第172話:付与魔法使いは交渉する
「既に里のエルフで討伐隊の準備を進めてるってことだが……俺たちが魔物の亡骸をもらったら彼らの取り分はどうなるんだ?」
「里の基金から幾らか貢献金を出す予定になっておる。……今は里の一大事。これは自らの住まいを守る戦いなのじゃ。心強い傭兵を雇おうという時に報酬がどうということではないじゃろう」
確かに、一理ある。
昨日の稽古では、里のエルフの中で自称四番目の実力者であるリオレスでもセリアにまったくと言っていいほど歯が立たなかった。
まだセリア一人ではエリアボス級の魔物を倒すことはできないだろうと考えると、里のエルフだけで戦えば甚大な被害が出ることは免れない。
逆に、俺たちが加勢すれば被害は最小限に留められる。これは自惚れではなく、冷静な分析だ。
エルフは人間に比べて寿命が長い。故に命の危険と比較すれば魔物の高額素材など安いもの——というソフィアの感覚も理解できる。
「アルス、どうかしたの?」
考え込む俺を気にかけてくれるユキナ。
「いや……ちょっとな」
とはいえ、もし一緒に戦えばエルフたちの被害をゼロに抑えることはできない。エルフたちもそれなりの被害を出した状況で戦利品は他所者の人間が独り占め……になりかねないわけだ。
俺たちに好意的なエルフはともかく、ジュピラのような人間を敵視するエルフとの間では遺恨を残す結果になってしまうかもしれない。
それなら——
「ソフィア、俺たちだけで戦わせてもらうことってできないか?」
「……は? それはどういうことじゃ?」
「ジャイアント・ウルフの強さが伝承通りなら俺たちだけでも倒せる魔物だと思う。むしろ、勝手が分かってるパーティで戦った方がやりやすいんだ」
「ふむ。つまり、里のエルフは足手纏いと言いたいのじゃな?」
「……いや」
答えに詰まってしまった。端的に言うとそういうことになってしまうのだが、俺の想いとは厳密には違うのだ。どれだけでも被害を出しても良いのなら、頭数は多ければ多いほど良い。あくまでも、『犠牲者をゼロで抑える』という考え方だとソフィアの言う通りになるということだ。
すると、ソフィアが助け舟を出してくれた。
「咎めているのではない。大事なことじゃから、言葉通りの意味を問うておる。お主らがワシら里のエルフと比べて桁違いに強いことは分かっておるつもりじゃ。事実を言われて怒りはしない」
「……正直に言うと、そういうことになる。誰も傷付かずに済むなら、それに越したことはないと思うんだ。それに——」
と、俺は言葉を続ける。
「やっぱり、全員で倒した戦利品を俺たちが独り占めするのは気が引ける……というのもある」
「なるほど。目的はそれじゃな」
さっきの話の流れもあり、真意が伝わったようだ。少し説明が回りくどかったかもしれないが。
「良いじゃろう。ジャイアント・ウルフの件はお主らに任せる」
「助かる」
「いや、助かるのはワシらの方じゃ。たまたま訪れた人間が里の脅威を取り除いてくれ、里には何の被害も出ない……普通は起こり得ないことじゃからな。じゃが、一つ条件があるのじゃ」
背伸びしながら、人差し指を向けるソフィア。
「お主らだけで魔物を倒せるのが理想じゃが、みすみすエルフの恩人であるお主らを死なせたくはない。少し離れた場所で我らも戦いに加われるよう待機しておくのじゃ。良いな?」
俺たちに討伐を任せてくれるが、ピンチの時には駆けつけようという提案。断る理由がない。
「ありがとう。その時は、よろしく頼む」






