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アストラルエデン 〜最弱なわたしの魔力譲渡に、最強の乙女達が群がる理由〜  作者: 植物めんじゅ
2章 極楽浄土に君臨せし破壊の修羅

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第58話 続・更衣室での秘事前編

 プシュー、という現実の排気音が耳の奥で響き、わたしの意識は完全に現実世界の肉体へと着陸した。ダイブポッドのハッチが開くと同時に、わたしはゆっくりと上体を起こし、ヘルメット型のデバイスを外した。更衣室に移動して、全身にピッチリと吸い付いていた漆黒のラバースーツ――プラグスーツを、汗ばんだ肌から這い剥がすように脱ぎ捨てる。シャワールームの温かい湯気の中に、今日一日の過酷な緊張と、そして何よりもお腹を貫かれたあの生々しい死の幻影をすべて洗い流した。いつもの、白とピンクのフリルがあしらわれたお気に入りの私服に着替え、更衣室のベンチに腰を下ろす。隣では、玲香さんがいつも通りの気品ある動作で銀髪をブラシで整えており、望愛さんはスカートの裾を調整しながら、所在なさげに更衣室のロッカーを眺めていた。加恋さんは金髪をヘアクリップで乱暴にまとめ、長い溜息を吐いている。


「……それにしても。今回のトーナメント、結局お父様は何をしたかったのか、私にはさっぱり理解できないよ」


 玲香さんはブラシをベンチに置くと、アクアマリンの瞳に深い困惑を滲ませて、ぽつりと呟いた。


「勝手な都合で『シーカーを辞めろ』と強要し、優奈を人質に取るような大規模な大会まで開催したというのに。……最後に、あっさりと私の活動を認め、さらに優奈に頭まで下げるなど。あの冷徹な堅物の頭の中が、私には全く分からない」


 不機嫌そうに、どこか腑に落ちない様子で首を傾げる玲香さん。わたしは、彼女のそんな不器用な横顔を見つめながら、ふっと表情を和らげた。


「そうですか? ……わたしは、何となく分かりましたよ?」


「え……?」


 玲香さんが、驚いたように細い眉を跳ね上げ、わたしの方を向き直った。


「優奈は……あの血も通っていないマシンを、この短期間で理解したというのか!? 頼む、あの鉄仮面の裏で、あの男が何を企んでいたのか、私に教えてほしい」


 必死に身を乗り出してくる玲香さん。


「そ、そうですねぇ。……お義父さんは、玲香さんのことを、ただ守りたかったんだと思います」


「守る? 一体、何からだ? ……こう言っては傲慢に聞こえるかもしれないが、純粋な戦闘能力において、私はお父様より遥かに強いと自負している。私の剣が、守られる側になるなどあり得ないよ」


「あはは……。まぁ、戦闘力は玲香さんの圧倒的な大勝利ですよね」


 わたしはクスリと笑いながら、静かに言葉を続けた。


「でも、シーカーはいつ命を落としてもおかしくない、本当に危険なものです。現に、つい最近だって地上で大規模な結晶化事件がありました。……お義父さんはきっと、自分の娘がいつかあの怪物のようになって、冷たいダンジョンの底で死んでしまうんじゃないかって、それが怖くて仕方がなかったんだと思います」


「それは……」


 玲香さんの言葉が、ぴたりと止まった。


「玲香さんにスノーメビウスのクリエイティブ部門の席を用意したのも、自分の目の届く安全な場所で、笑顔で生きていてほしかったからではないでしょうか。……やり方はすごく不器用で、一方的で、おまけにわたしを景品にするなんて最低でしたけど。……それでも、あの深々としたお辞儀には、玲香さんを任せられる仲間への、本物の感謝と信頼が詰まっていたと思います」


「……お父様が、私を、心配して……?」


 玲香さんは呆然とした様子で、自らの手のひらを見つめた。


「シーカーになることを私に勧めておいて、いざとなれば危険だから辞めろなど……。本当に、随分と勝手な人だ」


 玲香さんは少しだけ口を尖らせ、プイと横を向いた。けれど、その瞳には父親という存在の不器用な愛を静かに受け入れた、温かな光が灯っていた。


「優奈さん。……お腹の具合は、本当に平気なの?」


 隣に座っていた望愛さんが心配そうにわたしの体に触れてきた。


「はい! 全然、なんともないですよ! 傷口は跡形もなく綺麗に治っていますから!」


 わたしは自分の私服の白ブラウスの上から、お腹をさすって見せた。アバターが貫通された瞬間は、とんでもない激痛が襲ってきたけど、現実世界の肉体には傷一つない。お腹の皮膚は元の滑らかな状態に戻っている。


