図書館の魔物(6)
結論から言うと、その後私たちは大人しく解散することになった。
盗まれた本の事や、彼らがそれをなかったと言った理由、気になることは様々あったが、それ以上に、私たち自身には直接的な関係がないことだった。それに、他にも理由はある。
「あら、犯人探しはしないの? 楽しそうだと思うのだけど」
そんな彼女の言葉に、私は腕を組みつつ返事をする。
「確かに気になりはするが……彼らが今回のことを隠蔽しようとしている時点で、ほぼ間違いなく国の人間が隠したい何かがあるんだろう。下手につついて、目をつけられなくない」
本来であれば、隠れながら生活するべき私にとって、今回の件はあまりに不安要素が多すぎた。正直なところ、関わらずに済むのならそうしたい。
私がそう言うと、アンブローズがそれに賛同するように口を開く。
「俺としても、それは嫌だなぁ。……理由はいくつかあるけど、上に怪しまれると色々と動きづらくなってしまう。イヴ先生の事でもね」
それを聞いたクラウディアは、残念とでも言うかのように肩を竦めた。彼女は座っていた椅子からすっと立ち上がると、こちらを振り返った。
「もし何かわかったら教えてね。私も少し気になるし、個人的に調べてみようと思うけど……無理にとは言わないわ。……逆に、なにか聞きたいことがあればいつでもここにいらっしゃい。二人とも、入ってくればすぐにわかるから」
そう言いながら、彼女はこちらに手を振ると、また消えるように本棚の合間を歩いていった。
彼女を見送ったあと、無意識に小さいため息をついたアンブローズが口を開く。
「なんだか、凄い人だったね……それにしても、なんでジェフはあんな嘘をついたんだろう」
「気になるようなら、簡単に館の職員に話を聞いてみようか? その程度なら問題ないだろう」
私は受付の方を確認する。先程怒られていた人物は居らず、そこには若い女性が一人座っていた。先程の喧騒を聞いたから、どうしたのだと聞けば多少は教えてくれるだろう。私は直ぐに受付の方へ向かい、その女性へ話しかけた。
「すみません、先程、随分と騒がしかったようなので、なんでも本が盗まれたと聞こえてきたんですが……大丈夫だったんでしょうか」
「お騒がせしてしまったようですみません。実は、とある書庫の鍵が空いてしまっていた? とか。詳しくは分からないのですが、そこまで多くない本が保管されていたらしくて、その一冊がなくなったとか。国の警備の方が来てくださって……うちで働いてる警備員さんじゃなくて、国の警備隊の凄い方らしくて! こちらでなんとかするから、大丈夫だと。きっと解決してくださると思います」
思った以上にお喋りなまだ若い受付嬢は、隊員である彼らを思い出したのか、顔を赤らめながらそのそう教えてくれた。それを聞いて、私は軽くお礼を言いつつアンブローズの元へと戻る。
「……だそうだ、随分と凄い警備隊なんだな」
私が聞いてきたのことを軽く説明すると、彼は悩んだように顔に手を添える。
「どうにかする、かぁ……ますますきな臭くなってきたね。まぁ上からの使いっ走り、なんて言ってたから、彼らは関係ないかも知れないけど」
確かに、彼らは仕事をしただけで、実際に関わりがあるとは限らない。何だかんだアンブローズは彼らのことを信頼しているようで、それ以上は何も言わなかった。
その後、休日も少なく休む時間もないだろうアンブローズを帰宅させ、私は図書館で調べ物の続きをした。だが特にめぼしいものが見つかることはなかった。
その日のうちにまたクラウディアと会うことはなかった。帰り道に私は街へ寄り、仕事終わりのエルフィムを誘って夕食をとることにした。
「先生、今日はどうでしたか? 少しは休めましたか?」
エルフィムは食事が来るまで、手元の水をちびちび飲みながらそう聞いてくる。
「うーん……色々とあってね。休めた、とは少し言い難いかな」
私は今日起きたことを伝えると、エルフィムは一瞬目を輝かせたあと、わざとらしく咳払いをした。
「そ、それは……お疲れ様でした。まさかたまの外出でそんなことになるなんて、先生はこう、持ってますね」
彼女は微妙な顔をしながら、店員の持ってきたパイを受け取って、一切れこちらに渡しながら話を続けた。
「それにしても、禁書庫から本が盗まれるだけでなくそれを隠蔽しようとするなんて……なにか凄い事件の予感がしますね」
「フィーの勘は当たるからなぁ……だが無理に首を突っ込まない方がいい。もし何かあるようなら、お前の会社にも話が行くだろう」
エルフィムの、記者の勘、というのは実の所よく当たるのだ。良くも悪くも、前もって警戒することが出来る。その上記者である彼女には、会社に情報が集まってくるため事件に関わるか関わらないかも決めやすかった。
「そうですね、それまでは大人しくしてます。今回のことも気になりますが、実は別の事件? のお話があるんですよ、実は国境近くの墓地でですね……」
こうしていつものように、彼女から事件の話を聞いていた。私の元にも食事が届き、それをつつきながら私は次の予定を立てた。次は墓地での幽霊騒ぎだという。
もうだいぶ寒くなってきて、すぐにでも雪の降る季節になるだろう。現場にはコートでも用意していかないと、等と考えながら私たちは食事を続けた。
そんなこんなで食事を終え、私たちは店を出ることにする。
――その時だった。
私はふと、どこからか探るような視線を感じた。ぱっと店内を振り返っても、食事時のため客も多く、誰が見ているのかは分からない。その不快感に、若干身震いをする。隣に立っているエルフィムは、気づいていないようだった。
胸騒ぎがした。だが私はその漠然とした不安を振り払い、視線のことを気に留めつつも、その店を後にした。




