【閑話】選んだ道
本末転倒だと、そう思う。すぐ嘘をついてしまうのは、もうどうにもならない悪い癖だった。このままではいずれ、あの人に嫌われてもおかしくないなと俺は笑ってしまう。
俺は一人、沢山の本の間を進んでいた。その先に、その女性は変わらず座っている。俺に気付いた彼女は、こちらを向いて話しかけてきた。
「……あら、今回は一人で来たのね。今朝とは随分と様子が違うみたいだけど、もしかして気が変わったのかしら」
室内の黄色がかった明かりに照らされ、その珍しい真っ白な髪を美しく輝かせながら、彼女は笑った。
「えぇ。……色々とあったんですよ。だから、貴女の言っていた通り、教えて貰いに来たんです」
その言葉を聞いた彼女――クラウディアは、まるで獲物を捉えたかのような瞳で、嬉しそうに笑った。
「そうなのね、嬉しいわ。貴方がこちら側に来てくれるなら……きっと彼女も、今まで以上に会いに来てくれるでしょうから」
そんな無邪気な言葉に、俺は若干の恐怖を覚える。彼女はきっと、自分の為にならどんな事でもやってのけるのだろう。だが、人の事など言えない俺はそのまま言葉を続けた。
「……彼女に、危害は加えないで欲しい」
俺のその一言に彼女は少し驚いた顔をした後、可笑しそうに笑った。
「ふふ、そんなの当たり前じゃない。私にとっても、彼女は大切な人なのよ。……私なんかより、本当は貴方の方がイヴを傷付けているんでしょう? 今だって、あの子の望まないことをしようとしてるんだから」
――彼女の、言う通りだった。俺は、あの人が絶対に望まないだろうことをしようとしている。この事を知れば、きっとあの人は自分を責めるんだろう。だからこそ、その時はあの人の前から消えようと思っていた。
それでも、あの人を傷付けてしまってでも、俺は長く彼女の傍にいたかった。それほどまでにこの感情は、歪んでしまっていた。
「最後に聞いておくけれど、どうするの? ……本当に、あの子を傷付けても、貴方はそれでいいのね?」
その言葉は、随分と優しいものだと思った。魔女である彼女は、それでも俺に覚悟を聞いてくる。
「……えぇ。もう、決めてきましたから」
俺の答えに、彼女はふっと、その顔から表情を消す。何かを考えるように、目を閉じていた彼女は、すぐにまた目を開けこちらを一瞥する。
「いいわ、貴方のその願いを叶えましょう。その代わり、私と友達になって頂戴ね、対価はそれだけよ」
「……俺で良ければ、喜んで」
そうして俺はその日――人間であることを、やめたのだ。




