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海上の夜明け(7)

「お疲れ様、二人とも。凄いね、ダンスを踊れる人なんて今はそうそういないのに。私は昔から覚えさせられてきたけど……上手だったよ」


 一曲踊り終えた私達に、立食用のテーブルの近くでこちらの様子を見ていたノアがそう話しかけてくる。



「ありがとう。昔覚えたものだったが、中々踊れるものだな。……君たちは踊らないのか?」


 私の言葉に、彼女は少し寂しそうに笑うと、横に立つ彼を見上げた。



「……だって、ケニス。私達も踊る?」



「……あぁ、そうだな……行こうか、ノア」


「そうだよね、昔からケニスは踊りたがらな……へ?」



 少し考え込むような仕草をした後、ケニスは彼女に手を差し出す。そんな彼に、ノアは目を丸くした。驚いた表情でその頬を少し赤く染める彼女は、焦ったように口を開く。



「えっ、いいの? 貴方、普段は人目に付くのを嫌がるじゃない……本当に?」


「……なんだ、嫌なのか?」


 何故か諦めたような表情でそう問いかける彼に、ノアは首を横に振る。そして嬉しそうに笑うと、彼の手を取った。



「それじゃあ、私達も踊ってくるね……ふふ!」


 彼と繋いだ手と反対側の手をこちらに振って、彼女は楽しそうにホールへとかけて行った。







「……なかなか良い雰囲気ですね、あの二人。あの探偵さんが考えていることはよく分かりませんが、それでもノアさんのこと、大切に思ってるんですね」


「……そうだな。先程の件を考えるに、虫(・)除(・)け(・)も兼ねているんだろう。私達も、少し休むか」


 彼らを見送った後、私達は先程まで二人が立っていた近くのテーブル席へと向かう。そこには、細かい装飾の綺麗な食べ物が並べられいる。エルフィムは嬉しそうに写真を撮りながら、食べる物をゆっくりと吟味し始め、私も彼女に続いて、適当に手に取った飲み物を片手にホールを散策し始めたのだった。









 ――しばらくして、ダンスを終えたノアがホールの端にある椅子に座っていた私の元へやって来る。エルフィムはこの船のオーナーへの挨拶や、旅行客へと話を聞きに歩き回っているため、私は一人、その席からパーティを眺めていた。



「ノア、お疲れ様……なんだ、ケニスは連れていないのか?」


「ええっと、私が貴女に会いにいくっていったら、少し気になることがあるからってホールを散策しに行っちゃったんだ。貴女の傍なら安全だろうから、って」


「……彼は私をなんだと思ってるんだ? だが、本来ならそうなるのか……」



 不死である私に彼女を守らせるのは、確かに正しいと言えるだろう。エルフィムやアンブローズ、そしてリアンにアゼリアなど。それでも私を心配してくれる人々に囲まれていたせいか、その事実を思い出して私は自分は周りの人に恵まれているのだと実感する。



「イヴさんは、もしかして凄く強い人なの……?」


「いや、強い訳では……ただ、人より少しだけ、頑丈なだけだよ。いざという時は、私が君を守ろう」


 私の言葉に、彼女は驚いた表情になる。そして何故か少し怒ったような、複雑そうな表情で私の隣の席へと座ってきた。



「……あのね。実は私、嘘をついてたんだ。ここのチケット、確かに兄さんに貰ったんだけど。私がね、頼んだの……貴女に、会ってみたくて」


 少し悩んだように、それでも彼女は話しを続ける。



「その……馬鹿にしないでね? 最近、グレイ兄さんが捕まったでしょ? それでよく、ケニスが家に来るようになって。それで兄さんと話している所を何度も聞いたんだよ。……その時、貴女の名前がよく出てきて」


 そして、彼らが話しているその女性の事が気になったのだという。きっとケニスが名前を口にする事に不安を覚えたのだろう。それをリアンに聞いたところ、会いに行けばいいとチケットを貰ったのだそうだ。



「別に、貴女に妬いてた訳じゃないんだ。……って、本当は少し、そうなんだけど。それでも、まさか兄さんがそんなことをいう人の事が気になったって言うのが、一番の理由だったの。だってまさか、それじゃあ会いに行くといいだなんて普通は言わないでしょう?」


