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叩く者と獣の子(4)

「人間だ」


「人間がいるぞ?」


「そういえば今日来るって長が言ってたな……誰か長に連絡を」


 大分奥地へとやってきた私達は、気付けば木々の隙間から聞こえてくるそんな声に歓迎された。姿は見えないが、その会話の内容から彼らが鉱採種(ノッカー)だということが分かる。そして進むにつれて、カンカン、と何かを叩く音が多く聞こえてくるようになった。



「そろそろですね。きっと驚くと思います。鉱山って言ったら、こう、泥臭いイメージが強いと思いますが……ほら、見えてきましたよ!」


 ダナが指を指した先、そこには小さな街が広がっていた。小さいとは、敷地が狭い訳ではなく文字通り人の背丈より少し高い位の小さな家々が建ち並んでいるのだ。そして、人間の半分程の背丈の彼らは、そこで各々の生活を営んでいる。



「街に入ると彼らが驚いてしまいますから。まずは鉱山へと向かいましょう。関所があって、そこに話がいっている筈です」


 そんなユエンの言葉に私達は頷いて、その後に続いた。私は先程見た光景に、メモを取りつつ考え始める。どちらかと言うと精霊種よりの彼らは、それでもかなり技術の発達した生活を送っているようで、人間並みか、それ以上の暮らしをしているらしい。



「凄いですね、まさかあそこまでとは」


「でしょう! 彼らは元からその器用さで技術力を上げてきたんだそうです。鉱山内も凄いらしいですよ。少しだけ、頭に気をつけないといけないかも知れませんが」


 ダナが頭を守るような仕草をしてそう答える。そうこうしている内に、私達はそこまで遠くないその関所へと辿り着いた。複数の鉱採種達がこちらへやって来て、前に出たユエンが軽くしゃがみ込むと挨拶を交わし始める。




「この度は時間をとってくださりありがとうございます。代表のユエンと申します」


 彼の挨拶に、一人の鉱採種である女性が前へと出てくると、綺麗にお辞儀をして言葉を返した。



「こちらこそ、遠路遥々お疲れ様です。この鉱山を任されています、ハーウェルと申します。こちらとしても初めての試みですから、どうぞゆっくりなさって行ってください」



 各々挨拶を終え、流石にこの人数で鉱山へと入る訳にも行かず、街で彼らの生活を確認する研究者側と、鉱山での案内や説明を受ける側に分かれることを決めた私達は人選を始めることにした。



「それじゃあ鉱山にはプライス君に、私は護衛の彼らと共に街へ向かいます。契約については二人が請け負うから、君は彼らの様子を確認して書き記していくだけで大丈夫だ。頼んだよ」


「わ、分かりました……その、どうぞよろしくお願いいたします」


「よろしくお願いしますプライスさん。お手数おかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします、ハーウェルさん」



 そうして鉱山へと向かっていった彼らを見送って、私は一度研究所へと連絡を取った。無事ついたことを伝えると、その場に残っていた鉱採種の男性に連れられて再度街へと向かうことになった。




「俺たちはデカいんで、こっちで待ってますよ。しゃがんでた方がいいですかね?」


「はい、大人は魔獣等で慣れてますが、子供たちはまだ自分達より大きい生き物を見慣れていないので……そうして貰えると助かります」


 ディッチと名乗ったその鉱採種の男性がそういうと、護衛の彼らは笑顔で街の隅へと腰を下ろした。やはり物珍しいのかちらちらとこちらを見てくる鉱採種達に軽くお辞儀して笑顔を向けると、手を振ってくれるものや隠れてしまうものなど様々だった。


 そんな中、私が資料をまとめる為の書板型の魔道具を取り出していると、後ろからエドワードが声をかけてくる。



「……一人で大丈夫ですか?」


「あぁ、特に危険もないだろう。別に休んでいてもいいんだが……君も付いてくるか?」


 私の問いかけに彼は小さく頷くと、何故か私が書板を持っている左腕をじっと見てきてその首を軽く傾げた。私がどうかしたのかと問いかけるよりも前に、突然私の足に何かが飛びついてくる。



「……おねえさん、だっこして」


「……えっと、君は?」


 私は軽くしゃがむと、私の足に抱きついてきたその鉱採種の少女にそう話しかける。だがそのまま私の腕を掴んで身体に登ってこようとしてくるため、私は急いで地面に座るとそのまま彼女を抱き上げた。



