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不死の代償(2)

「あぁ、プライス君。君も休日にどうした? 私は……少し野暮用があってね」


 先程の自分の行動を思い出して、つい口ごもってしまう。だが彼はそんな私の様子を見たあと、私の後ろを見て、またこちらに視線を戻す。そして首を傾げてから、優しく微笑んだ。



「そうでしたか。これから研究室に行くんですか?」


「いや、私はこれから図書館に。今は休みでも開いているからな、知り合いに会いに行くんだ」


「あっ、実は僕も、今任されている研究の調べ物がしたくて図書館に行こうと思ってたんです。ご一緒してもいいですか?」


 なるほど、休みだと言うのに彼がここに来ていたのは、個人的に研究のための勉強をしていたからだそうだ。随分と熱心なその様子に、私は笑って頷いた。






 図書館へ向かう途中、熱心な様子のそんな彼に昔の自分を思い出して声をかける。



「君は……休日にまで研究所に来て。無理はしてないか? 昔似たようなことをしていたせいで倒れた記憶があるからな……少し心配だ」


「あぁ、僕は……決まった時間にはすぐ眠ってしまうので。できる限り起きていられる間に行動していたいんです。眠る時間が削れないので、元気は元気ですよ……子供みたいですよね」


 少し恥ずかしそうにする彼に、私は少し安心する。夜はすぐ寝てしまうらしく、無理はできないらしい。彼も相当な研究者気質のようで、集中し始めるとその作業が終わるまでは決して休憩することのない様子を何度か見たことがあった。



「そういえば、図書館で知り合いの方にお会いになるんでしたよね……? 待ち合わせですか?」


「いや、彼女は……少し説明が難しいな。とにかく図書館に行けば会えるはずなんだ」


「もしかして、隣人さんだったりするんでしょうか……! ハーヴァーさん、そのままでも見えるって言ってましたから、そんな知り合いがいてもおかしくないですよね」


 目を輝かやかせる彼に、私は苦笑してしまう。確かに彼女は人間ではないが、それでも隣人さんなどと言うにはあまりに恐ろしい相手と言えるだろう。



「……うーん、彼女にはなるべく会わない方がいいかもしれないが」


 私がそんなことを呟いている間に、気付けば図書館の前までやってきていた。流石の年始に来ている人は少ないようで、その閑散とした図書館内へと私たちは入っていく。








「イヴ!! やっと来てくれたのね!」


 図書館へ入った途端、そんな声と共に私へと飛びかかって来る猫――が人の姿へと変わり、私に抱きついてきた。アーサーと解散しようとしていたその矢先、会わない方がいいと思っていた彼女の方から私の元へとやってきてしまった。