 まさか、彼女から私に会いに来たのだとは。てっきり、彼が何かしらの思惑があって彼女を送ってきたのだと思っていたが、間違いだったようだ。――それでも、何故彼は妹を私に会わせようとしたのだろう。それを、ケニスに伝えもせずに。




「……なるほど、そういう事か。まさかとは思ったが、これは……看過できない話だな」


 気付けば、いつの間にか彼女の後ろに立っていたケニスが、悩むようにそう呟く。それに驚いたノアは、焦ったようにあたふたしながらも、直ぐに申し訳なさそうに彼を見上げる。



「そ、その……怒ってる? 嘘ついてたこと……」


「いや……その事は別に怒ってないさ。それ以上に……いや、今はいい。それよりも、君達に話があるんだ」


 彼は悩んでいる顔を上げて、彼は口を開く。




「……少し気になった事があってね。ホール内を見て回ってきたんだが……少し、変な連中がいたんだ」


「変な連中……?」


「あぁ、例の匂(・)い(・)のする連中がな。なんでも複数いるようだ」


 この船には、あ(・)の(・)女(・)性(・)とは違いその正体を隠している海成種が他にいるらしい。だが、自分の種族を隠したがっているのには、彼らにも何かしらの理由があるのだろうと話していたはずだった。



「別に、他種族が人間の生活に密かに溶け込んでいるのは不思議なことじゃないだろう? この街のこともある。彼らがいてもおかしくはないんじゃないか?」


「それはそうなんだが……隠したがっている割には、彼らはよく人間に話しかけているようでね。随分と親しくなっているようだよ。まるで……どうにか人間との関わりを持とうとしているかのように」



 それを聞いて、私は疑問を持つ。そういえば、ノアに話しかけていた男性も海成種だった。彼らの行動は、まるで自(・)分(・)の(・)相(・)手(・)を(・)探(・)し(・)て(・)い(・)る(・)かのように感じる。



「……少し、注意しておくか。危険があるかはまだ分からないが……一応、私はフィーを探してくるよ」


 彼の警戒に、私も少し危機感を覚える。一人ホールを歩き回っている彼女を探すため私は席を立つ。だがそんな心配もいらなかったようで、彼女は直ぐに見つかった。同じように私の事を見つけたエルフィムは、嬉しそうにこちらに手を振ってくる。



「先生ー! 来てくれたんですか!」


「あぁ……フィー。しばらく私と一緒に居よう。……一人にするのは不安だからな」


「えっ、えっと。その、何かあったんですか……?」


 そんな問いかけに、私は先程聞いた 話を小声で説明する。すると彼女は、悩んだようにして口を開く。



「うーん……それは、どうなんでしょうか。あの探偵さんが何かしら違和感を感じているようなら、警戒していてもいいとは思いますが……」


「まぁ、気にしておいて損は無いだろう。彼らについてはまだ分からないことも多い。出来れば話を聞いてみたいものだが……やめておこう」



 先程、ノアにしつこく話しかけていた男性の事を思い出して、私はその知識的な欲求を振り払う。確かに彼女は美人だが、彼以外の海成種までよく人間に話しかけているとなると、流石に何かしらの裏があるのではと勘ぐってしまう。



「そういえば、ノアさんに話しかけてた人もそうだったんですね……? それは、探偵さんが気にしてしまうのも仕方ないですかね。ダンスに誘ったのも、それが理由かも知れません」


 そういえば、その頃から彼は周りを警戒していたのではないかと思い至る。態々私に彼女を預けてまで、ホール内を調べる程だ。何かしら思い当たる節があるのだろう。彼の行動は、確かに彼女への好意もあるのだろうが、それだけのものだとは思えなかった。




「……さて、これからどうしようか」


「そうですねぇ……年明けまでまだ時間もありますし、部屋で休んでもいいかもしれませんね」


 エルフィムの言葉に頷くと、私達は先程の二人の元へと向かった。すると、呆れた表情で彼女を見ているケニスと、その視線を避けるように、目線をそらすノアの姿があった。一体何を話していたのか、私はそんな彼らへと話しかける。



「私たちは一旦部屋に戻るが……君たちはどうするんだ?」


「あぁ……流石にノアとは部屋が違うからな。休憩室にでも向かうことにするよ。もしもの時は俺を呼ぶといい……きっとその為に呼ばれたのだろうしな」





 そんな彼の言葉に、私は少し疑問を抱く。だがその場は素直に頷いて、私達は一度部屋へと戻った。

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