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悪戯少女の収穫祭(2)

 夕方になり、迎えに来た二人と共に街の中心地へと向かった。そうして今へと至る。


「それにしてもアンブローズさん、今日は何かあったんですか? なーんとなくですが、私の記者の勘が、事件の匂いがするって囁いてるんですよ……!」


 橙(だいだい)や黒、紫などを基調とした可愛らしいぬいぐるみを、まるで腹話術のように動かしながら、エルフィムがアンブローズにそう問いかける。


「なんでイヴ先生もエルフィムも揃って俺を疑うんだ……? あぁ、だけど一つだけ、こんな話を聞いたかな」


 アンブローズはエルフィムの持っているぬいぐるみを受け取りながらそう話を始める。


「それってもしかして、隣(・)人(・)さんが現れるかも、っていう話ですか?」


 彼の話に、エルフィムが真っ先に飛びついた。


 隣人(りんじん)――と彼女が呼んだのは、精霊種(せいれいしゅ)の事だ。様々な種族の中でも、精霊種は、身体が全て魔力で形成されているという特徴がある。そのため普通の人の目には映らず、一般的には認知されていない存在だった。

 存在自体は確認されているため、一種族として認められてはいるものの、やはり目に見えないため人間との交友関係は浅い。



 だがそんな見識の中、幸運を運んでくれるなどと人々の中で語られることもある。そのため彼らは敬愛を持って人々に、隣人さん、と呼ばれていた。



「私はエルフなので普通に見えるらしいんですけど、お目にかかれたことは殆どないんですよね」


 うーん、と唸りながら彼女は口を尖らせる。


「なんでも収穫祭の喧騒に誘われた精霊種が街に出てくるんだとか。うちの研究所の職員達も、楽しそうに騒いでたよ。もしかしたらコンタクトを取れるかも、ってね」


 店のカウンターへ向かい、ぬいぐるみを購入した彼は、それをエルフィムに渡しながらそう答える。


「今日は休みだからね、祭りに研究員達が結構来てるみたいだ。多分一目でわかるよ」


 だからほら、と、アンブローズは上着から眼鏡を取り出した。それは研究者御用達の魔力を可視化出来るものだった。


「祭りのときまで仕事道具(そんなもの)を取り出されるとはなぁ……」


 私がため息混じりにそう言うと、その言葉を聞いた彼はニヤッと笑った。そして更にもう一つ眼鏡を取り出した。


「大丈夫、イヴ先生の分も持ってきてるよ」


「別に私は、精霊種なら見えないこともないんだが……いや、それよりなんで私の分まで持ってきてるんだお前は」


 呆れ顔でそう言うと、彼はにこにこと笑いながら言葉を続ける。


「なんだかんだ収穫祭には何度も来ているだろう? ならせっかくだし、別の楽しみ方も出来たらいいかな、と思ってさ」


「そういう見世物みたいにされるのを彼らは嫌がるんだがなぁ」


 そういう彼の言葉に渋々頷きつつ、私は眼鏡を受け取った。


「はっきり見えすぎても、人間と区別がつかなさそうだな。まぁ出会えたら幸運、ぐらいの気分でいるか……」


 買い物を終え、ぬいぐるみを抱きしめて喜んでいるエルフィムを連れ店を出た。


 しばらく出店を眺めながら歩いていると、一際賑わっている広場へとたどり着く。中央に噴水のあるそこには、いくつかのステージが出来ている。


「先生! あのステージ人が沢山いますよ! 今年は何が行われているんでしょう、見に行きましょうっ」


 そう言ってエルフィムがステージ前へかけていく。私とアンブローズは彼女の後を追いながら、そこで行われる催し物を確認した。


「仮装コンテスト……? 随分と人が多いと思ったら、子供が出る家族が集まっているのか」


 私は近くにいたスタッフにチラシをもらい確認する。あと十五分程度すればコンテストが始まるようだ。


「仮装コンテストか、エルフィムなんかが出れば……いや流石にそれはちょっとずるいかな」


 真剣な顔をしながらアンブローズが呟く。私はそんな彼を、本当に親みたいだな、などと思いながらステージ周りに目を向ける。するとステージの裏側が少し騒がしいことに気付く。


「なんだか裏方が騒がしいみたいだな」


「あれ、本当だ。……何かあったのかな。うーん、面倒事な気がしてきたぞ」


 少し渋い顔をしながらアンブローズは呟く。するとその予想が当たっていると言わんばかりに、スタッフが集まっている所からから一人の女性が走ってくる。


「しょ、所長〜! いらっしゃってたんですね……!」


「うわ、なんでうちの職員が……」


 苦い顔をしながらそう言い背を向け、そそくさと逃げようとするアンブローズを私は捕まえる。


「なんで逃げようとするんですか!? ……ごほん、こんばんは、アンブローズ所長。あら? お連れの方がいらっしゃったんですね。こんばんは、私、国立魔術研究所メリア支部所属のバートンと申します」


 彼女は眼鏡をくいっと手で持ちげながら、素早く名刺を差し出してくる。


「ご丁寧に、ありがとうございます。ハーヴァーと申します。彼とは友人でして」


 バートンの勢いに気圧されながらも、私は挨拶を返す。


「ハーヴァーさん、どうぞよろしくお願いします! ……はて、どこかでお聞きしたことのある名前ですね? ……それにしてもこんな美人さんと一緒に収穫祭に来ているだなんて、興味がないのかと思っていたんですが、所長も隅に置けませんね」


 眼鏡をきらっと光らせながら彼女は笑う。それを聞いたアンブローズは顔を顰めながら口を開く。


「そんなことより、どうしたんだ? その様子だと何かあったんだろう」


「あっ、そ、そうなんですよ! あまり大きな声では言えないんですが、実は、ここで行われる仮装コンテストの景品が無くなってしまったらしくて」


 彼女は小声で説明を始めた。なんでもここの仮装コンテストの優勝者に贈られる予定だった景品が、忽然と消えてしまったという。誰かが舞台裏に侵入した形跡もなく、スタッフが目を離した一瞬の隙になくなってしまったのだという。


「それで、多分これは私たちの仕事だな、と思って現場を見せてもらったんです。そうしたらもう、魔力の痕跡が沢山あったんですよ! これはもう隣人さんの仕業で間違いないでしょう?」


 なんだかんだ嬉しそうにそう語る彼女に、私はふと疑問に思ったことを問いかける。


「お仕事、ですか? 研究所の方は休みだと聞いていたんですが」


 するとアンブローズは、うっ、と声を漏らし目を逸らす。


「……ははーん、所長、さてはハーヴァーさんに説明してないんですね」


「いや、何も起こらなければ休日と一緒だろう。大丈夫だと思ってだな……」


 なるほどな、と私は思った。アンブローズの事だ、何かしら隠していることがあるのだろうと思っていたが、それは正解だったらしい。彼は観念したのか、渋々話しを始めた。

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