不死の代償(3)
だが、彼女の話す内容は、あまりにも突拍子のないものが多かった。アーサーはどこからか取り出したメモ帳に内容を記していっていたが、そもそも人間には無理なのではないかと思うような条件が多い。
「竜種……って、そもそもまだ存在しているのか? 古い伝記や御伽噺で聞くような種だ。過去に存在していたとしても、現存しているんだろうか……」
「つい最近見に行ったんだけど、まだ居たわよ。なんだか全体的に小さくなってたけど……楽に討伐出来るから丁度いいわね」
耳を疑うような事を平然と言ってのける彼女に、私は驚きを通り越して呆れを覚えた。
「それで、竜種はいわゆる精霊種寄りの個体が多いから、本当だったら討伐後魔石に変わるんだけど、一部の変異した個体からは臓器をそのまま取り出せるの。だからこの術はそれを使うのよ」
「そうなんですね……! この世界にはまだ知らないことが沢山あるんですね、あっ……その、竜種って意思疎通は……出来たり……」
先程まで目を輝かせていたアーサーは、小さな疑問にその顔を少し青くながら彼女にそう問いかける。
「安心して、意思疎通は出来なかったわ。この術は基本的にそういうものは使ってないの……恨まれるようなことをするのは、危険だものね」
彼女はそう小さく呟いた。何か思うところがあったのか、そういう経験があるのか。それでも彼女のそれは、魔女の術の中ではなかなか良心的な部類と言えるだろう。
「その、死食鬼……とか、水棲馬等も使うと言っていましたが……」
「あぁ、その種も基本的に竜種と一緒ね。他にも魔力溜りに咲く魔石花の変異したものとか……色々と必要なんだけど、それを集めて……混ぜるのよ。決まった分量でね。粉一粒でも間違うと、人間だったら即死よ」
やはり良心的などではなかった。そもそもこの術は、その身を不死性の種に変えるものだ。その道程は死と紙一重なのだろう。
「……まぁ、それが上手くいったらね、その種を飲み込んで、後は身体に魔術式を刻んでいくの。あの探偵さんみたいにね」
「それは初耳なんだが……魔術式を、身体に直接刻むのか……?」
「えぇ、あら? てっきり知っているものかと思ったわ……だって」
不思議そうな表情にそう言いかけたクラウディアは、その言葉を止める。
「えっと、探偵さん……ってどなたの事でしょうか?」
話を聞いていたアーサーが、自分の知らない人物が出てきたことに疑問を抱いたようでそう質問を口にした。結局クラウディアの言葉の続きを聞くことはなく、そのまま適当に探偵の話を流してから彼女は説明を続ける。
「魔力量の多い種族はね、その身に魔術式を刻んで、自身の魔力で魔術を使うことが出来るのよ。今回の術は少し違うんだけど、案外人型の種族はそうやって刻んでる子も多いんじゃないかしら」
「なるほどな……貴女の言う術がそれと違うというのはどういうことだ?」
「それがなかなか面白くてね。摂取したものの魔力を使って、その術式を発動させるの。……その時、身体自体が変化するからかなり苦しいんだけど……」
彼女は何かを思い出すように、考える仕草をしてからにっこりと笑った。
「あとは、見た目も凄かったわ。元から変わっていくから、身体が溶けては固まってを繰り返すの。意識を保ってないと、肉体が崩壊しちゃうのよ……だから、そうならないための魔法陣の中でこの術は行わないと行けないわ」
彼女は嬉しそうに、その恐ろしい術の経過を口にした。確かに、それは人間には使えない術なのだろう。だが何となく、彼女の言葉に引っ掛かりを覚える。
「……君は、それを人間に試したことがあるのか」
「試した、というより……頼み込まれて術を教えた事は何度かあるわ。も、もちろん危険性も予め教えたわよ……? だけど、この説明を聞いても不死になりたいと思う人間は何人かいたの。ほぼ全員が身体が持たなくて死んじゃったわ……」
もし不死になれたなら、お友達になれたのにね。
