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アストラルエデン 〜最弱なわたしの魔力譲渡に、最強の乙女達が群がる理由〜  作者: 植物めんじゅ
2章 極楽浄土に君臨せし破壊の修羅

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第59話 続・更衣室での秘事後編

「はぁ!? ちょっと、何でウチの名前が出るわけ!? あたしはそういうの、マジでいいから!」


 加恋さんはバッと数歩後退し、顔を真っ赤にして手を左右に振った。だけど、そのオレンジの瞳は激しく潤み、彼女の細い肩は、副作用によるアストラル細胞の飢餓で、小刻みにガタガタと震えていた。


「でも、加恋さん。……身体、すごく辛そうですよ?」


 わたしが一歩近寄ると、加恋さんは観念したように、泣きそうな顔で自分の胸元をぎゅっと掴んだ。


「……っ。胸の奥が、ちょっとズキズキして、お腹の奥が熱いだけで……別に、我慢、できるし……」


「我慢したら、もっと辛くなります。……今のうちに、終わらせちゃいましょう?」


「うぅぅーー。……もう、分かったわよ! ただし、軽く、だからね! 本当に、ちょこんと唇を合わせるだけだから!」


「はい。すぐ終わらせますから、目を閉じて、力を抜いてください」


 わたしは一歩距離を詰め、加恋さんの白くて細い、震える両肩にそっと手を置いた。加恋さんは、ギュッと目を閉じ、まるで死刑宣告を待つ罪人のように、その長いまつ毛を震わせている。わたしはそっと顔を近づけ、彼女の桜色の唇に、約束通り「チュッ」と触れるだけの、軽いキスをした。


 けれど。


「……加恋さん。軽く、口を開けてください」


「はぁ!? ちょっと、何言っ――んむぅっ!?」


 加恋さんが驚いて目を開け、文句を言おうとしたその一瞬の隙。わたしは、彼女の口内に、躊躇うことなく自らの舌を滑り込ませた。


「ひゃうぅぅっ!?」


 加恋さんの体が、弾かれたようにビクンと跳ねた。


「……っ、ん……んぅ!」


 初めて体験するであろう同性との濃厚なディープキス。加恋さんは完全にパニックに陥り、わたしの胸を押し返そうとする。でも、彼女の体内にわたしの細胞が流れ込んだ瞬間、その両腕から一気に力が抜けてしまった。加恋さんと舌を絡め合おうとすると、慣れていないせいで、彼女は自らの舌を「きゅっ」と奥へ引っ込めてしまう。これでは効率よくわたしの唾液を彼女の体内に送り込めない。


「んんぅ……。はれんひゃん……ひたを、もっとだひて……(加恋さん、もっと舌を出して……)」


 わたしはキスの合間に、甘く、とろけるような声音で、口内から直接囁きかけた。


「こ、こう……?」


 加恋さんが、恐る恐る自らの小さな舌を口外へと突き出す。わたしはそれを逃さず、自らの舌で巧みになぞり、絡め取り、彼女の舌を口内へと招き入れると、執拗に吸い上げた。


「あ……んっ! ちゅ、じゅる……は、はぁ……♡」


 脳がぐにゃぐにゃに蕩けるような、圧倒的な快感。加恋さんの瞳が完全に焦点の合わない恍惚状態へと染まり、頬は夕焼けのように真っ赤に燃え上がる。そのあまりにも官能的なキスの水音が、更衣室にジュルジュルと生々しく響き渡る。チラリと横目で見ると、玲香さんと望愛さんが、その様子を、唾を呑み込みながらギラギラとした熱い視線で見つめている。そのギャラリーの存在すら、今の加恋さんには意識に入らない。


「ふあぁ……っ、は、はぁ……」


 ようやく唇を離した瞬間、加恋さんは腰の力が完全に抜け、その場へ崩れ落ちるようにしてへたり込んでしまった。口元を細い手で覆い、肩でハァハァと激しく息を吐きながら、涙目でわたしを睨み上げてくる。


「あんた……、キス、上手すぎ……。そうやって、玲香センパイや、望愛を、堕としたんだ……っ」


「誤解です、加恋さん! わたしはただ、治療したくて……!」


 慌てて弁明すると、玲香さんが気まずそうに目を逸らしながら呟いた。


「……優奈。さすがに今のは、刺激的というか……見ているこちらまで、疼いてくるようなものだったぞ」


「そうね……。見てるこっちが堪らなくなるような、すごくエッチなキスだったわ、優奈さん」


 望愛さんも熱っぽい吐息を漏らす。


「優奈の、エッチ……」


 加恋さんにお腹の奥まで見透かされたような目で見つめられ、わたしは羞恥心で顔から火が出そうになり、両手で顔を覆った。その、熱気と羞恥に支配された更衣室に、ガラッ!! と、ノックもなしにスライドドアが勢いよく開け放たれた。


