悪戯少女の収穫祭(5)
「実はもう一つだけ聞きたいことがあったんだ。実はここ数日のうちに、何人かの行方が分からなくなってしまっていてね。何か知らないか?」
私の質問に、彼女は首を傾げる。
「ごめんなさい、わたしにはわからないわ。お祭りが気になって、一人でやってきただけなの……」
「そうか、君は関わっていないんだね……教えてくれてありがとう」
笑顔で彼女に礼を言い、私は時間を確認する。そろそろ仮装コンテストが終わる頃だった。早めにブローチを持って返らなくてはと、私たちは先程の会場への戻ることになる。
会場に着くと、ステージの裏にエルフィムとバートンが戻ってきているのが見えた。急いで二人に合流すると、エルフィムが勢いよく飛び付いてきた。
「先生っ、ごめんなさいぃ……見つかりませんでした……」
「大丈夫だ、こっちで見つかったよ。残念ながら失踪事件とは関係なかったがな」
謝りながら抱きついているエルフィムの頭を、私は軽く撫でる。すると彼女はぱっと顔を上げた。
「本当ですか! よかったです、それで犯人は誰だったんですか? やっぱり隣人さんでしたか?」
その言葉に答えるように、私は後ろにいるアンブローズの、さらにその後ろに隠れているプーカを見る。彼女はすこしだけ、覗くようにこちらを見返してきた。
「この子……可愛いですね!! こんばんは、私はエルフィムって言います、お名前を聞いてもいいですか?」
彼女は優しくプーカに笑いかけた。すると警戒が解けたのか、アンブローズの後ろからゆっくりと前に出てきた。
「少しだけ話をしていてくれ。人間について少し知らないことが多いようだが、悪い子じゃない。私は景品を返してくるよ」
私はアンブローズを連れ、スタッフの所へ向かう。プーカのことは伏せながら、起こったことを説明をし、無事ブローチを返すことが出来た。今はまだ選定中だったらしく、どうにか間に合ったようだ。
また彼女たちの元へ戻ると、三人はすぐ仲良く慣れたのか、楽しそうに話し込んでいた。
「へぇ、それじゃあプーカちゃんは国境近くの森から来たのね、遠いところから一人で凄いねぇ……。お祭り、楽しんでいってね」
「えぇ、せっかくだからみんなと一緒に回りたいのだけど……いいかしら?」
「皆と一緒の方が絶対に楽しいですよ、是非一緒に行きましょう!」
いつの間にやら祭りを巡る計画を立てている彼女たちに、私は声をかける。
「仲良くなれたみたいだな。特に問題がなければ祭りに戻れるはずだ」
「そうですね、見回っていましたが、他に問題が起きた様子はなさそうでした。大丈夫ですかね、所長?」
バートンがそう問いかけると、アンブローズはすこし遅れて頷いた。
「あ、あぁ。大丈夫だろう。失踪事件の方は、そもそもが精霊種かどうかも分からないからなぁ……今の俺たちに出来ることはもうないだろう」
その言葉を聞いて、三人はぱっと笑顔になり、街中へと歩き始めた。私とアンブローズはその後ろをゆっくり着いていく。
「最初は何を言ってるんだと思ったが……確かに、娘ができたような気がしてくるなぁ、これは」
楽しそうに話しながら、お店でお菓子を貰っている彼女達を見て、私は笑う。それを聞いていたアンブローズは、少し目を見開き驚いた顔をした。
「っ、それは……確かにそうだね。でもこんなお転婆な娘が三人もいたらきっと大変だろうね……」
そう言いながらも、つられるように彼は笑う。そんな様子を見て、何故か少しだけ息が詰まった。私は何か言おうと考えたが、言葉が見つからない。そんな時、綿菓子を持ったエルフィムがこちらへとかけてきた。
「先生! これ、さっきの屋台でおまけしてもらったんです、よかったらどうぞ!」
彼女の手には、可愛らしい袋に入ったクッキーが握られていた。私がそれを受け取ると、エルフィムはすっと距離を詰め、少し小さい声で話し始めた。
「プーカちゃん。あの子、精霊種の中でもプークって呼ばれている種族でした。悪戯好きで、すぐものを持っていったり、隠したりする……って言われてるんですが、あの子ははぐれらしくて。だからでしょうか、素直でいい子ですね」
森棲種は元から、精霊種との交流が人より多い。彼女も例外ではなく、実際に出会うことはなくとも、知識は豊富なのだという。
エルフィムはそれだけ伝えると、私から少し離れた。そして隣にいたアンブローズにもお菓子を渡しながら、話しかける。
「アンブローズさん、プーカちゃんから少しだけ聞きました、仕方ないので今日は大目に見てあげます。……本当だったら私の場所なんですからね!」
そんなことを言いながら、彼女は二人の元へ戻っていった。その後ろ姿を、少し呆けながら見ていたアンブローズがぽつりと呟いた。
「張り合ってるつもりはないんだが……エルフィムは本当に先生のことが好きだなぁ」
「今回私達は保護者のようなものだからな……たまには私以外と話すのもいいだろ」
私の言葉に、何故か彼は耐えきれないように笑いだした。
「そうだね。先生は俺の先生でもあるんだから、たまには譲ってもらっても罰は当たらないはずだ」
その言葉を聞いて、私はふと昔を思い出す。確かに、彼は私の教え子のようなものだった。出会いは本当に偶然だったが、彼が子供の頃、魔術学を教える機会があったのだ。彼が大人になってから再会した時は、流石の私も驚いた記憶がある。
「今思うと、よくお前は覚えていたな。ほんの数年、お前の学校帰りの数時間、魔術学を教えていただけなのに」
「それってかなり長い方だと思うんだけど……でも、そうだね。俺にとって、先生は人生を変えてくれた人だから」
彼は、ふと目に止まった屋台で飲み物を二人分買うと、それを私に渡しながら続ける。
「先生には本当に感謝してるんだ。あの頃、この道を進もうと思えたのも、親の反対を乗り切れたのだって。貴女が沢山のことを教えてくれたから、今まで後悔することなく生きてこれたんだよ」
昔のことを思い出したのか、彼は少し俯きながら笑う。そこまで感謝されていたことを、改めて伝えられた私は少しだけむず痒い気分になる。二人でゆっくりとこんな話をするのは、随分と久しぶりだった。
「あの時、仕方なかったとはいえ突然消えちゃったからね、先生。言いたかったことがまだ沢山あるんだよ、だからこうしてまた二人で話を聞いてくれるかな」
「……あぁ、いつでも話に来るといい。せっかくここにいるんだ、忙しいようなら私から会いに行ってもいいさ」
私のこの身体は、関わってしまった人の傍から、自ら離れていかなくてはならないものだった。長い間同じ場所に留まっていると、いずれボロが出る。
だが今は、事情を知る友人がいる。いずれも私に好意を持って、助けてくれる大切な人達だ。もしかすると、いつか私のこの呪いが解ける前に、彼らとも死に別れてしまう日が来るかもしれない。
だからこそ、今出来る最大限、彼らに報いたいと、そう思った。
そんなことを考えながら、私は静かに笑って皆の後を追った。