「それなら、本当に良かったわ……。優奈さんが貫かれた瞬間、心臓が止まるかと思った。……二度と、あんな無茶はしないで」


「本当にそれな。あの時の優奈、マジで超絶かっこよかったけどさぁ」


 加恋さんが、ベンチの後ろから身を乗り出して、わたしの肩を叩きながらサムズアップして見せた。


「でも、さすがに心臓に悪すぎ。ウチらの目の前でお腹に風穴開けるとか、展開がハードコアすぎてギャルには刺激が強すぎるっての」


「心配かけてごめんなさい、加恋さん。でも、あの時はあれ以外に、明楽さんを救う方法がなかったんです」


「全く……。君はいつもそうやって無茶ばかりする」


 正面に立った玲香さんが、わたしの両肩をがっしりと掴んだ。そのアクアマリンの瞳は、生きて帰ってこられたことへの深い安堵と、そして――身体の奥底から立ち上る、あの抗いきれない渇望の熱を帯びて、じっとりと潤んでいた。それに応えるように、望愛さんのコバルトブルーの瞳も蕩け、加恋さんまでもが「あ、あの……」と、顔を真っ赤にしてソワソワと身を縮こまらせ始める。更衣室に、もわっとした、甘い熱気が立ち込め始めた。


「玲香さん、望愛さん、加恋さん……。副作用、ですね?」


「すまない、優奈。……頭では分かっているのだが、生き残れた安堵と、君への愛おしさが……もう、理性を完全に焼き切ってしまっているんだ……」


 玲香さんの熱い吐息が、わたしの首筋にかかる。


「そ、それなら……。順番で、やりましょうか。……まずは、玲香さんから」


 わたしは覚悟を決め、そっと目を閉じた。


「ん……ぅ……」


 重なったのは、これまでにないほど深く、そして狂おしいほどの愛を孕んだ、長い、長い口づけだった。玲香さんの手がわたしの腰に回り、もう片方の手が後頭部をがっしりと抱き寄せ、逃げ場を完全に塞ぐ。お互いの舌が絡み合い、唾液が混ざり合う、生々しく甘い水音が更衣室の静寂を支配する。それは、ただの副作用の治療ではなかった。生きて再びこの唇を重ね合えたという、魂の歓喜。玲香さんは貪欲にわたしを貪り、その冷たくも熱い愛の波に、成すすべもなく蕩かされていく。


「んぅ……、んん……っ」


「ぷはっ……。……落ち着きました、玲香さん?」


 唇を離し、荒い息を吐きながら尋ねると、玲香さんは顔を真っ赤に染めながら、恍惚とした表情で頷いた。


「あ、あぁ……。大分、胸の疼きが楽になったよ。ありがとう、優奈……」


「次は、私ね……んむっ」


 息を整える間もなく、正面から割り込んできた望愛さんの唇によって、わたしの口は再び塞がれた。待ちきれないといった様子で、望愛さんはわたしの背中に両腕を回し、折れそうなほど強く抱きしめてくる。


「ん……んんぅ……ちゅ、はぁ……」


 激しいキスの嵐。望愛さんの舌が、わたしの口内を執拗にかき回し、自らの熱をこれでもかと押し付けてくる。


「ひゃ、ん……っ、望愛さん……」


 このままでは、更衣室でそのまま押し倒されてしまいそうな、そんな昏い執着。わたしはなんとか彼女の肩を押さえ、ゆっくりと顔を離した。


「はぁ、はぁ……。どう、ですか? 落ち着きましたか?」


「ええ……。優奈さんのキス、本当に甘くて、最高だわ。……私はもう大丈夫。次は、加恋さんの番ね」


 望愛さんは、艶めかしく潤んだ瞳でクスリと笑うと、背後に立っていた加恋さんへと視線を送った。

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