「す、すみません、貴女は随分と魔力が多いみたいで……その、子供が寄ってきてしまうみたいです」


「分かるんですか?」


「はい。我々は基本的に魔石の採掘等を主にしているからか、魔力が濃い物の匂いが分かるんです。それに引かれて寄って行ってしまうので……あ、こら、君たち……」


 ディッチがそう説明している間に、わらわらと鉱採種の子供たちが集まってきてしまい、気付けば私は取り囲まれていた。まさかこんな所でこんな弊害があるだなんて思いも寄らなかったが、先程荷物を出す際にに紛れて私の頭に乗っていた角兎をエドワードが持ち上げると、そのまま横にしゃがんでくる。



「これは……どうにかするべきでしょうか」


「いや、大丈夫だ。そうだ、君も気をつけた方が」


 私がそう注意しようとする前に、一人の男の子がエドワードへと近付いていき、そのまま彼の袖を引っ張っておずおずと口を開いた。



「……お兄さん、おおかみさんなの?」


「えっと……」


「あ! 角兎もってる! おにいさん、かしてかして!」


「人間さんじゃないの? あ、わかった! へんげっていうんでしょ! 絵本で読んだよ!」


 気付けば彼も子供たちに取り囲まれて、彼が抱えている角兎も仕方ないなといった様子で子供たちに撫でられたり引っ張られたりしていた。まるで幼稚園みたいだなと思いながらも、仕方ないので落ち着くまで様子を見ることにした。



「す、すみません……人間さんですよね。こ、子供たちが……」


「あぁ、気にしないでください。保護者さんですか?」


 一人のエプロンをつけた女性がそう問いかけてくるのを皮切りに、こちらの様子を伺っていた鉱採種達が興味深そうに集まってくる。子供達にされるがままになっている様子を見て、警戒を解いてくれたらしい。



「……これは、まるで見世物みたいだな。まぁ仕方ないか」


「ほ、本当にすみません。急いで退かせますので……ほ、ほら、君たち。この街のお客さんだから、そろそろ退いてくれ……」


 ディッチと先程のエプロンをした女性が急いで子供たちを退けると、彼女がこちらへと謝罪してそのまま何処かへと向かっていってしまった。きっと本当に幼稚園の生徒と先生だったのだろう。



「児童を預かる施設あり……人間と似ているんだな。……アクロイド、大丈夫か?」


「大丈夫です……その、ハーヴァーさんはそんなに魔力が多いんですか……?」


 無表情ながらもやはり気疲れしてしまったのか、角兎を抱きしめたエドワードがそう問いかけてくる。一応研究者は魔力の多い人間がなるものだが、私はそれとは比にならない筈だった。普通に誤魔化して答えようと思っていた矢先に、ディッチが私を見て声を上げる。



「御二方は普通の人間ではないんですよね。そちらの護衛さんは獣人が混ざっているようですし、貴女もどちらかと言うと精霊種寄りの……あれ、てっきりそういう方々だからここに来たのかと思っていたのですが……」


 私があからさまに困った表情になったことに、彼は焦ったように口を塞いだ。だが既に遅く、エドワードが私を見てから考え込むように角兎の方を見る。これはどう説明したものかと思いながらも、ここではそこまで他種族に対しての偏見が少ないのだなと私は感心していた。



「普通だったら驚かれるかと……思ったより私達にも怯えている様子はありませんでしたし、そこまで他種族に対して悪いイメージがないんですね」


「それは……そうですね。基本的に私達の外敵といえば魔獣などですから。それを狩ってくれる人間にはそこまで敵意はありません。それに、この街の中なら何処よりも安全ですから」


 そう言って彼が指さす方向には、街を囲うように柱のような物が立っている。ある種の防衛用の物らしく、あれのおかげで街の中に獣等の外敵が入ってこないのだと説明してくれた。やはり魔石の採掘を主としているからか、その技術もかなりのものらしい。



「……ハーヴァーさん」


「アクロイド。えっと、さっきの話は帰ってから……」


「いえ、そうではなくて……それもそうなんですが……分かりました」


 顔を上げてこちらに声を掛けてきた彼にそう言うと、少し複雑そうな表情ながらも頷いてくれる。私の事にもあまり驚いていないようで、むしろ他に何か気になることがあるようだった。そういえば、ここに来る前から何かを気にしているようだった為、それについても帰ってから聞いてみようと私は考える。



 とにかく今は鉱採種達についての情報を集めようと、少し申し訳なさそうにしているディッチに案内を頼んで私達は街を散策することになった。

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