墓地に眠る悲恋(4)
しばらく公園内を確認していたが、他の痕跡は見当たらなかった。そのため私は休憩所へと戻り、マーサに話を聞きに行くことにする。
「あら、イヴ先生。何かありましたか?」
エルフィムに聞いた名前が抜けないのか、私のことをそう呼ぶマーサは、店内に戻ってきた私にそう問いかけてくる。
「実は気になることがありまして。ここの墓地が出来た時の資料などの閲覧は出来ますか?」
それだったら、と彼女は店の奥の扉へと向かった。しばらく待っていると、資料がまとめられているであろうファイルを持ってくる。
「これ、裏の資料館の展示品なんですが、見せられるもののことはだいたい載っていると思います」
彼女はそれを手渡しつつ、悩んだ様子で言葉を続ける。
「直接関係することかは分かりませんが……実は、気を失っていた時に、夢のようなものを見たんです」
私たちはカウンター席へと座り、私は彼女の言葉の続きを待つ。
「……出てきたのは、女の人でした。多分この墓地ができる前の、この地域だったと思います。そこで、紛争に巻き込まれて、それに参加した恋人を待っている夢なんです。もしかしたら……幽霊の人の、記憶なんじゃないかって」
彼女はぱっと椅子から飛び降りると、自分の顔をぱんぱん、と叩いた。私はそれに少し驚く。
「すみません、少し暗くなっちゃいました。私はこの墓地を守っていくことしかできません。だから、どうかよろしくお願いします」
客が入ってくるドアの音を聞いて、彼女はパタパタとかけていった。そうお願いされてしまったら、どうにかしてあげないくてはと、私は思う。
カウンターテーブルへと向き直り、資料を開いてページをめくっていく。そこには当時の戦争の事、その際に巻き込まれた地域での紛争が各地で起こったことなどの歴史が記されていた。そして読み進めていくと、紛争で亡くなった人の当時の写真の複製されたものがスクラップされている。
その中に、とある男女の写真が載っていた。画質も荒く、その顔は正確に確認できないが、その代わり名前が記載されていた。それは慰霊碑に載っていたもの、そして新しく彫られていたものと同じ名前だった。
紛争に参加はしていないが、その女性は恋人が紛争で亡くなってしまったことに心を病み、この墓地で自ら命をたったという。そして、最低限の弔いとして同じ場所へと埋葬されたそうだ。
「なるほどな……幽霊というのは、この女性のことか。それなら何故、彼女を眠りから覚ますようなことをしたんだろう」
残念ながら、その理由は彼女を呼び覚ました本人にしか分からないだろう。そうなれば、もう直接聞いてみるしかない。私は席を立つと、最初に私たちが座っていた席で、資料を開き仕事をしている彼に話しかけた。
「すみません、ご一緒してもいいですか?」
私がそう聞くと、彼は顔を上げて軽く笑い了承してくれる。
「ええっと、ハーヴァーさん、でしたよね。どうぞ、私も少し休憩しようと思っていたところです」
そういって、資料を整えテーブルを片付ける彼――マクレイは言葉を続ける。
「それで、どうかしましたか? お話があるんだと思いましたが」
「えぇ、少しお聞きしたいことがありまして。以前所用でこちらに来たと言っていましたが、具体的には何をしに来たんでしょうか?」
私の質問に、一瞬彼の表情が固まった。だが直ぐに笑顔に戻り、口を開く。
「実は、新しい魔道具開発で行き詰まってしまい、少し外出して気分を変えようと思いまして」
「なるほど、ちなみにそれは何時のことでしょう?」
彼は考え込むようにして腕を組む、そして思い出したのか言葉を続ける。
「ええっと、そうですね。確か慰霊祭の数日前だったと……」
私はその言葉を聞き逃さなかった。そんな質問をされるとは思わず、正直に答えてしまったのだろう。
「そうでしたか。それなら、これはその時に持ってきたものでしょうか?」
私がポケットから取り出したそれを見て、彼はハッとした表情をする。それは、私が慰霊碑前で拾った魔道具の破片だった。
「これを、どこで」