「あ! ここにいたんだー! 優奈ぁぁぁ!!」


「え? あ、明楽さん……っ!?」


 突如現れた野生児。明楽さんは、わたしを見つけるなり、弾丸のような速度でアプローチを仕掛けてきた。


「優奈ぁぁぁーーーーっ!!」


「わわっ!? きゃっ!?」


 ドンッ! と強烈な衝撃とともに、明楽さんがわたしの胸元へと全力でダイブしてきた。その小柄な体を反射的に抱っこするように受けとめると、明楽さんはわたしの胸の中に、その顔を半分ほど埋め、犬のようにすりすりと何度も頭を擦りつけてきた。


「スーハー……。はぁ、優奈、すっごく良い匂いするぅ……。おっぱいも柔らかくて大きいし、僕、ずっとこうしていたいかもー!」


「あ、あの! 明楽さん!? ちょっと、近すぎます!」


「この変態が! 早く私の優奈から離れろ!」


 玲香さんが般若のような顔をして、明楽さんの首根っこを掴んで強引に引き剥がそうとする。だけど、明楽さんの誇る驚異的な馬鹿力は、玲香さんの力を以てしても全く動かない。むしろ、無理に引き剥がそうとしたせいで、わたしの私服のブラウスがピシッと嫌な音を立てて破れそうになった。


「あ、玲香さん、ダメです! お洋服が破れちゃいます!」


「くっ……! なんて奴だ……!」


 玲香さんは忌々しげに手を離し、明楽さんは「にひひ、僕の勝ちー」と嬉しそうに喉を鳴らした。


「それで、明楽さんは、何をしに更衣室へ……?」


 わたしが尋ねると、明楽さんは胸に顔を埋めたまま、当然のように告げた。


「あ、そうそう。僕さ、闘源郷(とうげんきょう)脱退して、今日から救済の祈り手(フィーリア)に加入することにしたから! よろしくねー!」


「「「「えええぇぇぇぇーーーーーーっっ!!??」」」」


 更衣室に、わたし、玲香さん、望愛さん、そしてへたり込んでいた加恋さんの、完璧に重なった絶叫が響き渡った。


「な、何のためにそんな勝手なことを! 我がギルドは、お前のような野生児を歓迎する予定などない!」


 玲香さんが鋭く問い詰める。


「えー、なんでだよー。だってさぁ、救済の祈り手(フィーリア)に入れば、優奈のスキルを僕も受け放題だしー。……何よりもさ、僕、優奈のこと、すっごく好きになっちゃったんだよね!」


「「「「はあぁぁぁーーーーーーっっ!!??」」」」


 本日二度目の、完璧な四人のハモり。


「にひひ。だからさ、これからはずぅーっと優奈と一緒にいたいなぁーって思って。ねぇ、いいでしょう? 優奈? 僕、めちゃくちゃ強いし、優奈のことを全力で、絶対に守ってあげるから。ギルド、入れて?」


 明楽さんは猫のような瞳をこれでもかと潤ませ、すがるように、そして愛らしい上目遣いを向けてきた。圧倒的な忠誠と好意の熱量。その瞳を見つめていると、断る理由など、わたしの心から消え去っていた。


「……いいですよ。これから、よろしくお願いします、明楽さん」


「本当に!? やったぁぁぁーーーー!! 優奈大好きぃ!!」


 明楽さんは子供のように大はしゃぎし、わたしの頬に「チュッ」と大きな音を立ててキスを浴びせた。


「……優奈。リーダーである君が決めたことだ、私がとやかく言うべきではないが」


 玲香さんが嫉妬に塗れたジト目で明楽さんを睨みつけた。


「……この獣が、最高に気に食わない」


「奇遇ね、玲香さん。……私もよ。今すぐ影に沈めて、二度と出てこられないようにしてあげたいわ」


 望愛さんもまた冷酷に呟く。そんな二人の殺気立つ様子をよそに、明楽さんはふにゃりとした締まりのない、幸せそうな笑顔を浮かべ、黄金の目を細めた。


「にひひ……。これからよろしくね、みんな!」


「あはは……。こちらこそ、よろしくお願いします、明楽さん」


 わたしは苦笑いしながら、彼女の髪をそっと撫でた。過去の因縁を越え、結成されたギルド救済の祈り手(フィーリア)。新しく、とんでもなくフリーダムな修羅が加わったことで、わたしの毎日は、これから前よりもずっと騒がしく、そして、とてつもなく甘く熱いものになる。そんな確かな予感と幸福を胸に、わたしは更衣室に響くみんなの騒がしい声を、愛おしく聞き入るのだった。

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