「クラウディア……当然飛びついてくるなんて、どうしたんだ」


「だって、あ(・)の(・)子(・)の(・)こ(・)と(・)もあったから、すぐにでも来てくれるかなって思ってたのに。なかなか来ないからつい飛び出してきちゃった」


「あの子……?」


 私達のやり取りを隣に立って見ていたアーサーが、驚いた表情でこちらに声をかけてくる。




「えっと……そちらの方が、ハーヴァーさんのお知り合いですか?」


「あら、今度は違う子を連れてきたのね? こんにちは、私はクラウディア。貴方は?」


 彼女はそう微笑んで彼に話しかける。するとアーサーは顔を赤くして少し狼狽えながら返事をした。



「あっ、えっと……僕は、アーサー・プライスと言います。どうぞよろしくお願いします……クラウディアさん」


 そのまま私の後ろに隠れてしまったアーサーを、彼女は不思議そうに眺めている。そんな彼女に、私は紙袋を一つ差し出した。



「貴女にこれを届けに来たんだ。良かったら少し話さないか?」


「これは……お菓子ね! 何か食べるなんて久しぶり、私にくれるの?」


「用事がなくても会いに来ていいと言っていたからな。旅行に行ってきたから、せっかくだし貴女にも土産をと思ったんだ」


 私の言葉に、彼女は少し驚いた表情になる。だがすぐに、花の咲いたような笑顔に変わった。



「そうなのね……! ねぇ、せっかくだから上に行きましょう!」


 嬉しそうに私の腕を引く彼女に、先程まで後ろに隠れていたアーサーが真剣な表情で口を開いた。




「あ、あの! 僕も……ご一緒させて頂けませんか……?」


「あら、そういえば貴方は……イヴのお友達なのかしら? なら一緒に行きましょう」


 彼女はアーサーの腕も同じようにとって、昇降機へと向かった。恥ずかしそうに目を回すアーサーを少し面白く思いながら、私たちはいつもの場所へと向かった。






「どこから出てきたんだ? そのティーポットは……」


「ふふ、ここから出したのよ。取って置いて良かった。折角だからお茶も入れましょ!」


 そういって、彼女は空中からそのティーセットを取り出した。ひとりでに沸騰したそのお湯を、またひとりでに動くそのティーポットからカップに注がれていく様を、驚くのではなく目を輝かせて見ているアーサーに、クラウディアは嬉しそうに笑う。



「驚かないのね? ねぇイヴ、この子はどんな子なの?」


「あぁ……彼は」


 私がなんと説明するか迷っていると、先程まで目を回していたとは思えない様子で、アーサーは笑って口を開いた。



「僕は……アルストロ国立魔術研究所、他種族交流対策部門所属のアーサー・プライスです。ハーヴァーさんとは同じ部署でお世話になっています」


「……あぁ、あ(・)そ(・)こ(・)の(・)子なのね。じゃあ、あの子とも知り合いなのかしら」


 名前を告げない彼女の言動に、アーサーは少し考え込むようにしてから口を開いた。



「……アンブローズさんともお知り合いなんですね。そういえば貴女は、一階で猫の姿をしていましたが……その、どのような方なんでしょうか?」


「ええっと……私は魔女よ。本当は少し違うんだけど、あれも魔女の術の一つなの」


 やはりと言うべきか、彼がついてきた理由は彼女のその素性が気になったからなのだろう。彼はその瞳をまた輝かせる。



「まさか、本当に存在していたなんて! 超自然的に見えるその術の数々は、いまだに魔法だなんて呼ばれて御伽噺として語られているものばかりで、でもこうして実際にその術を見たら、研究意欲が……」


 ふと、彼はその言葉を止めた。何かを思い出したように考え込むような仕草をしてから、再度その口を開く。


「あれは、また今度にしよう。今は、クラウディアさんのお話を……」


 そう言いかけて、更にハッとした表情に変わる彼は、少しおずおずとした様子に戻りながら、申し訳なさそうに謝ってくる。



「す、すみません……僕また一人で……ハーヴァーさんが会いに来た方だったのに、質問ばかりしてしまって……申し訳ないです」


 そんな彼の言動に、私たちは顔を見合わせた。そもそも土産だけで、話す内容を考えていなかった私は少し目を逸らしながら彼に返事をする。




「私は……こう、君が話している内容も気になるし、構わないが……」


「私も一日中ここにいるから、退屈しのぎにもなるし全然いいのだけど。でも貴方は……そうねぇ。その体じゃ、持たなさそうねぇ」


 何故か彼の身体をじろじろと見る彼女は、そんなことを呟いた。彼は驚いたように自分の身体をみて、彼女のその言葉の意味を聞こうとする。



「そ、その……持たない、ってどういう意味、ですか……?」


「貴方は私と同じにはなれない、って事ね。あら、そういえばこの子はイヴの身体のことを知っているのかしら?」


 もし知らなかったら、なかなか危ないだろうその発言を彼女は平然としてのける。だが、私と一緒にいる人など大抵は知っていてもおかしくないのかと気が付いて、私はその言葉に頷いた。



「ふーん……なんだか、知っている人が増えたのね。……そうそう、私と同じって言うのは、私(・)と(・)同(・)じ(・)種(・)にはなれないってことよ」


「同じ種……ですか? クラウディアさんは魔女なんですよね?」


「正確には元魔女ね。今は死者の王、だなんて可愛くない名前で呼ばれてるわ。一部の精霊種にだけだけれど」


 彼女は土産のお菓子をつまみながら、そう説明する。聞いた事のない種族名だったのか、アーサーは首を傾げながら、その表情を少し難しそうに歪める。



「それは、後天的なものなのでしょうか? 持たない、と言っていましたが……その素質によっては人間でも成れる種族、なんですかね……」


 彼のそんな質問に、彼女は一瞬目を細めた。そして何故か得意げな表情になって、その説明を始め出す。




「……ふふ! 私が過去最高だと思える研究の成果なのよ。聡そうな貴方には特別に教えてあげるわ」

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