【閑話】魔女の記憶
赤く燃え盛るその炎を、物陰に隠れた私は静かに見つめていた。
魔女を滅する聖なる炎、だなんて呼ばれているその火の中心には、かつて母だったものが黒くなりのたうち回っていた。
そんな凄惨な光景の中、私はただ思った。
なんて、命は脆弱なんだろう。
目の前で命を散らしていく彼女は、よく人間を攫っては、その欲望のために実験を繰り返すような人物だった。だから、いずれこうなることは目に見えていた。因果応報というものだった。
だからだろうか、私は自分の育ての親が死ぬことに対して、悲しい、などというよりも先に、その思考で埋め尽くされていた。
どんなに強く、どんなに頭が良い魔女でも、こうも簡単に死んでしまうのだ。
だから私は考えた。死ぬ事の無い生を手に入れられればきっと、怖いことなどなくなるのだろうと。あの人のような最後を迎えることはないのだろうと。
私は彼女の研究を元に、その身の滅ぶことのない術を探した。人間を使うのは駄目だ、それは母の行いを持って学んでいた。
もともと人間よりも長い時を生きる魔女は、様々な種族の知識や、その技術を得ては実験を繰り返し――遂にそのすべを得ることが出来た。
そして私はもう、魔女ではなくなった。死者の王だなんて、可愛くない名前がついたけれど。そんなことはどうでもよかった。
私は自由になれたのだ。死という呪縛にもう怯える必要は無い。これからは、実験なんて辞めて好きに生きよう。
そう思った私は、早速旅に出た。様々な国を巡って、その文化や知識、価値観などを沢山吸収した。そして気付けば、もう数え切れないほどの長い時を生きてきた。
時代の変化はあれど、私にとって物珍しいものはなくなってしまった。私は、退屈になってしまったのだ。
それでも本だけは、私の退屈を消してくれた。どれだけ読んでも減ることはなく、むしろ増える一方で。
それでいて、同じものはひとつもなかった。歴史書はもちろん、図鑑、小説、伝記、その全てが変化し続けては、増え続ける。
そうして私は、本のある場所に閉じこもるようになった。きっとそんな中でも、世界は変わっていっているのだろう。私は本を読み尽くしては、他の国へと移り、また本を探すようになった。
けれど。
何か、物足りない気がした。
だがそんな思いも、本を読んでいれば忘れてしまう。だから、私は何も変わらないのだ。
そんな時、彼女に出会った。
ただの人間なのに、その身は老いを知らず、死を知ることがない。私は久しぶりに本以外へと興味を持った。
突然話しかける私に、彼女は返事をしてくれる。
きっと、私は彼女を気に入るのだろう。もしかしたらこれから先、長い時間を共にできるかもしれない。誰かと本の話を、感想を共有出来るかもしれない。無意識に、そんなことを考えた。
その気持ちを、なんというのか。何千何万と本を読んできた癖に、それすらも分からなかった私は。
ただ彼女の前で、楽しそうに笑うのだった。




