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私、オリヴィア・クローデルについて



「このクエスト、ギルバートさんひとりで充分じゃないですか」



 依頼内容を確認すれば農作物を荒らす魔物の駆除依頼。



「そうだな」


「何で私まで巻き込むんですか」


「いいから歩け、置いてくぞ」


「〜〜理不尽!!!」



 そう。

 この流れがここ一週間の私とギルバートさんの日常になりつつあった。





 私、オリヴィア・クローデルとして生まれてから18年。


 人生の大きな転機となった出来事が2回ある。


 まずは12歳の頃、王城勤めの兄に会いに来た王都の冒険者ギルドの前で困っていた老婦人を助けている前世の推しを見つけた時。

 その瞬間、頭の中に前世の記憶が流れ込んできた。

 推しへの愛は次元を超えるらしい。BIG LOVE。


 オタクに推しを語らせると長いのでこの話はここで一旦割愛させていただく。



 そしてもうひとつ。


 私の人生を変えた最初の出来事は5歳の頃だった。



 当時の私は今よりずっと小さくて、今よりもっと世間知らずだった。

 甘いお菓子と母の膝が大好きな、どこにでもいる子ども。


 そんなある日、私が住む辺境伯領と隣国、軍事国家ヴァルドレイク帝国との国境沿いに設置されている巨大結界防御壁が大きく不安定になった。

 原因はヴァルドレイク側からの嫌がらせのような度重なる攻撃によるもの。

 当然父と母、兄に王都から魔術師たちも集まる大騒動になった。



 大人たちみんな巨大な結界の壁を見上げている。



 母に抱っこされながらも幼いながらに普段とは違うひりついた空気を感じていると、どこかから今にも消えそうな、どこか切羽詰まった声が耳に入ってきた。



「いやだー!」

「くるしいよー!」

「あっちいけー!」

「おすなー!」



 途切れ途切れだった声は段々ハッキリと聞こえてくる。


 声の元はみんなが見つめている大きな壁の方で、その壁のところで手乗りサイズの不思議な子たちがたくさん見えた。




 みんな押し合いへし合いしている。


 泣いている子もいる。


 怒っている子もいる。




「ねぇママ」



 母の腕の中で私は首を傾げた。



「みんないやだいやだしてる」


「……え?」



 母の返事も聞かず、堪らず私は腕の中から飛び降りた。



「ん! リィにまかしぇて!」



 てててっと結界へ駆け寄る。


 不思議な子たちの後ろの壁には、お家の囲いにも書かれている不思議な文字。

 私は見よう見まねで、何となくその文字を上からなぞる。


 すると淡い光がほわりと浮かび、ぽこん、と新しく不思議な子たちが生まれた。



「けんかしちゃだめだよー、きみはこっち」


 泣いている子を手前に連れてきてあげる。


「あなたはあっちね、あたらしい子とおててつないで、きみはこっちでくるってまわって?」


「やだー!」


「え?」


「こっちー!」


「あっちー!」


「せまいー!」


「おすなー!」


「んー...わかった!じゃあはんたいになってみる?」


「いいよー!」


 ぐちゃぐちゃに絡まり合っていた不思議な子たちを順番に並べていった。



 不思議なことに、並び替える毎に術式が綺麗に整っていく。


 やがて、不安定に揺れていた結界が静かに安定した。




 その様子を見て私はとても満足な気持ちになって頷く。


「みんなにこにこ、嬉しいねぇ」


 綺麗に並んだ子たちを見て、にぱっと笑う。


 その後ろで、王国屈指の魔術師たちが言葉を失っていた。




「……今、何をしたんだ?」



 誰かが呟いた。



「あんなに壊れかけていた術式が……修復されている」



 黒いローブを着たおじさんが大きな壁に書かれた不思議な文字を覗き込む。



「いや、これは修復どころの騒ぎじゃない......再構築に近い」



 その言葉に母は青ざめた顔で私を抱き上げた。


「オリヴィア!」


「ママ!みんななかよしになったよ!」



 母がひとつ息を飲んだ音がした。



「みんなおててつないでいいこ!」


「...貴女には何が見えてるの?」



 悲しそうに言われた言葉の意味がわからなくて腕の中で私は首を傾げた。


 ちらりと不思議な子たちの方を見ると、さっき助けた子が数匹近寄ってきて、母の足元でギャーギャー騒ぎ出す。



「なまえー!」

「なまえー!」

「おしえろー!」



「...なまえ?おりびあ!みんな、りびっていうよ!」



「りびー!」

「りびー!」

「あそぼー!」



 母経由で私の肩までよじ登ってきた不思議な子たち。


「こんにちは!いいよ、いっしょにあそぼ、じゅつしきちゃん!」



 こうして私と術式ちゃんはともだちになる。





 そして、この日を境に、私は少しだけ有名になった。



 結界姫。




 それが私に付けられた二つ名だった。


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