。

涙がにじむ。

「……もう、過去じゃ……ないんですか……?」

その問いに、さくやは一瞬だけ黙る。

「……ひな」

「……怖いです」

素直な言葉。

「……また、あの人みたいに……」

「ならない」

すぐに言う。

「……絶対に」

手を、強く握る。

「……でも……」

「ひな」

名前を呼ばれる。

「俺が好きなのは、今のひなだ」

まっすぐな目。

「過去じゃない」

「……」

「ちゃんと、今を見てる」

その言葉に、涙が溢れる。

「……ほんとに……?」

「ほんとに」

「……嘘じゃないですか……?」

「嘘つかない」

一歩、近づく。

「信じて」

その一言。

揺れていた心が、少しだけ戻る。

「……」

「……ひな」

「……はい」

「離す?」

試すような問い。

でも――

「……離しません」

即答。

「……絶対に?」

「……絶対に」

涙を拭いながら、強く言う。

さくやが、少しだけ笑う。

「……よかった」

その一言に、また涙が出そうになる。

「……怖かったな」

「……はい」

「でも、ちゃんと言えた」

頭を軽く撫でられる。

「……えらい」

「……子供じゃないです……」

少しだけむくれる。

「それでも」

優しく笑う。

「ちゃんと向き合った」

その言葉に、胸が温かくなる。

「……さくやさん」

「ん?」

「……負けません」

小さな声。

でも、強い意思。

「……誰にも」

「……うん」

「……この気持ち」

手をぎゅっと握る。

「……離しません」

さくやが、静かに頷く。

「……俺も」

廊下の窓から差し込む光。

少しだけ強くなった絆。

でも――

消えない不安も、確かにそこにある。

それでも。

二人は、手を離さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