第13話『隠しきれない想い』
放課後――教室。
「……ひな、今日一緒に帰らない?」
友達の声に、陽菜は少しだけ戸惑った。
「あ……ごめん、今日はちょっと用事があって……」
「えー?最近それ多くない?」
「そ、そうかな……?」
視線を逸らす。
(ごめんね……)
心の中で小さく謝る。
――屋上。
あの場所が、今の陽菜にとって特別な場所になっていた。
「……もしかしてさ」
不意に、別の子が口を開く。
「好きな人でもできた?」
「っ……!」
心臓が跳ねる。
「え、なにその反応!絶対そうじゃん!」
「ち、違うよ……!」
慌てて否定するけど、声が少し上ずる。
「怪しい〜」
くすくすと笑い声。
「どんな人?同じクラス?」
「それとも先輩?」
「ねぇ教えてよ〜」
質問が次々に飛んでくる。
「ほ、ほんとに違うから……!」
鞄をぎゅっと握る。
(言えるわけない……)
(さくやさんのことなんて……)
「ま、いっか。いつか教えてね〜」
「……うん」
なんとか笑って、その場をやり過ごす。
でも――
(バレたら……どうしよう……)
胸の奥に、不安が広がる。
屋上。
夕焼けが空を赤く染めていた。
「……ひな」
「……さくやさん」
顔を見た瞬間、少しだけ安心する。
でも、その安心の奥に、さっきの不安が残っていた。
「今日、遅かったね」
「……ちょっと、クラスで……」
「何かあった?」
優しい声。
その優しさが、逆に胸を締め付ける。
「……好きな人いるの?って……聞かれて……」
「……そっか」
さくやは少しだけ目を伏せた。
「……やっぱり、バレるよね」
陽菜の言葉に、風が吹き抜ける。
「……ひなは、どうしたい?」
「え……?」
「もしバレたら、困る?」
答えに詰まる。
(困る……)
(でも……)
「……正直、怖いです」
「うん」
「でも……」
ゆっくりと顔を上げる。
「……隠し続けるのも、少し苦しいです」
その言葉に、さくやの目が揺れた。
「……そっか」
「……はい」
沈黙。
夕焼けが、二人の影を長く伸ばす。
「……ひな」
「……はい」
「手、貸して」
「え……?」
少し戸惑いながら、手を差し出す。
その手を、さくやがそっと握る。
「……っ」
心臓が跳ねる。
「……ここ、学校だよ?」
思わず小さな声で言う。
「うん」
「見られたら……」
「それでもいい」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
「……え?」
「もう、隠すのやめてもいいかなって思ってる」
「……!」
目を見開く。
「……でも……」
「もちろん、ひなの気持ちが一番大事」
手の温もりが、少し強くなる。
「無理にとは言わない」
「……さくやさん」
「ただ――」
一歩、近づく。
「ひなといる時間を、隠したくない」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(そんなの……)
(嬉しいに決まってる……)
でも――
「……怖いです」
正直な気持ちがこぼれる。
「……うん」
「もし、変なこと言われたりしたら……」
「その時は、俺が守る」
即答だった。
迷いのない声。
「……全部は守れないかもしれない」
「……」
「でも、ひな一人にしない」
その言葉に、涙がにじむ。
「……ずるいです」
「え?」
「そんなこと言われたら……」
手を、ぎゅっと握り返す。
「……離せなくなるじゃないですか」
さくやが少しだけ笑う。
「それでいいよ」
夕焼けの光が、二人を包む。
その時――
「……あれ?」
背後から、声。
「え……?」
陽菜の体が固まる。
ゆっくりと振り向くと――
クラスメイトの姿。
「……ひな?」
「っ……!」
繋いだ手。
近すぎる距離。
全部、見られていた。
「……その人……誰?」
空気が一瞬で変わる。
心臓の音が、うるさいくらい響く。
(どうしよう……)
(バレた……)
陽菜の手が、震える。
その瞬間――
ぎゅっと、さくやの手が強くなる。
「……俺は」
一歩、前に出る。
「ひなの――」
息が止まる。
その続きが、世界を変える気がした。
夕焼けの中、
三人の間に、張り詰めた空気が流れる――。