「慰霊碑の傍に落ちていたんですよ。随分と遠くまで飛び散っていたようで、拾い忘れたんでしょう」
それを聞いた彼は頭を抱え、ため息をついた。
「どうしてそれが、私のものだと分かったんですか? その様子だと、確信があったようですし」
彼の問いかけに、私は困ったように笑って答えた。
「私も一応魔道具技師の端くれですからね。最初に言いましたが、貴方の品を愛用してるんです。きっと道具に刻まれた魔術式をよくよく見る人なんて、同業者くらいでしょう。それに貴方は、一つ一つ手作りのものを多く出しているでしょう? だからこの筆跡には見覚えがあったんですよ」
私は欠片に彫られた魔法陣の文字を指してそう説明した。それを聞いていた彼は少し呆気にとられた顔をする。
「そう、でしたか。まさかそんな所からバレるだなんて思ってもみませんでした。……そうですね、私がこの事件の原因で間違いありません」
彼は申し訳なさそうな表情になり、事のあらましの説明を始めた。
「本当は、こんなことをしたくて魔道具を使ったわけじゃなかったんです」
最初は、懇意にしてもらっている葬儀会社からの依頼だったという。特別製の棺の製作や、墓の管理の為の道具製作に携わっていたが、ある日、亡くなった方の遺族のケア向けの商品が作れないかという依頼が来たらしい。
最初は色々なアイディアを考えたが、わざわざ新しく作るにはパッとしないものばかりだった。そして彼は、もし亡くなった人と話せたら、と考えたのだという。
「別に、幽霊を作ろうと思ったわけでなく、亡くなった方の記憶や思い出を再生出来るような物が作れたらなと思ったんです」
そして、彼は例の試作品を作ったのだ。もし過去の人間の記憶やその当時のことを再生出来るようになれば、様々なものに応用出来るかもしれない。そう思い、この公園にきて試験をしたのだという。
「人間は亡くなった際に、体内の魔力が霧散する、って聞いたことがあったので。もしその情報を読み取れたら、と思いまして。それで、魔力の読み取りを中心とした道具を作ってみたんですが」
そして、失敗してしまったのだという。ある意味、本来の目的とは合致するため成功と言えないことも無いが、道具を使用した際に魔力が変質してしまった。そこで亡くなった彼女の魔力が、その人生を再現し動き続けている。
「まさかこんなことになるなんて、思ってなかったんです。だから幽霊を見た、という話を聞いた時は焦りました。原因を作った人間として、どうにかしなければとこうして通って調べていたんです」
だが彼は、道具を作る専門の人間であって、この異質な状況の対応方法は分からなかった。もしかしたら、彼女の人生が再生し終われば止まるかもしれないと思い、様子を見ているのだという。
「そうだったのですね。破片の少ない情報だけではどのような術式かわからなかったので、お聞きできてよかったです」
「ハーヴァーさんは、こういったことの専門家、でしたよね。どうにかなりそうなんでしょうか……いくら調べても私にはどうすることも出来ず、本当に申し訳ないのですが、貴方に頼ることしか出来ません」
彼は悲痛な顔でそう言った。やはり意図的にやったことではないことが、その表情から伺える。私は少し考えてから、答えを返した。
「……そうですね、どうにか出来るとは思います。ですが、今後はこういったことはしないよう約束してください。人の魂を呼び起こすようなことは、何が起こるかわかりません。それにどの道、いい結果にはならないでしょう」
私の言葉に、彼は深く頷く。その後に続けて、私は別の頼み事をする。
「それと……今回使用した魔道具の魔法陣、確認させてもらってもいいですか? 対処する際に危険がないか確認しておきたいのですが」
それを聞くと、彼は資料の中にある一枚の紙を渡してくる。そこに描かれた術式に特に問題がないことを確認すると、それをまた彼へと返す。そして私は、今回のことについて、マーサやエルフィムに説明するための文言を考えながら、二人を呼んだ。