彼女はそう悲しそうに呟いた。正直、この事で彼女を責めることは出来なかった。知識をどう使うかは、それを聞いた人次第と言えるだろう。だからこそ、危険性を知った上でその道を選んだというのなら。
「なるほど、持たないというのはそういう意味だったんですね」
「……だが、もう人間では無理だと分かったんだろう。これからはあまり教えない方がいい。無駄死にする人間が増えるだけだ」
私達の言葉に、彼女は少し頬を膨らませた。だが怒っている様子ではなく、直ぐにその表情を笑顔に変える。
「えぇ、今は貴女もいるもの。これからどうなるかは分からないけど……もう不死のお友達を探す必要はないわ」
彼女は嬉しそうに、その手に持ったクッキーを口に放り込んだ。そんな彼女の様子を見ていたアーサーは、何か考え込むようにしてから、彼女に質問を投げかける。
「クラウディアさんは、元に戻ろうと思ったことはないんですか……? きっと、魔女の貴女はその精神性も人間とは違うんだとは思いますが、一人で生き続けるというのは、きっと辛いんじゃないかって」
彼は、そんな彼女への優しい疑問を口にする。それに少し呆気にとられたようなクラウディアは、首を傾げながら、それでもその答えを返す。
「ないわ。私は……死にたくないもの。案外長く生きるのも悪くないわよ? きっと貴方が望んでいる沢山の知識も手に入るしね……戻ろうだなんて思ったことは一度もない。だから戻り方も調べてないわ」
彼女はそう言い切った。もしかすると、彼女には死にたくない明確な理由があるのだろうか。やることが無くなったからと、本を読んでいると言った彼女からは想像できないその強い思いを。私は少し、羨ましく思った。
「……貴女には、強い意志があるんだな。私が求めているものとは真逆だが……少しでも、貴女のその生き方が良いものになるといいな」
「……ふふ、そうね。ありがとうイヴ。私としては、貴女にはずっとそう在って欲しいんだけど……そんなことを言われちゃったら、強く言えなくなっちゃうわね」
彼女は少し悲しそうに笑った。その表情に、彼女自身は気付いているんだろうか。きっと彼女は、自分一人でいるのが寂しいと思っていることに気付けていないのだろう。
「その……僕も、またここに遊びに来てもいいですか……? もっと、貴女の話を聞いてみたいです」
真剣な表情で、アーサーはクラウディアにそう言った。彼女は少しぽかんとした表情で、それでも少し考え込んだあと、静かに笑った。
「……えぇ、いいわ。いつでも来てちょうだい。私は、ずっとここに居るから」
「っ……ありがとうございます」
彼女の言葉に何故か目を見開いた彼は、直ぐに微笑んでそうお礼を言った。
「さて、そろそろ帰るか。……そういえば君は調べ物があるんじゃなかったか?」
「えっと、今日は考えたいことが出来たので。やめておきます。その、また少し……帰り道をご一緒していいですか?」
気付けば長々と話し込んでいて、外の日が暮れ始めたことに気付いた私達は席を立った。ふと、彼は調べ物の為にここに来たのだということを思い出した。だが今日は大人しく帰ることにするらしい。
「あぁ、途中まで同じ道だったかな。一緒に帰ろうか。それじゃあクラウディア、また来るよ」
私がそう声をかけると、席に座ったままの彼女は嬉しそうに笑った。
「えぇ! ……きっとまた用事が出来てここに来ると思うわ、貴女は随分と事件に巻き込まれやすいみたいだものね。いつでも頼ってちょうだい、あ、代わりにお菓子を持ってきてくれてもいいわよ!」
今回のお土産が味をしめたのか、彼女は既に無くなったお菓子の包み紙を名残惜しそうに手に持っていた。
「あ、それと……あの子にもよろしくね。仕事で忙しいみたいだから」
「ん? あぁ、アンブローズの事か。分かった、伝えておくよ」
その後、彼女と別れた私達は、帰り道をゆっくりと歩き始めた。
体調不良で少し投稿が遅れています。




