悪戯少女の収穫祭(3)
「いや、本当に俺はただ純粋に誘っただけなんだけど……その、国からちょっと、出来れば見回りをして欲しいっていう話が来てね……」
歯切れの悪い言い方をするアンブローズは、目を逸らしながらバツの悪そうな顔をした。
「警備員でもなんでもない俺たちに、しかも出来ればって話だったから。大丈夫かと思ってたんだ。……いや、本当にすまない」
なんだかんだ言いつつも素直に謝る彼に、私はそれ以上に気になったことを問いかける。
「まぁ見回りだけなら祭りを回るついでに出来るからな、それはいい。それよりなんでわざわざ国からそんなことをするように、なんて研究所に連絡が来たんだ?」
「それが、実は色々とあったらしくてね」
彼が説明し始めようとした時、何かを考え込んでいたバートンが声を上げた。
「……あっ、思い出しましたよ、ハーヴァーさん。どこかで聞いたことがあるなと思ったんですが、そういえば研究所でお名前をお見かけしたんですよ」
そう彼女が言ったのは、きっと取引先名簿の事だろう。アンブローズが外注として私に仕事を持ってくるため、研究所で私の名前を見かけてもおかしくはなかった。
「なら、その話をしても大丈夫ですかね? 流石に関係者以外に簡単に話してしまうのはどうかと思いましたが」
確かに、言ってしまえば私は部外者だ。国からの依頼の内容を簡単に話すわけにもいかないだろう。
「確かに世話にはなっているが、それでもさすがにまずいんじゃないか……?」
私がそういうと、話を中断されていたアンブローズが話を再開する。
「むしろイヴ先生には聞いてもらったほうがいい気がするよ。言ってしまえばこれも魔術関連の事件だから……多分だけど」
事件、という言葉を聞いて、いつの間にやら戻ってきていたエルフィムが目を輝かせ会話へと入ってくる。
「事件……! もしかして、例の失踪事件の事ですか!」
エルフィムの言葉に、バートンは驚いた表情で反応する。
「失踪事件について知ってらっしゃるんですか……!? ええっと」
「ミラ・エルフィムと申します! 初めましてバートンさん。実は私、記者をしていまして。少しだけ情報が入ってきてるんですよ」
するとエルフィムは、ここ数日で起きた失踪事件について説明を始めた。
その事件というのは、今日の収穫祭の準備に追われた人達が、忽然と消えてしまう、というものだった。誰かが連れ去ったという証拠もなく、隠れる場所すらないようなところですら、目を離した隙に彼らは消えてしまったのだという。
「昨日の時点で、確か三人でしたか。広場で装飾の準備をしていた人や、お店のお手伝いをしていた学生さん、あとはたしか、準備の見回りをしていた警備の方だったと思います。皆共通して、人が目を離した隙に煙のようにいなくなってしまったらしいんです」
それを聞いて、私はある考えに思い至った。
「もしかして、それが精霊種の仕業の可能性があるということか? だから魔術研究所に連絡がきた。それでまた同じような事が起こらないように見回り、もし本当に精霊種の仕業であれば、という訳か」
原因が分からず人や物が消えることを、人は隣人さんの悪戯、などということがある。一部の国などでは神隠し、なんて言われたりもするが、今回の失踪事件も、その不可思議な特性からそう言われているのだろう。
私の考えを聞いていたアンブローズは小さくため息をついて頷いた。
「先生の予想通りだよ。失踪事件が精霊種のせいだなんて思えなかったんだが、実際たった今物が消えた場所に痕跡が出てしまったからね……」
「でも今回は物なんですよね? 同じ相手が犯人だとは限りませんよ。まずは探してみるところからですね、ネタは足で稼げ! です!」
エルフィムはやる気満々にそう言ってのけると、まずは景品泥棒の捜索から始めましょうと提案してくる。
「ちなみにその無くなった景品はどんなものだったんだ?」
探すにしても、物が分からないと探しようもない。私がそう問いかけると、バートンは細かく説明してくれる。
「ええっと、確かアクセサリーだそうですよ。銀細工のブローチで、結構良い物だそうです。特徴としては、花の形をしていて、深い青色の宝石がはめ込まれているそうです」
「……へぇ、そんな物が景品だなんて、随分と羽振りがいいんだな」
なにか思うところがあるのか、アンブローズは考え込むような仕草でそう呟く。
「とにかく。元から彼らを探しながら回るつもりだったしな、さてどうするか。別れて探そうか?」
私たちが話している間に始まってしまった仮装コンテストを見ながら、急いだ方が良さそうだと伝える。
「そうだね、二手に別れることにしようか。うーん、出来ればそれぞれに精霊種相手に対応出来る人が一人入るようにしたいんだけど……」
アンブローズはそう悩んだ表情で私の方を見る。
「そうだな、エルフィムと私がそれぞれ別れるといいだろう」
私とエルフィムは、なんらかの道具を使わずとも精霊種との接触が可能だ。できる限りリスクを減らすとするならその方がいいだろう。
「そっか、エルフィムさんは森棲種でしたね! もしよかったら私と一緒に探しませんか?」
バートンは目を輝かせながらそう提案する。するとエルフィムはアンブローズの方をじっと見てから彼女の方を振り返り返事をする。
「なんだか敵……ではないんですけど、塩を送るみたいで癪ですね、でもまぁいいでしょう。今日のところは譲ってあげます」
そんなことをいうエルフィムとアンブローズを交互に見ながら、バートンはふふ、と笑う。
「もしよかったら色々とお話聞かせて下さいね、エルフィムさん。私からも色々と教えちゃいますから」
すぐに打ち解けた二人は、何か楽しそうに笑いながらこそこそと話し始める。
「それじゃあそれぞれ探しに行こうか。バートンさん、エルフィムをよろしく頼む」
「エルフィムも、バートンを頼んだよ。彼女、珍しいものをみかけるとすぐ飛んで行ってしまうからね」
私達はまるで子供の面倒を頼むような言い方でそれぞれに言葉を伝え、その場を後にする。
それぞれ反対側の道へと歩きだしてから、アンブローズがふと呟く。
「あぁ、エルフィムには足元を見られている気がするな……後で何か買っておかないと」
「お前、さっきもしれっとぬいぐるみを買ってやってただろう」
「まぁそれはつい、ね。なんだか親戚の子を預かっているような気分になるんだ」
彼はそういいながら嬉しそうに笑った。
「……まぁあとは口止め料的な感じかなぁ」
「なんだ、エルフィムに弱みでも握られてるのか」
小さい声で物騒な言葉呟く彼に私はそう聞くと、まぁね、と言って目を逸らされる。
「ま、お前たちの事だ。そんな大事ではないんだろう。それにしても」
私は歩きながら辺りを見回す。こんな人混みの中、その犯人とやらを見つけることなんて出来るんだろうか。
そう思いつつも私は、祭りの装飾の輝きと人混みをかき分けるように歩みを進めた。




